(あ、あ、あの、あの……)
最早もぞもぞ動くことすらできなくなり、しかも返事が思いつかず、なす術がなくなる。
だってそんな、ホントに昨日会ったばっかりだし、
こんなことになりそうな雰囲気も微塵もなかったし、しかも僕カラスだし。
すると、香さんが腕を解いて僕を地面に降ろした。
「……やっぱり変だよね、ごめん。困るよね。迷惑だよね。急にこんな……あはは」
そう力なく笑うと、香さんは歩き出した。いつもと違って僕に手を差し伸べずに。
(あの……)
僕は降ろされたその場で呼び止めてみる。けど、香さんは立ち止まってくれない。
立ち止まる気がないのかもしれないけど、もしかしたら聞こえなかっただけかもしれない。
でももし立ち止まって振り返ってくれたとしても、僕はなんて言えばいい?
香さんは僕を好きだと言った。じゃあ僕は? 僕は香さんのことをどう思ってるの?
そう考えてるうちに、香さんの姿は見えなくなってしまった。
……どうしよう。
「あ、紅楼くん……だよね?」
翼があることも忘れてとことこ歩いて公園に戻ると、香さんが土管の上に座っていた。
(ええ。なんとなく……戻ってきちゃいました)
戻ってきたものの、答えはまだ出ていない。
……「戻ってきた」か、まるでここが家みたいな言い方だな。昨日ここで寝ただけなのに。
「本当にごめんね。
一緒に暮らそうって言ったり、紅楼くんのこと大笑いしたり、変なこと言って困らせたり。
……わがまま放題だね、私」
(いえ、別にそれが嫌なわけじゃないんです。ただその、驚いてしまって)
香さんが嫌いになったわけじゃない。じゃなきゃ僕はここに来ていない。
それどころか、ここに香さんが居てくれてほっとしている。
あのままずっと見つからなかった、なんて後味が悪すぎるし。
ここに香さんが居なかったら、僕はきっと空を飛んででも探していただろう。
くるんだ毛布を担いだ女の子なんて、目立つからすぐ見つかるだろうけど。
香さんが悲しげに笑いながら僕を見下ろす。
「やっぱり優しいね、紅楼くんは。普通は驚いただけで済まないと思うよ?
私が逆の立場だったら、怒ってもうここには来ないかも」
普通は……来ないのか。じゃあここに来た僕は普通じゃないのかな。
ならどう普通じゃないの? 僕はなんでここに居るの?
空を飛んででも探して、見つけた後はどうするの?
……あ、そうか。僕が「戻ってきた」のは公園じゃなくて、香さんの居るところだったのか。
そっか、僕が戻る場所はそこだったのか。なら……
(でも僕はここに来ましたし、怒ってもいません。だって、香さんが好きだから)
「どうかな?」
「いいんじゃないですか? って言ってもまだまだページ残ってますけど」
「んふふ、この後実はねー」
「言わないでくださいよ! 自分で読みますから!」
「頑張ってねー」
「でもこれ登場人物二人だけなんだし、
女の子視点じゃなくて三人称視点でもよかったんじゃないですか?
カラスのほうの心情を書き込んでもそんなに文章量は増えないと思いますよ?」
「ん? だって私女の子だし、男の子の心情なんて解らないんだもん」
「キャラ動かすんならその辺も考えてるでしょうに……面倒臭かったんですよね、要するに」
「む。じゃあきみが書くときにそうしなよ。……ああ、でもこの後の展開的に」
「言わなくていいですって! ……ふう、危ない危ない。
文芸部員ならそのくらい気を遣ってくださいよ先輩」
「こういうのってさー、先を知ってたら話したくならない? なるよね? なろうよー」
「先を知るどころか全部知ってるでしょ。先輩が自分で書いたんだから」
「えっへっへー。
じゃあきみが書いた分を私が読む時、きみはひとっことも口利いちゃ駄目だよ?」
「先輩じゃないんですからその辺はわきまえてますよ」
「むー。じゃあほら、続き続き。本当に黙ってられるか早く見たいし」
「あ、その前にちょっとトイレ行ってきます」
「そう? じゃあさ、ついでに何か飲み物買ってきてよ。はい百二十円」
「知ってます? 水分は本にとって大敵なんですよ?」
「じゃあさ、人間の体の…………殆どがその水分ってことは知ってるかな?」
「知ってますよ。だいたい七十パーセントですよね」
「か、可愛くないなあ……」
「ジュースはちゃんと買ってきますよ。何がいいですか?」
「コーラ」
「好きですねえ。太りますよ? カロリーゼロのやつにしときましょうか?」
「よけーなお世話。まああるやつならなんでもいいけどねー」
「じゃ、行ってきます」
「行ってらっしゃーい」
カラスが鳴く、夕暮れ時。
最早もぞもぞ動くことすらできなくなり、しかも返事が思いつかず、なす術がなくなる。
だってそんな、ホントに昨日会ったばっかりだし、
こんなことになりそうな雰囲気も微塵もなかったし、しかも僕カラスだし。
すると、香さんが腕を解いて僕を地面に降ろした。
「……やっぱり変だよね、ごめん。困るよね。迷惑だよね。急にこんな……あはは」
そう力なく笑うと、香さんは歩き出した。いつもと違って僕に手を差し伸べずに。
(あの……)
僕は降ろされたその場で呼び止めてみる。けど、香さんは立ち止まってくれない。
立ち止まる気がないのかもしれないけど、もしかしたら聞こえなかっただけかもしれない。
でももし立ち止まって振り返ってくれたとしても、僕はなんて言えばいい?
香さんは僕を好きだと言った。じゃあ僕は? 僕は香さんのことをどう思ってるの?
そう考えてるうちに、香さんの姿は見えなくなってしまった。
……どうしよう。
「あ、紅楼くん……だよね?」
翼があることも忘れてとことこ歩いて公園に戻ると、香さんが土管の上に座っていた。
(ええ。なんとなく……戻ってきちゃいました)
戻ってきたものの、答えはまだ出ていない。
……「戻ってきた」か、まるでここが家みたいな言い方だな。昨日ここで寝ただけなのに。
「本当にごめんね。
一緒に暮らそうって言ったり、紅楼くんのこと大笑いしたり、変なこと言って困らせたり。
……わがまま放題だね、私」
(いえ、別にそれが嫌なわけじゃないんです。ただその、驚いてしまって)
香さんが嫌いになったわけじゃない。じゃなきゃ僕はここに来ていない。
それどころか、ここに香さんが居てくれてほっとしている。
あのままずっと見つからなかった、なんて後味が悪すぎるし。
ここに香さんが居なかったら、僕はきっと空を飛んででも探していただろう。
くるんだ毛布を担いだ女の子なんて、目立つからすぐ見つかるだろうけど。
香さんが悲しげに笑いながら僕を見下ろす。
「やっぱり優しいね、紅楼くんは。普通は驚いただけで済まないと思うよ?
私が逆の立場だったら、怒ってもうここには来ないかも」
普通は……来ないのか。じゃあここに来た僕は普通じゃないのかな。
ならどう普通じゃないの? 僕はなんでここに居るの?
空を飛んででも探して、見つけた後はどうするの?
……あ、そうか。僕が「戻ってきた」のは公園じゃなくて、香さんの居るところだったのか。
そっか、僕が戻る場所はそこだったのか。なら……
(でも僕はここに来ましたし、怒ってもいません。だって、香さんが好きだから)
「どうかな?」
「いいんじゃないですか? って言ってもまだまだページ残ってますけど」
「んふふ、この後実はねー」
「言わないでくださいよ! 自分で読みますから!」
「頑張ってねー」
「でもこれ登場人物二人だけなんだし、
女の子視点じゃなくて三人称視点でもよかったんじゃないですか?
カラスのほうの心情を書き込んでもそんなに文章量は増えないと思いますよ?」
「ん? だって私女の子だし、男の子の心情なんて解らないんだもん」
「キャラ動かすんならその辺も考えてるでしょうに……面倒臭かったんですよね、要するに」
「む。じゃあきみが書くときにそうしなよ。……ああ、でもこの後の展開的に」
「言わなくていいですって! ……ふう、危ない危ない。
文芸部員ならそのくらい気を遣ってくださいよ先輩」
「こういうのってさー、先を知ってたら話したくならない? なるよね? なろうよー」
「先を知るどころか全部知ってるでしょ。先輩が自分で書いたんだから」
「えっへっへー。
じゃあきみが書いた分を私が読む時、きみはひとっことも口利いちゃ駄目だよ?」
「先輩じゃないんですからその辺はわきまえてますよ」
「むー。じゃあほら、続き続き。本当に黙ってられるか早く見たいし」
「あ、その前にちょっとトイレ行ってきます」
「そう? じゃあさ、ついでに何か飲み物買ってきてよ。はい百二十円」
「知ってます? 水分は本にとって大敵なんですよ?」
「じゃあさ、人間の体の…………殆どがその水分ってことは知ってるかな?」
「知ってますよ。だいたい七十パーセントですよね」
「か、可愛くないなあ……」
「ジュースはちゃんと買ってきますよ。何がいいですか?」
「コーラ」
「好きですねえ。太りますよ? カロリーゼロのやつにしときましょうか?」
「よけーなお世話。まああるやつならなんでもいいけどねー」
「じゃ、行ってきます」
「行ってらっしゃーい」
カラスが鳴く、夕暮れ時。
短編もいいですね
楽しませてもらいました
ってことで続きます。さあ、この状況から何がどう続くのか!?
乞う御期待! ……なんて。
まあまったり見ててやってください。