それから暫らく眠っているのか眠っていないのか、
自分でも解らなくなるくらいぼんやりとした、でも心地よくもある時間が流れた。
そして地鳴りのような音と、
「紅楼くん、そろそろ起きないとまた大変なことになっちゃうよ?」
と言う香さんの声で目を覚ますと再び自由時間が始まったらしく、
子ども達が大挙して外へと飛び出して来た。
(ん……今、何時くらいなんでしょう?)
すると香さんは校舎に取り付けられている時計を見て、
「一時だよ。お昼ごはんが終わったってところかな?」
(そうですか。結構寝てたんですね……
では僕もそろそろ食事にします。お腹も空いてきましたし)
むっくりと体を起こして、飛び立とうとする。すると、
「あ、場所変える?」
と香さん。でも、
(いえ、ここで待っててください。
この近くでも虫くらい居るでしょうし、僕が虫食べてるところなんて見たくないでしょう?)
僕がそう言うと香さんの表情が引きつる。虫嫌いって言ってましたもんね。
「あ……う、うん。ごめんね。虫はどうしても駄目で……」
その引きつった表情のまま、手を合わせて無理に笑う。
まあ別にその辺の生ゴミでもいいんですけど、僕もここに帰ってくるつもりですし。
なんだかんだでここ、楽しいですしね。
(では、いってきます)
「……すぐ帰ってきてね」
(へ? あ、はい)
いってらっしゃいかと思いきや、予想外。その不安そうな顔も含めて。
この後何か用事でもあるんだろうか?
とにかく幼稚園から飛び立ち、フェンスの向こう側へ。
そしてそのフェンスの根元に生えた雑草からコツコツと虫を食べて回る。
さすがに幼稚園側の草は引かれていて、虫は居そうにないからね。
そしてフェンス越しに香さんのほうを見ると、
周りで子どもがはしゃいでいると言うのにじっと僕のほうをみつめていた。
(早めに切り上げよう)
香さんのそんな様子に、僕はそう決めた。
「ごめんね、急かしちゃったよね」
再びあの小さい山の、香さんの近くに降り立った僕にそう謝る。
(いえ、それはいいんですけど。それより、どうかしました? 何か用事でも?)
すると香さんは急に僕を持ち上げ、抱きしめた。以前よりも強く。
もちろん僕の姿は消え、その時たまたま隣に居た男の子が驚いて声を上げる。
「カ、カラスがきえちゃった!」
すると、後から登ってきた子がその子に尋ねる。
「どうしたの?」
「いまここにカラスがいたんだけど、パッていなくなちゃった……」
「とんでっちゃったんだよ。それよりほら、はやくはやく!」
「う、うん……」
そうして子ども達が再び遊び始めるまでの間、香さんは何も言わなかった。
だから僕から訊いてみる。
(あ、あの、一体どうしたんですか? 子どもに見られ)
「ごめんね、ごめんね紅楼くん。私、最後まで自分の都合ばっかりで……」
え? 最後? 都合? なんの話ですか?
「紅楼くんが寝てる間にね、解っちゃったの。わた、私、もうすぐ消えちゃうって」
(はい? 急に何を……?)
何を言ってるのかは解らないけど、どうやら冗談ごとではないらしい。
香さんは涙を流しだしてしまった。
「解っちゃったの。私、もう一回生まれ直すんだって。もう一回、もう一回……」
それから先は、言葉にならなかった。
ただただ僕を抱きしめて、ただただ嗚咽を漏らすだけ。
そして僕も、ただ黙っていることしかできなかった。
「……昨日」
五分、いや十分? どれだけそうしていたか解らないけど、
なんとか落ち着きを取り戻した香さんが再び口を開く。
「昨日出会って、数時間前に告白して、もうお別れだよ? こんなの、おかしいよね……」
でも僕は、そこには踏み込まない。おかしいも何も、僕たちはホントにそうだったから。
(どうしようもないんですか? その生まれ直すっていうのは、止められないんですか?)
訊かなくたって香さんの様子を見れば嫌でも解る。でも、訊かずにはいられなかった。
信じられないんじゃない。信じたくないんだ。でも、
生まれ直すも何も自分達で結論づけたじゃないか。「僕達はいつかは消えてしまう」って。
「ごめん……ごめんね。本当に、ごめんなさい……!」
「これで終わりですか? なんだか中途半端ですね」
「だから続きをきみが書くんだって。そういう企画でしょ?」
「それにしたって切りが悪いと言うか。香さん、ホントに消えちゃうんですか?」
「私の中ではそういう設定だけど」
「だったら消えるところまで書いちゃえばいいじゃないですか」
「あ、そこなんだけどさ」
「なんですか? 僕が書くんですか? そのシーンを」
「いや、飛ばして欲しいの。女の子が消えるところは」
「はい? じゃあ僕は何から書き始めたらいいんですか?」
「女の子が消えた後の紅楼くんの話。独りになって、それからどうしたか」
「また妙な注文ですね。まあいいですよ。言い出したら聞かないんでしょうし」
「じゃあ続きは明日までに書いてきてね。そろそろ帰ろっか」
「明日までって、またそんな……ここで口頭で発表したほうが楽ですよそんなんじゃ」
「えー? 今? 話思いついたの?」
「ええ。条件が条件なんで手抜きですけど。それでも聞きます?」
「うん、まあそれでもいいよ。思いついたんだったら書いてきても同じ話になるでしょ?」
「えー、おほん。それでは。
香さんが消えてしまってカラスくんは哀しみに暮れ、数日塞ぎこんだ日々を送ります。
そしてある日、雨が降ります。その時見つけたカエルに、カラスくんは乗り移ります。
『どうせ空を飛んでも探す人はもう居ない。だったらもう、翼はいらないや』
という、言ってしまえばもうどうでもいいや的な理由で。
で、次の日。雨上がりの湿った道を慣れない体でぴょんぴょん飛び跳ねていると、
髪の毛をリボンで縛って五円玉を括りつけた女の子に踏み潰されかけます。
その驚きのあまり、カエルくんは動けなくなってしまいます。腰を抜かして。
あ、その目の前には石段があるんですが、
女の子の連れの男がそこに腰掛けて話し掛けてくるわけですよ。
『変な人も居るもんだ』なんて思っていると、さっきの女の子が戻ってきます。
カエルくんは怖くなって逃げました。殺されかけましたからね。
暫らくして結局その女の子に捕まってしまいますが、
キャッチアンドリリースっぽく逃がしてもらえました」
「……なんかさ、どうでもいい話が長くない?」
「手抜きな話なんてこんなものですよ。では続きを。
このサイズは危険だと判断したカエルくんは、
もうちょっと大きい動物に乗り移ることにします。で、見つけたその大きい動物は、
真っ白な猫でした。叩き潰されそうになりつつ、なんとか乗り移ることに成功。
好きな人が消えてしまったのに、それどころじゃなくて可哀想ですね。
で、彼自身も寂しいと思うわけです。死んでから一年ずっと独りだったのに、
香さんに会ってから、独りを寂しいと思うようになっちゃったんですね。
そして、現在自分は猫。もしかしたら猫好きな人間に拾ってもらえたりするかな?
なんて思って、歩き回ってみます。しかしまあ、人気がない。
たまに通りかかってもお年寄りばかり。飼ってはもらえないだろうなと見過ごし、
若い人が通りかかるのをじっと待ちます。
そしたら、双子の女の子が通りかかるわけです。もう顔そっくりです。
『やっと見つけた!』と近寄ってみますが、
『猫やな』『可愛い~』なんてやりとりがあるだけで、拾ってくれる気配はありません。
でも彼は諦めず、二人のあとについて行きます。
そして家までついていくと懐かれたと思われたのか、飼ってみようという話になります。
そこでつけられた名前はクロ。白猫なのになんで? と思いつつ」
「『シラ』モリ『クロ』ウが白猫でクロ? できすぎじゃない?」
「それは彼自身も思いました。て言うか先に言わないでください。おほん。
とにかく無事飼ってもらえることになったクロくんは、それから結構楽しく過ごします。
香さんと別れた幼稚園になんとなく訪れた帰り道、
カエル時代に踏み潰されかけた女の子と再開したりしながら。
その女の子も悪い人ではないらしく、のちに仲良くなりますがね。
話は変わって飼い主の双子、今日香さん明日香さんと言うんですが、
二人とも同じ人を好きだったりするんですね。で、その人は今日香さんが好きなんです」
「あらまあ」
「そのことで明日香さんはちょっと悩んだりします。
クロくん相手に『これでええんかなぁクロ?』なんて相談してみたりして。
話によると、その男性も今日香さんもなかなか好きだと言い出せず、
明日香さんは邪魔をしたくなくて身を引いているらしいんですね。
だからクロくんはその男の人がちょっと気に入らなかったりします。
『好きな人が目の前に居るのに何やってんだ!』ってね。自分のこともあって。
ちょっとやなやつですね、クロくん」
「まあ仕方ないんじゃないかな」
「そうですか? まあいいや。そんなこともありましたが、
今日香さんとその男の人は付き合うようになります。
明日香さんも立ち直ってめでたしめでたしです。
クロくんはちょっと明日香さんが気になったりしますが」
「私のキャラを勝手に浮気させないよーに」
「だから『が』ですよ。クロくんも香さんのことは忘れてません。
その時でもまだ好きでした。居ないと解ってるのに辛いですね」
「うんうん」
「さてそれからもなんの変哲もない飼い猫として暮らすこと約一年、
ある日彼は気付きます。『自分もまた香さんのように生まれ直すのだ』と」
「……へえ」
「やはり香さんと同じくそれに抗うこともできず、彼は消えてしまいます。
クロと名付けられた猫を残して。そして……」
「そして?」
「その前に先輩。先輩の話の最後、飛ばした部分があるでしょ」
「ああ、女の子が消えちゃった辺りだね」
「あそこ、そのまま子ども達が帰る時間までじっとしてて、
最後に残った子が幽霊が見える体質だと気付く。そこで香さんは、その子に言うんです。
『お母さんを大事にね』って。香さんはお母さんが好きでしたからね。
それからカラスくんにこう言います。『もし本当に前世の記憶があって、
もし来世でまた会えて、しかもお互いこのことを憶えていたら、その話をしよう』
……こんな感じじゃないですか? なんとなく想像するに」
「凄いね。殆どその通りだよ」
「試しましたね? 僕が『そう』かどうか」
「……うん。ごめん」
「そんな顔しないでくださいよ。
あの時も言ったじゃないですか『ずっと笑っていてください』って。
……ただいま、香さん」
「今は藤崎薫だよ。……おかえり、紅楼くん」
「今は白森次楼ですよ」
「お互いの口調に合う年になっちゃったね。一年生さん」
「そうですね。二年生の先輩」
「あのさ」
「なんですか?」
「この記憶がなくても、多分きみのこと好きになってたから」
「そりゃあ部員二人だけですから仲良くなるのも仕方ないですよ。僕もですから」
「あはは、それもそうかもねー」
「ところで先輩」
「もうその呼び方じゃなくてもいいけど……何かな?」
「じゃあ薫さん、全部話したら家でやることなくなっちゃったんで、
薫さんの話の部分を紅楼くん視点で書いてくるってのはどうですか?」
「あ、面白そうだねそれ。そうしようそうしよう!」
カラスも鳴きやむ頃、もう一度始まる二人の話。
自分でも解らなくなるくらいぼんやりとした、でも心地よくもある時間が流れた。
そして地鳴りのような音と、
「紅楼くん、そろそろ起きないとまた大変なことになっちゃうよ?」
と言う香さんの声で目を覚ますと再び自由時間が始まったらしく、
子ども達が大挙して外へと飛び出して来た。
(ん……今、何時くらいなんでしょう?)
すると香さんは校舎に取り付けられている時計を見て、
「一時だよ。お昼ごはんが終わったってところかな?」
(そうですか。結構寝てたんですね……
では僕もそろそろ食事にします。お腹も空いてきましたし)
むっくりと体を起こして、飛び立とうとする。すると、
「あ、場所変える?」
と香さん。でも、
(いえ、ここで待っててください。
この近くでも虫くらい居るでしょうし、僕が虫食べてるところなんて見たくないでしょう?)
僕がそう言うと香さんの表情が引きつる。虫嫌いって言ってましたもんね。
「あ……う、うん。ごめんね。虫はどうしても駄目で……」
その引きつった表情のまま、手を合わせて無理に笑う。
まあ別にその辺の生ゴミでもいいんですけど、僕もここに帰ってくるつもりですし。
なんだかんだでここ、楽しいですしね。
(では、いってきます)
「……すぐ帰ってきてね」
(へ? あ、はい)
いってらっしゃいかと思いきや、予想外。その不安そうな顔も含めて。
この後何か用事でもあるんだろうか?
とにかく幼稚園から飛び立ち、フェンスの向こう側へ。
そしてそのフェンスの根元に生えた雑草からコツコツと虫を食べて回る。
さすがに幼稚園側の草は引かれていて、虫は居そうにないからね。
そしてフェンス越しに香さんのほうを見ると、
周りで子どもがはしゃいでいると言うのにじっと僕のほうをみつめていた。
(早めに切り上げよう)
香さんのそんな様子に、僕はそう決めた。
「ごめんね、急かしちゃったよね」
再びあの小さい山の、香さんの近くに降り立った僕にそう謝る。
(いえ、それはいいんですけど。それより、どうかしました? 何か用事でも?)
すると香さんは急に僕を持ち上げ、抱きしめた。以前よりも強く。
もちろん僕の姿は消え、その時たまたま隣に居た男の子が驚いて声を上げる。
「カ、カラスがきえちゃった!」
すると、後から登ってきた子がその子に尋ねる。
「どうしたの?」
「いまここにカラスがいたんだけど、パッていなくなちゃった……」
「とんでっちゃったんだよ。それよりほら、はやくはやく!」
「う、うん……」
そうして子ども達が再び遊び始めるまでの間、香さんは何も言わなかった。
だから僕から訊いてみる。
(あ、あの、一体どうしたんですか? 子どもに見られ)
「ごめんね、ごめんね紅楼くん。私、最後まで自分の都合ばっかりで……」
え? 最後? 都合? なんの話ですか?
「紅楼くんが寝てる間にね、解っちゃったの。わた、私、もうすぐ消えちゃうって」
(はい? 急に何を……?)
何を言ってるのかは解らないけど、どうやら冗談ごとではないらしい。
香さんは涙を流しだしてしまった。
「解っちゃったの。私、もう一回生まれ直すんだって。もう一回、もう一回……」
それから先は、言葉にならなかった。
ただただ僕を抱きしめて、ただただ嗚咽を漏らすだけ。
そして僕も、ただ黙っていることしかできなかった。
「……昨日」
五分、いや十分? どれだけそうしていたか解らないけど、
なんとか落ち着きを取り戻した香さんが再び口を開く。
「昨日出会って、数時間前に告白して、もうお別れだよ? こんなの、おかしいよね……」
でも僕は、そこには踏み込まない。おかしいも何も、僕たちはホントにそうだったから。
(どうしようもないんですか? その生まれ直すっていうのは、止められないんですか?)
訊かなくたって香さんの様子を見れば嫌でも解る。でも、訊かずにはいられなかった。
信じられないんじゃない。信じたくないんだ。でも、
生まれ直すも何も自分達で結論づけたじゃないか。「僕達はいつかは消えてしまう」って。
「ごめん……ごめんね。本当に、ごめんなさい……!」
「これで終わりですか? なんだか中途半端ですね」
「だから続きをきみが書くんだって。そういう企画でしょ?」
「それにしたって切りが悪いと言うか。香さん、ホントに消えちゃうんですか?」
「私の中ではそういう設定だけど」
「だったら消えるところまで書いちゃえばいいじゃないですか」
「あ、そこなんだけどさ」
「なんですか? 僕が書くんですか? そのシーンを」
「いや、飛ばして欲しいの。女の子が消えるところは」
「はい? じゃあ僕は何から書き始めたらいいんですか?」
「女の子が消えた後の紅楼くんの話。独りになって、それからどうしたか」
「また妙な注文ですね。まあいいですよ。言い出したら聞かないんでしょうし」
「じゃあ続きは明日までに書いてきてね。そろそろ帰ろっか」
「明日までって、またそんな……ここで口頭で発表したほうが楽ですよそんなんじゃ」
「えー? 今? 話思いついたの?」
「ええ。条件が条件なんで手抜きですけど。それでも聞きます?」
「うん、まあそれでもいいよ。思いついたんだったら書いてきても同じ話になるでしょ?」
「えー、おほん。それでは。
香さんが消えてしまってカラスくんは哀しみに暮れ、数日塞ぎこんだ日々を送ります。
そしてある日、雨が降ります。その時見つけたカエルに、カラスくんは乗り移ります。
『どうせ空を飛んでも探す人はもう居ない。だったらもう、翼はいらないや』
という、言ってしまえばもうどうでもいいや的な理由で。
で、次の日。雨上がりの湿った道を慣れない体でぴょんぴょん飛び跳ねていると、
髪の毛をリボンで縛って五円玉を括りつけた女の子に踏み潰されかけます。
その驚きのあまり、カエルくんは動けなくなってしまいます。腰を抜かして。
あ、その目の前には石段があるんですが、
女の子の連れの男がそこに腰掛けて話し掛けてくるわけですよ。
『変な人も居るもんだ』なんて思っていると、さっきの女の子が戻ってきます。
カエルくんは怖くなって逃げました。殺されかけましたからね。
暫らくして結局その女の子に捕まってしまいますが、
キャッチアンドリリースっぽく逃がしてもらえました」
「……なんかさ、どうでもいい話が長くない?」
「手抜きな話なんてこんなものですよ。では続きを。
このサイズは危険だと判断したカエルくんは、
もうちょっと大きい動物に乗り移ることにします。で、見つけたその大きい動物は、
真っ白な猫でした。叩き潰されそうになりつつ、なんとか乗り移ることに成功。
好きな人が消えてしまったのに、それどころじゃなくて可哀想ですね。
で、彼自身も寂しいと思うわけです。死んでから一年ずっと独りだったのに、
香さんに会ってから、独りを寂しいと思うようになっちゃったんですね。
そして、現在自分は猫。もしかしたら猫好きな人間に拾ってもらえたりするかな?
なんて思って、歩き回ってみます。しかしまあ、人気がない。
たまに通りかかってもお年寄りばかり。飼ってはもらえないだろうなと見過ごし、
若い人が通りかかるのをじっと待ちます。
そしたら、双子の女の子が通りかかるわけです。もう顔そっくりです。
『やっと見つけた!』と近寄ってみますが、
『猫やな』『可愛い~』なんてやりとりがあるだけで、拾ってくれる気配はありません。
でも彼は諦めず、二人のあとについて行きます。
そして家までついていくと懐かれたと思われたのか、飼ってみようという話になります。
そこでつけられた名前はクロ。白猫なのになんで? と思いつつ」
「『シラ』モリ『クロ』ウが白猫でクロ? できすぎじゃない?」
「それは彼自身も思いました。て言うか先に言わないでください。おほん。
とにかく無事飼ってもらえることになったクロくんは、それから結構楽しく過ごします。
香さんと別れた幼稚園になんとなく訪れた帰り道、
カエル時代に踏み潰されかけた女の子と再開したりしながら。
その女の子も悪い人ではないらしく、のちに仲良くなりますがね。
話は変わって飼い主の双子、今日香さん明日香さんと言うんですが、
二人とも同じ人を好きだったりするんですね。で、その人は今日香さんが好きなんです」
「あらまあ」
「そのことで明日香さんはちょっと悩んだりします。
クロくん相手に『これでええんかなぁクロ?』なんて相談してみたりして。
話によると、その男性も今日香さんもなかなか好きだと言い出せず、
明日香さんは邪魔をしたくなくて身を引いているらしいんですね。
だからクロくんはその男の人がちょっと気に入らなかったりします。
『好きな人が目の前に居るのに何やってんだ!』ってね。自分のこともあって。
ちょっとやなやつですね、クロくん」
「まあ仕方ないんじゃないかな」
「そうですか? まあいいや。そんなこともありましたが、
今日香さんとその男の人は付き合うようになります。
明日香さんも立ち直ってめでたしめでたしです。
クロくんはちょっと明日香さんが気になったりしますが」
「私のキャラを勝手に浮気させないよーに」
「だから『が』ですよ。クロくんも香さんのことは忘れてません。
その時でもまだ好きでした。居ないと解ってるのに辛いですね」
「うんうん」
「さてそれからもなんの変哲もない飼い猫として暮らすこと約一年、
ある日彼は気付きます。『自分もまた香さんのように生まれ直すのだ』と」
「……へえ」
「やはり香さんと同じくそれに抗うこともできず、彼は消えてしまいます。
クロと名付けられた猫を残して。そして……」
「そして?」
「その前に先輩。先輩の話の最後、飛ばした部分があるでしょ」
「ああ、女の子が消えちゃった辺りだね」
「あそこ、そのまま子ども達が帰る時間までじっとしてて、
最後に残った子が幽霊が見える体質だと気付く。そこで香さんは、その子に言うんです。
『お母さんを大事にね』って。香さんはお母さんが好きでしたからね。
それからカラスくんにこう言います。『もし本当に前世の記憶があって、
もし来世でまた会えて、しかもお互いこのことを憶えていたら、その話をしよう』
……こんな感じじゃないですか? なんとなく想像するに」
「凄いね。殆どその通りだよ」
「試しましたね? 僕が『そう』かどうか」
「……うん。ごめん」
「そんな顔しないでくださいよ。
あの時も言ったじゃないですか『ずっと笑っていてください』って。
……ただいま、香さん」
「今は藤崎薫だよ。……おかえり、紅楼くん」
「今は白森次楼ですよ」
「お互いの口調に合う年になっちゃったね。一年生さん」
「そうですね。二年生の先輩」
「あのさ」
「なんですか?」
「この記憶がなくても、多分きみのこと好きになってたから」
「そりゃあ部員二人だけですから仲良くなるのも仕方ないですよ。僕もですから」
「あはは、それもそうかもねー」
「ところで先輩」
「もうその呼び方じゃなくてもいいけど……何かな?」
「じゃあ薫さん、全部話したら家でやることなくなっちゃったんで、
薫さんの話の部分を紅楼くん視点で書いてくるってのはどうですか?」
「あ、面白そうだねそれ。そうしようそうしよう!」
カラスも鳴きやむ頃、もう一度始まる二人の話。
しんみりした感じのいい話だね。
いやホント、良かったです。
実は香さん、短い物のほうの「母」の彼女だったりします。
最初は紅楼くんがクロになってから、
短い物の各話のキャラとちょろちょろ絡む予定だったんですが、
あまりに話が纏まりなくなってしまうのでやめました。
単に纏める能力に欠けていた、という説も無きにしも非ずですがね。
何はともあれ、
最後まで読んでくださった方々、どうもありがとうございました。
そしてこれからもどうぞよろしく。
これからも頑張って下さ~い!
日付を見て頂ければ分かる通り、この作品を書いてから5.5年経った現在もまだ頑張ってたりします。
さすがに頑張り過ぎのような気もしますが、止めどころは未だに見付かっていないので、ならば特に問題はないのでしょう。
というわけでこれからも変わらずに頑張ります。
今後ともどうぞ宜しく。