「あー、ごめん、皆」
自らの上に圧し掛かっている今日香の背中にぽんと手を置くと、
空いたほうの手でぽりぽりと頬を掻く明日香。
「御覧の通りで……見送りはちょっと無理そうや。時間とらせてごめんな。また明日」
頬の手を持ち上げ、手を振る。
今日香も手を振るが、顔は明日香の胸にうずめたままだし挨拶もない。
もっとも、とても喋れる状態ではないのだろうが。
「また明日、二人とも」
岩白が立ち上がると、俺とセンもそれに続く。
「また明日」
「また明日。明日香さん、今日香さん。あ、あとクロちゃんも」
挨拶されたクロは、まるで手を振り返すように尻尾を空中でふよふよさせていた。
結局俺達が部屋を出る瞬間まで姉妹の状況は変わらず、
今日香の泣き声に見送られてドアを閉めるのだった。
「あぁらぁ? 皆さんもうお帰りぃ?」
階段を降りると、ちょうど階段を上ろうとしていたお袋さんと出くわした。
「はい、お邪魔しました」
先頭を歩いていた岩白が頭を下げ、残り二人も同じく頭を下げる。
「なんだかぁ、上から今日香のぉ泣き声がぁするんやけどぉ……?」
頬に手を当て、スローで首を傾げるお袋さん。
……さすが母親。見てもないのに泣いてるのが今日香って解るのか。
上の状況を知らなかったら、この声が明日香か今日香か俺には多分解らない。
「あー、えっとそれは……」
気まずそうに返答に詰まる岩白。そりゃああいう状況とは言え、
泣いてる友達をほったらかして降りてきたわけだから体裁は悪い。
「あぁあ、皆さんが泣かしたなんてぇ思ってへんからぁ、気にせんとってなぁ?」
と言って手をぱぁたぱぁたと振る。その手もまたスローなので、
否定の意味というよりはさようならと言っているように見えた。
まあこれから帰るわけだからどっちでも合ってるっちゃあ合ってるんだけど。
「あの、お母さん」
最後尾のセンがお袋さんに話し掛けた。……本人相手にその呼び方はどうかと思うぞ。
「んん? なんですかぁ?」
でも特に途惑うような仕草も見せず、にっこりと微笑みを返す。
「あの、お二人の様子を見に行くならそっと覗くだけにしてあげてください。
その……今お二人、いい感じなんです」
合ってるような合ってないような言い方だが、まあいいや。いいとして、
センのお願いを聞いたお袋さんのにっこり度は、さらに増した。
「ありがとう。それじゃぁあ、こぉっそり覗くだけにしとこうかなぁ。うふふ~。
皆さん、是非またぁ遊びに来てくださいねぇ」
「「「お邪魔しました」」」
「あー、久しぶりにいろいろと楽しかったわ。
やっぱりたまには出かけてみるのもいいわねー」
外に出るとすぐ、寝起きのような伸びをする岩白。
「クロともたっぷり遊べたしな」
「も、もうそれはほっといてよ……」
そして俺の自転車の後方で、俺が乗るのを待っているセン。
「明日香さん、凄いですよね。
そりゃあ寛さんと今日香さんは両想いだったですけど、自分から身を引くなんて……」
確かになぁ。明日香は諦めずにアピールする度胸がなかったって言ってたけど、
だからってこっちの選択が自分にとって楽ってわけでもないし。
むしろ後に引きずる分、辛かったりするんじゃないだろうか?
まあどっちが正解だとか正しいだとか言うつもりもないし、
言えるほど達観した人間でもないけど、
度胸がないって卑下するほどのこともないと思うけどな。
とごちゃごちゃ言うのも気が引けたので、
「そうだな」
と同意だけしておいた。
自転車に乗って帰路につくと横に並んだ岩白が、
「あんただったらどうする? 日永君が他の人と両想いだったら」
またいらんことを言い始めた。クロ話の意趣返しか?
「う~ん、そうですねぇ……おろおろしてどうにもできない……かな?」
「『隙を見て飛び掛かる』ぐらい言うかと思ったが、それならそっちのほうがまだましだな。
やられる側としては」
「むぅ~」
見えてないけど膨れるな。いじわるじゃなくて本音だ。余計悪い? 知るか。
「じゃあ日永君は? センが誰かと両想いだったらどうする?」
「その男に『気の毒なこった』って言って肩を叩いてやる」
「うぅ~……」
かと言って、逆に俺がそれを言われる立場だったら怒るけどな。
自らの上に圧し掛かっている今日香の背中にぽんと手を置くと、
空いたほうの手でぽりぽりと頬を掻く明日香。
「御覧の通りで……見送りはちょっと無理そうや。時間とらせてごめんな。また明日」
頬の手を持ち上げ、手を振る。
今日香も手を振るが、顔は明日香の胸にうずめたままだし挨拶もない。
もっとも、とても喋れる状態ではないのだろうが。
「また明日、二人とも」
岩白が立ち上がると、俺とセンもそれに続く。
「また明日」
「また明日。明日香さん、今日香さん。あ、あとクロちゃんも」
挨拶されたクロは、まるで手を振り返すように尻尾を空中でふよふよさせていた。
結局俺達が部屋を出る瞬間まで姉妹の状況は変わらず、
今日香の泣き声に見送られてドアを閉めるのだった。
「あぁらぁ? 皆さんもうお帰りぃ?」
階段を降りると、ちょうど階段を上ろうとしていたお袋さんと出くわした。
「はい、お邪魔しました」
先頭を歩いていた岩白が頭を下げ、残り二人も同じく頭を下げる。
「なんだかぁ、上から今日香のぉ泣き声がぁするんやけどぉ……?」
頬に手を当て、スローで首を傾げるお袋さん。
……さすが母親。見てもないのに泣いてるのが今日香って解るのか。
上の状況を知らなかったら、この声が明日香か今日香か俺には多分解らない。
「あー、えっとそれは……」
気まずそうに返答に詰まる岩白。そりゃああいう状況とは言え、
泣いてる友達をほったらかして降りてきたわけだから体裁は悪い。
「あぁあ、皆さんが泣かしたなんてぇ思ってへんからぁ、気にせんとってなぁ?」
と言って手をぱぁたぱぁたと振る。その手もまたスローなので、
否定の意味というよりはさようならと言っているように見えた。
まあこれから帰るわけだからどっちでも合ってるっちゃあ合ってるんだけど。
「あの、お母さん」
最後尾のセンがお袋さんに話し掛けた。……本人相手にその呼び方はどうかと思うぞ。
「んん? なんですかぁ?」
でも特に途惑うような仕草も見せず、にっこりと微笑みを返す。
「あの、お二人の様子を見に行くならそっと覗くだけにしてあげてください。
その……今お二人、いい感じなんです」
合ってるような合ってないような言い方だが、まあいいや。いいとして、
センのお願いを聞いたお袋さんのにっこり度は、さらに増した。
「ありがとう。それじゃぁあ、こぉっそり覗くだけにしとこうかなぁ。うふふ~。
皆さん、是非またぁ遊びに来てくださいねぇ」
「「「お邪魔しました」」」
「あー、久しぶりにいろいろと楽しかったわ。
やっぱりたまには出かけてみるのもいいわねー」
外に出るとすぐ、寝起きのような伸びをする岩白。
「クロともたっぷり遊べたしな」
「も、もうそれはほっといてよ……」
そして俺の自転車の後方で、俺が乗るのを待っているセン。
「明日香さん、凄いですよね。
そりゃあ寛さんと今日香さんは両想いだったですけど、自分から身を引くなんて……」
確かになぁ。明日香は諦めずにアピールする度胸がなかったって言ってたけど、
だからってこっちの選択が自分にとって楽ってわけでもないし。
むしろ後に引きずる分、辛かったりするんじゃないだろうか?
まあどっちが正解だとか正しいだとか言うつもりもないし、
言えるほど達観した人間でもないけど、
度胸がないって卑下するほどのこともないと思うけどな。
とごちゃごちゃ言うのも気が引けたので、
「そうだな」
と同意だけしておいた。
自転車に乗って帰路につくと横に並んだ岩白が、
「あんただったらどうする? 日永君が他の人と両想いだったら」
またいらんことを言い始めた。クロ話の意趣返しか?
「う~ん、そうですねぇ……おろおろしてどうにもできない……かな?」
「『隙を見て飛び掛かる』ぐらい言うかと思ったが、それならそっちのほうがまだましだな。
やられる側としては」
「むぅ~」
見えてないけど膨れるな。いじわるじゃなくて本音だ。余計悪い? 知るか。
「じゃあ日永君は? センが誰かと両想いだったらどうする?」
「その男に『気の毒なこった』って言って肩を叩いてやる」
「うぅ~……」
かと言って、逆に俺がそれを言われる立場だったら怒るけどな。
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