(有)妄想心霊屋敷

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新転地はお化け屋敷 第四章 遊びに繰り出せ全員集合! 六

2007-07-26 21:09:44 | 新転地はお化け屋敷
 ああ、でも実際は今までとあんまり変わらないでしょうね。たくさんの人と知り合う機会だったら小・中・高と今までにもあったわけですし。格別モテる人間でもなければそれを気にした事もなかったですからねえ。
「なんでみんなこっち見てるの?」
 何もなかった今までの人生の回想が一瞬で終わったとほぼ同時に栞さんがうろたえだす。みんなと言われて周りを見てみると、確かに家守さんとウェンズデーだけでなく、みんなして無言で栞さんのほうへ目を向けていた。見るだけで誰も何も言わないその様子は不気味ですらある。
 そしてそれゆえに栞さんが疑問を口にして初めて、「だるまさんが転んだ」の最中のようにジッと固まっていた場が動き出す。
「いえ、喜坂さんの仰る事ももっともだなあと感心していただけですよ。ねえ家守さん」
「そうそう。しぃちゃんにしては鋭い意見だよねー」
「なので孝一殿、大学で頑張るのであります」
「え? あ、えっとうん」
「栞、そんなに凄い事は言ってないと思うんだけどなぁ」
「お前達何をモガ」
「いらん事言うな」
 そこ。いらん事って何なのさ。


「そろそろ人、増えてきましたねー」
「そうだねー。あんまりバシャバシャできなくなっちゃったぁ」
 と暫らく紙コップのジュース飲んだりしながらのんびりしていると、不意に『ラジオ体操第一!』という掛け声とともにお馴染みの音楽が流れ始めた。これが終わればやっと復帰ですかね。背中事件から長かった。
「わざわざ、ラジオ体操なんか、流すんだな」
 音楽とともに流れる音声の指示通りに体を動かし、その動きに合わせて声を詰まらせながらそう言う大吾。まあラジオ体操自体はみんなやってるんだけどね。ウェンズデーまでしっかりやってるし。
「『死なない』、って分かってるせいか、幽霊な人達ってこういう事に、無頓着だからねー。流せばやってくれる、人もいるだろう、って事らしいよ」
「やっぱり死ななくても、そういう事って気を、つけたほうがいいんですか?」
「溺れて気絶して、誰にも気付かれなかったら、大変ですからねえ。水吸っちゃってぶよぶよ、ですよ」
「なる、ほど」
『深呼吸ー!』
 すうぅぅ、はー。この腕の動きと微妙な背伸びって意味あるのかな。
『休憩時間を、終わります』
 さて、放送の通りなのですが人が増えてまいりました。どうしましょう?
「ウォータースライダー行かない? 前は孝一くん、大失敗だったし」
 僕の事を気に掛けてくれるのは嬉しいですが、人の数はあんまり気にしないんですね。まあ大学に堂々と侵入したりまでして今更そんな事気にするのかって面も無きにしも非ずなのは否めない事もないので、
「そうですね。ただし今度はウェンズデーが一番前って事で」
「あはは、そうだね。ごめんね最初の時に気付かなくて」
「いえいえ」
 背中に突起が向けられている事を向けられた本人が落下開始まで気付かなかったのが悪いんですから。そのおかげで、「気付いたのにどうしようもない」という最悪の状況に陥ってしまって落下を楽しむ余裕なんか全くありませんでしたよ。背中ヒヤヒヤしてたんですから。
「じゃあ決定だね。行こ、ウェンズデー」
 と腰をかがめて手を伸ばすと、その手に向けて翼を伸ばし、ぺったぺったと陸上時特有カチコチ歩きの第一歩を踏み出すウェンズデー。しかし、
「はいあぐっ!」
 それとほぼ同時、返事をした直後に何やら叫んで動きを止める。振り上げた一歩を振り下ろすことなく。
 何かにつっかえたかのように中途半端なその停止具合と、よく分からない雄叫びに栞さんは目を丸くした。
「ど、どうしたの?」
「え、ええええっと、お二人でどうぞごゆっくりだと思うであります」
 思うって?
 お二人と言われた僕と栞さんがお互いの顔を眺めるも、やっぱりお互い意味が分からずぴったりのタイミングで二人同時に首を傾げた。
 するとウェンズデーの背後に立っていた家守さんが、
「いやほらウォータースライダーの近くってやっぱり人が集まるからさ、できるだけ少人数で行ったほうがいいんじゃないかなーって。だからアタシらはそうだな、奥に五十メートルプールがあるからそっち行っとくよ。多分あっちは人少ないし。あはははは」
 どう見ても聞いても本心から笑ってないの丸出しですよ。まあ仰る事は分からないでもないですけど。仰り「たい」事も……なんとなく分からないでもないですけど。
 大きなお世話ですが。
「そそ、そういう事でありますので」
「本当に行かなくていいの?」
「はい、はい、で、できるだけ速やかに行ってもらえるとありがたいのであります」
 未だ停止したままで、お願いと言うよりは懇願と言ったほうが程度の具合がしっくりくるような慌てた早口口調で首を上下させる。しかし要するに「早く行け」と言われてしまったようなものなので、ちょっとだけ表情に影が落ちる栞さん。
「分かったよ。じゃあほら行こ、孝一くん」
「えっと、はい」
 すたすたと歩き出す栞さんについていく際にウェンズデーのほうを振り返ると、ぽてりと前に倒れていた。


「うぅ……動物虐待であります。尻尾が、尻尾がヒリヒリするであります………」
「ごめんごめん。お詫びに帰りに魚買ってあげるから」
「ずっと踏み続けるこたあねーだろ。すぐに離してやりゃあ良かったのによ」
「しかしまあ、露骨過ぎやしないか? 全員にそう仕向けられたとばれてしまっては冷めてしまうぞ」
「大丈夫でしょう。失礼なのであまり言いたくはありませんが喜坂さんですし。んっふっふっふ」
「そーいう抜けてるところが可愛いんだよねー、しぃちゃんは」


「うーん、やっぱり本当は怖かったのかな。無理させちゃってたのかなぁ」
 再びウォータースライダーへ向かう途中、顎に手を当ててちょっぴりおセンチな栞さん。どうやらウェンズデーに同行を拒否された事が気に掛かっているらしい。
 それは違うと思うけど、だからといって本当の事を言うのは気が引けたので適当に誤魔化しておく事にする。
「それはないと思いますよ。嘘つくのが上手いようには見えませんし。家守さんが言ってた通りの意味って事でいいんじゃないですか」
 不自然極まりないですけどね。本当、何考えてるんですか家守さん。
 いや、家守さんだけじゃないか。他の人も誰一人ついてこようとしてなかったし。
「そうかな? ……そうだね。それにせっかく遊ぶんなら楽しんだほうがいいもんね」
 そうそう。さっきまでのしかめっ面じゃあ、思いっきり叫ぶのも抵抗あるでしょうしね。
「でもここって本当に広いよね。五十メートルプールまであるなんて」
 確かに。室内であることを考えれば、流れるプールと今向かってる施設だけでも充分な広さですよね。縦も横も奥行きも。
「僕、言われるまで気付きませんでしたよ。奥にもう一つプールがあるなんて」
「栞も~」
 まあ案内板とか探せばすぐに分かる事なんだけど、でも見えてる範囲だけでもかなり広いからなあ。まさかそれ以上があるとは思いもしなかった。
「最初から知ってたらそっちに行ったんだけどなぁ」
 休み時間明けという事で元気良くバシャバシャやってる子ども数人組を見下ろして、栞さんの表情がほころぶ。でも行きたいと言ってるのは、目の前のそういう様子とは無縁な場所。基本的にまっすぐ泳ぐだけの最もプールらしいプール。
「こっちより五十メートルプールのほうが好きですか?」
 失礼かもしれないですけど、ちょっと意外だなあ。栞さんって遊びとかそういう要素が混じってるほうが好きそうなイメージなんですけど。
「どっちが好きとかそういう訳じゃないけど、思いっきり泳ぐの好きなんだ~。気持ちいいし。あ、でももちろんみんなで遊ぶのも好きだよ?」
「へぇ、そうなんですか。僕は全力で泳ぐとなると…………情け無いですけど、しんどいなぁくらいにしか思いませんねぇ。学校のプールの授業も自由時間以外は憂鬱でしたよ」
 目はちゃんと開けてるのにいつの間にか隣のレーンで泳いでたり、同時に泳ぎだした人がみんなゴールした時にまだ一人だけ死に物狂いで泳いでたり。思い出すだけで鼻が痛い。
「まあ誰でも得意不得意はあるもんね。栞、泳ぐ速さなら清さんにだって負けないよ?」
 なんと。
「凄いですね。それってもう得意って言うよりは特技なんじゃないですか?」
 いや清さんの泳ぐ速さを見た事があるわけじゃないですけど、「清さんに勝てる」って事実だけでもうとんでもない事のような気がしますよ。勝手なイメージですけど。
 すると栞さん、心底嬉しそうににっこり。
「これだけは唯一自慢できる事なんだ~。他はその、あんまりいいところないからね」
 せっかくの笑顔は、自滅の形で苦笑へと。確かに料理教室でも初めの頃はビックリさせられましたからねえ。でもそんな事抜きにして、いいところはいいところなんだからもっと自信持ってもいいと思いますよ。だって、人の事言えないんですよ僕も。
「僕だって料理以外はぶっちゃけそんな感じですけどね」
「そうなの? あはは、お互いダメダメだね~。でも料理に関しては毎日ありがとうね、孝一くん」
「いえいえ」
 おかげで毎日夕食どきが楽しみですから。遊ぶのも食べるのも、やっぱり楽しいほうがいいですよね。


「座るの、また孝一くんが前でいいかな」
 階段を上りながら前にもやった相談再び。前回はウェンズデ―の順番を考えなかったから失敗したけど、今回は二人だけだし別に前でもいいかな。
「ええ。――――あ、いや、今回は後ろがいいです」
「そう? うーん、ちょっと怖いけど前と同じよりはいいかな」
 独り言のトーンでそうつぶやくと、納得したらしく一頷き。
「そうだね。じゃあ孝一くん今回は後ろで」
「はい」
 確かに今回背中に硬い物が突き刺さる事は無い。だけどほら、代わりに柔らかい物が突き刺さる―――もとい、当たってしまうんじゃないかと思った訳ですよ。男子として避けるべきか否かちょっと迷いましたけど。
 妄想も大概にしろとの突っ込みがどこからともなく飛んできそうですが、あの事件の後だと背中が気になるんですよやっぱり。


「おや、今度はお二人だけなのですか?」
「そうみたいですね~」
 長い階段を上るとまたもあの係員さんがお出迎え。休憩時間挟んだから、もしかしたら他の人と交代してるかなとも思ってたんですけど。
「みたい? はて。……ま、いいでしょう」
 二人でいる理由を察せられたらどうしようかと思ったけど、保留にされたらしいのでよしとしとこう。
 保留にした係員さんは、またも現れた三つの口へと手を差し出す。
「それではお好きな所へどうぞ。栞様、孝一様」
「うぇ」
 っと、ついつい妙なリアクションを取ってしまいました。
 気分が悪い訳じゃないですよ。ビックリしただけです。
「あ、あの、僕にも様付けなんですか?」
「もちろんです。楓様のご知り合いなのですから」
 分からないでもないけど、やっぱりなんかこうむず痒いなあ。知り合いって言っても同じ所に住んでるだけ―――いやまあ、どう考えてもそれだけじゃないんですけど。友達………うーん、引っかかるところもあるけどこれが一番近いか。過剰なくらいアットホームなところだからなあ。
「さ、別のお客さまが来られないうちにお乗りください。一人だけでお乗りになるというのは、結構恥ずかしい絵面になりますよ」
 おお、言われてみればそうですね。ご助言ありがとうございます。
「どこから乗ります? どこでも似たようなものでしょうけど」
 乗り口は正面左右の三つ。外から見た感じでは全く同じコースって訳でもなさそうだったけど、乗ってしまえばそんな差は微々たるものなんだろうし。
「じゃあこっち。あと行ってないのこっちだけだし」
 既に二度乗った栞さん、迷いなく左を選ぶ。こっちとしても正直どこでもいいので、素直にその選択に従いましょう。それで相談通り、栞さんが前で僕が後ろで。
「準備はよろしいですか?」
『はーい』
「では行ってらっしゃいませ」
 行ってきまーすぅぁぁぁああああ!


 悶える蛇のようにぐねりぐねりと形を変える青いチューブの中に、前回から半減して二人分の叫び声がこだまする。
 後ろを気にしなくていいと楽しいなああぁぁあぁぁあぁはははははははぁ!
『あああああああ!!』
『あああああ!』
『あああ』
 だばーん。


「面白かったねー」
「僕は一回目ですからねえ。事故の回を除くと」
 てっぺんに上る前より更に若干人が増えた気のするプールの傍を、少々のふらつきを感じながらぺたぺた行進する二人。いやまあ、ふらふらしてるのは僕だけなんですけどね。それも多分当人しか気付かないくらいの少々さで。初めの一回にこうならなかったのは激痛が気付け薬になったって事かな。
 まあふらふらどころか動けなかったんだけど。
「楓さん奥って言ってたけど、こっちでいいのかな?」
「だと思いますけど。監視員の人に訊いてみます?」
「そうだね。案内図とかどこかにあればいいんだけど、これだけ広いとそれを探すのも一苦労しそうだし」
 仰る通り、探し物をするために探し物をしてたら労力が倍近くなるだけなんですよね。入口近くにあったんだろうからちゃんと見ておけば良かったなあ。それかウォータースライダーの係員さんに聞いても良かったか。
 まあ後悔先に立たずということで、
「すいませーん」
 高い椅子の上から安全管理中の監視員さんに声を掛けた。お仕事中申し訳ないです。


 どうやらこの方も僕達が家守さんの関係者だと知っていたらしく(まあ目の前の流れるプールを一緒に流れてたから顔は知られてて当たり前なんですけどね)わざわざ監視台から降りてきて、僕と栞さんの両方に様付けかつ丁寧な口調で道案内をしてくれた。
 それによると、五十メートルプールは壁で仕切られてこことは別部屋になっているらしい。つまり一番奥だと思っていた壁の向こうに、更にデカイ部屋が備わっているという事で。
 どれだけ広いんですかここは。
『ありがとうございました』
 こっちが恥ずかしくなるくらいの丁重な扱いに、僕と栞さんも二人揃って丁寧にお辞儀。
「いえいえ。では、引き続きお楽しみください」
 監視員さんはそう答えると、再び監視台を上り始めた。そして上りきった監視員さんにもう一度頭を下げ、僕達は言われた通りに奥を目指す。
『飛び込みは禁止ですよー』
 ドボンという音がしたのち、背後から先程の監視員さんが飛び込んだ誰かに注意する。と、身に憶えのある隣の女性はビックリした様子で振り返った後、恥ずかしそうにこちらに微笑んで見せるのだった。最初にやらかしましたもんね。
「楓さんってやっぱり凄い人なんだろうねー。同じ仕事してるって言っても、栞達までこんな話し方されるような立派な人と結婚するなんて」
 確かにそうかもしれないですね。霊能者社会がどんなものなのかは知りませんけど、僕でも知ってるような一般社会なら実力者と知り合うとすれば本人もそれなりの立場ないと難しいですし。仕事に遅刻しそうになって食パン咥えて走ってたら交差点で同じく急いで走ってた金持ちとぶつかりでもしない限りは。まあ家守さんは出勤車だからそうなっても運命の出会いどころかただ交通事故なんですけどね。
 なんて長々と考えながら、
「ですよね」
 返事はこれだけ。霊能者が幽霊こさえるなんてシャレになりゃしませんからねぇ。
「あ、そう言えば孝一くんさ」
「はい?」
「今そういう人は『ズバリいません』なんだよね?」
 はい。
「はい?」
 また随分話に間が空きましたね。
「今までは?」
「俗に言う年齢=彼女いない暦です」
「そっか」
「はい」
 で、なんなんでしょう。唐突に心の臓を抉られて僕はどういう反応を返せば?
「じゃあさ、付き合うとまではいかなくても女の子を好きになった事とかは?」
 はい。―――じゃなくて、
「そりゃそれくらいはありますけど」
「振られちゃった?」
 いいえ。
「そこまですらいってませんよ。なんにもしませんでした」
「そっか」
 はい。
「大概そんなもんですよ。多分」
 自分の擁護って訳じゃないですけど。いややっぱりちょびっとはそれもありますけど。
「ふーん」
「栞さんはどうなんです?」
「なんにもないよ」
「なんにもって、どの程度?」
「なーんにも」
 伸ばしたのは強調の意味なんでしょうか。
「なーんにもですか」
「そう。なーんにも」
 薄ら笑い浮かべながら話す事じゃないでしょうに。お互い様ですけど。
「ダメダメですねえ二人揃って」
「そうだねー」
 するとその時、
「おにーちゃん、だれとおはなししてるの?」
 足元から第三の声が。見下げるとそこには恐らく幼稚園くらいの小さな女の子。顔はこちらを向いているが、体の向きは目前の小さい子向けの浅いプールへ。浮き輪にすっぽり収まっちゃって、これから飛び込もうとしてたのかな? 監視員さんに怒られちゃうよー。
「あー、えっと、お兄ちゃんはお芝居をやっててねー」
「すす、すみません! こら薫ちゃん!」
 母親さんらしき人、滑り込み怪しがり。
 ですよねー。どっからどう見ても怪しいですよねー。
「ねーおかーさん。このおにーちゃん、だれかとおはなし……」
「本当にすみません! ほら行くわよ!」
「むー」
 ………情操教育上宜しくないものをお見せして、真に申し訳ないです。
「大丈夫?」
 いいえ。
「大丈夫ですよ」
「ねーおにいちゃん、だれとおはなし………」
 今度は男の子。いや性別はいいですけどまたですか。
「こら! 知らない人に声掛けちゃ駄目って言ったでしょ!」
「だって、おかあさん……」
 ………情操教育上以下略。
「大丈夫じゃないよね?」
 はい。
「さすがに二連続はちょっと堪えますねえ」
 変質者とかの方々は他人のこういう反応が楽しいんでしょうか? 僕にその素質は無いようなので、取り敢えず一安心。してる余裕なんかないですけどね。
 栞さんに気の毒に思われてるのも顔見れば分かるし、なんとも格好のつけようがないなあ。はぁ。
「ごめんね、こんな人ごみでベラベラ喋っちゃって。―――あ、返事しなくていいよ。ごめんごめん、つい。だって口に出さないと謝れないから仕方ないでしょ? 悪いのは栞なんだし………ってだから喋っちゃダメなんだってばぁ~! ごめん、本当にごめんね」
 自分の矛盾にあたふたしながら数段構成でで謝る栞さんを見ていると、喋りたくなくてもついつい噴き出してしまうのでした。
 プールでクスクス笑い出すいい年した男ってのも中々危ないかな。すぐ近くに小さい子ども達がたくさんいる事も考えると。
「わ、笑わないでよぉ。わざとやってるんじゃないんだから………じゃなくて、笑っちゃダメだよ! もも、もぉ~! 早く行こっ!」
 子ども達の好奇の視線と親達の不審の視線を背中に受けながら、何かに引っ張られるようなパントマイムを披露しつつニヤニヤ笑いながら走る男はそのまま退場。うん、今僕は最高に怪しい。それを理解すると、笑いながらも涙が流れてきた。怪しさ更にアップ。
 それでは、失礼しました皆様方。
 いざ遠くに見える扉のもとへ。


「あの二人、上手くやってるかなー」
「別にお互いどうこうって訳じゃねえんだろ? 正直余計な事だと思うんだが」
「しかし普段から仲は良いようだからな。あり得ないという事もないだろうさ」
「でも、どっちかって言うとお友達みたいな感じだと思うであります」
「そうなるのなら自然になりますし、ならないのなら私達が何をしてもなりませんよ。ちょっかいを出すのは楽しいですがね」
「そうかなあ。しぃちゃんがゴムボートの上で胸でも押し付ければどーにでもなりそうなんだけど」
「だからなんでオメーはんなオッサンみてーな考え方してんだよ」
「そんな事言ったら成美殿なんかいっつも押し付けてるでありますが?」
「ウェンズデー!」
「ひいーっ!」
「家守さんの時はどうだったんですか? まさか今仰ったようにした訳ではないですよね?」
「お。オレも興味あるな」
「えー? うーん、たまたま仕事で一緒になって、面白い人だなーってちょくちょく会ってたらなんとなく?」
「『なんとなく』ってまた軽いなオイ」
「あ、動機が『なんとなく』なだけで一緒になるからにはちゃんと……ねえ? ほら、そういう感情なんかもちゃんとあるって」
「何ガラにもなく恥ずかしがってんだよ気色わりい」
「じゃあだいちゃんはなっちゃんの事どう思ってるのかはっきり言える? 今ならなっちゃんには聞こえないだろうし、言ってみてよ」
「………ただのクソガキだな」
「目ぇみて言ってごら~ん」
「墓穴ですねえ。んっふっふっふ」
「待たんかウェンズデー!」
「泳ぎでなら絶対に追いつかれないでありますー!」


「この、はぁ、向こう、はぁ、だよね?」
 全力疾走でやっとの事で扉の前に到着すると、その目前で膝に手をついて肩で息をする栞さん。
「そう、はぁ、だと思い、はぁ、ます」
 と答えて同じポーズで同じように息を切らせつつ、頭を持ち上げて扉の横にある「五十メートルプール」と書かれた案内板を見上げる。間違いなくこの先が目的地だと確認はできたけど、それを伝える気にはなれなかった。
 あぁ疲れた。喉渇いた。
「ふぅー……すぅー……。よし! じゃあ入ろう!」
 大きく深呼吸をすると、上体をがばっと持ち上げて回復完了。僕にはそこまでの体力はないですよ栞さん。老化したかな。
 しゃっきりしている一方とは対照的によろよろと歩いて扉の片方に手をかける。でも扉にもたれていると言っても差し支えはないと思います。とにかくそうして二人同時に扉を押し開けると、
「待たんかー!」
「イヤでありますー!」
 怒りで我を忘れておられる真っ最中でした。結構泳げるじゃないですか成美さん。浮き輪付けてないのに。幽霊二人がバッシャンバッシャンやっているのを見ても分かる通り、他には見事に誰もいません。良かった良かった。
 それを確認して安心すると、成美さんとウェンズデー、そしてその二人を眺めている清さんを除いたあとの二人がチャプチャプとこちらに近付いてきた。
「来た来た。どうだった? 面白かった?」
「あ、はい。孝一くんが後ろに座っちゃったからちょっと怖かったですけどね」
「なんだ孝一? なんでそんなバテた顔してんだ?」
「不審者に間違われてその場から逃走したんだよ………」
 そんな冗談になってない冗談はまあいいとして、栞さんがさっそく入水し始めたけど僕はちょっと入らずに休憩。今水に入ったら足がつりそうだ。
 プールサイドに置かれていた成美さんの浮き輪の傍でみんなの思い思いの活動を眺めていると、不意に家守さんが水から上がってこちらへやってきた。
「家守さんも休憩ですか?」
「休憩って言うか、お節介の続き」
 なんですかそりゃ。
 僕の隣に「よっこらせ」とわざとらしく声に出しながら腰掛けると、その顔にいやらしい笑みが浮かぶ。
「駄目じゃんこーちゃん。話聞いたらしぃちゃん、最初はゴムボートの後ろに座りたがってたみたいだよ?」
 なるほどお節介ですか。せっかく体の疲れが抜けてきたのに、今度は精神的に疲労させるおつもりですか?


4 コメント

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何か (Unknown)
2007-07-26 22:30:06
書き足したり、書き換えたりしてる?前と話が繋がらない事が多くて、読み返すと文章が増えてたりしてる感じなんだけど…
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Unknown (代表取り締まられ役)
2007-07-26 23:54:40
毎日更新してますので書き足しは毎日してますけど、書き換えはないです。
(誤字修正くらいは気がついたらしてますが)
毎日だいたい二千字ほど追加してますが「一つの記事は一万字まで」という制限があるので、それに到達したら新しい記事を増やすという方法をとっています。
以前のように毎日新記事を追加すると記事数がとんでもない事になって、読み返すのが自分でも大変になってしまうんです。
話の切れ目とかで分けてる訳ではないのでややこしいかもしれませんね。
申し訳ないですが、ご了承ください。
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もの (Unknown)
2007-07-29 07:06:24
凄く読みづらいし、フィードも糞も無しって事ですか。上手いこと行くといいですね。
返信する
Unknown (代表取り締まられ役)
2007-07-29 15:06:33
先日と同じ方ですかね?
それはさておき、「読み辛い」と仰るならば大変申し訳ないです。
文章追加だけしたとしても左上のカレンダー(携帯だと出ないようですが)に履歴として残ればいいんですけどねぇ……あとしおり機能とか。
まあ日記やらのちょっとした文章を書くのが(多分)メインのブログでこんな事言うのもお門違いですけどね。
一番分かりやすいのは毎日一万字書いて毎日新記事投稿する事なんでしょうけど、さすがに無理です。死ねます。良くて五千が限界です。
って事なので、本当にすいませんけど今のところ打つ手なしです。
ご容赦くださいませ。
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