「相変わらずねぇ、日永君」
笑いを含んだ声で岩白が言う。ほっとけ。性分だ。
「明日で一週間か……あっという間だか長かったんだか」
と言われて何が明日で一週間なのか考える。
その答えは……そうか、まだ一週間しか経ってないのか。
「凄く長い一週間でしたよ。凄く長くて……」
そこまで言うと、後ろのやつ……その一週間の主役が、ぽすんと俺の背中にもたれてきた。
「凄く、幸せな一週間」
はいはい。
「あらあら」
こいつもお前の言う通り相変わらずだよ。御覧の通りな。
振り払うのも疲れるのでそのまま気にせず自転車を漕いでいると、
「ところで日永君の家ってどの辺なの?」
「ん? もうすぐ着くけど」
「じゃあ家の前までついて行っちゃおっと。遠回りってわけでもなさそうだし。
あ、中まで入るつもりはないからお構いなくね。場所を知っときたいだけだから」
前もそんな感じで家に来て、家の前で泣き出したやつが……
あいつ、まだ姉抱いて寝転んでんのかな。と重なった二人の様子を思い出していると、
「あれ……?」
背中の感触が離れ、怪訝そうな声。
「どうした?」
「あ、いえなんでもないです」
ふむ……ならいいんだけど。背中に虫でもついてたとか?
「はーい到着ー。ここが日永家だよー」
人気のない寂しい我が家の前で自転車を停めると、
あとからついて来ていたもう一台の自転車も停止する。
「へえ、結構大きいのね。二人しか住んでないのに二階建てなんだ」
二人暮しを想定して建てられた家じゃないと思うが。
「二階は全く使ってないけどな。たまに掃除しに上がったらそこら中埃だらけだし」
「そう言えばわたし、二階に上がったことないです」
と、自転車に乗ったまま今更なことを。
そう言えば俺、お前を二階につれてったことないです。
それはいいとして、お前が乗ったままの自転車を手で支えるのは辛いんだが。早く降りて。
「そうなの? 開いてる部屋がもったいないわね。掃除して使わせてもらったら?」
「そ、そんな。自分の部屋を頂いて、これ以上部屋を使わせてもらうなんて……」
とセンが手を振ると、振動が自転車を通して俺に伝わる。手が辛い。
「自分の部屋あるの? てっきり二人で同じ部屋かと思ってたんだけど」
「はい。あ、でも今は同じ」
「セン! 今すぐ自転車降りろぉ!」
いらんことをぺらぺら喋らないの! めっ!
「あ、すいません。話に夢中になっちゃって」
ホントに悪いと思ってんのかお前は。
って言うか、もしかして俺の言葉をその意味のまま受け取ったのか?
自転車どうこうが本音じゃないよ? 全くないわけじゃないけども。
……そこ。こっそり笑うな眼鏡。
「よい……しょっ……」
俺に言われて、ゆっくりゆっくりと自転車を降りるセン。
しかし、降りるならスッっと降りてしまえばいいのに。
なんでそんなゆっくりゆっくり? ここ、別に地雷原とかじゃないぞ?
それでもセンはゆっくり降りる。手だけの力で体重を支え、少しずつ少しずつ。
逆けんすいか? 筋トレか?
なんて思ってる間に足が地面に到達。そしてセンが手を離すと、
ドサッ。
……とアスファルトに勢い良く膝をついて、ぺたんと座り込んでしまった。
「何やってんだ?」
「どうしたの?」
周りの二人が声をかけるも、センは下を向いたまま反応なし。様子がおかしい。
なので自転車のスタンドを立てて、腰を落としてもう一回聞いてみる。
「おい、どうした?」
「あ……」
下を向いたまま、センが震えた声を出す。
「足が……動かないです」
「はぁ?」
何を言ってんだこいつは、とその動かないらしい足を見てみると、
膝をついたときに小石が刺さったらしい。ちょっとだけ血が出ていた。
「おいおい、また足怪我してるぞ。ばんそうこう剥がれかかってるし……」
学校で保健室に忍び込んだ時につけたのであろうそれが、半分ベロンと垂れていた。
するとセンが顔を上げた。そしてまた震えた声でこう応える。
「ぜ……ぜ、ぜんぜん痛くないです。それどころか、何も感じない……!」
笑いを含んだ声で岩白が言う。ほっとけ。性分だ。
「明日で一週間か……あっという間だか長かったんだか」
と言われて何が明日で一週間なのか考える。
その答えは……そうか、まだ一週間しか経ってないのか。
「凄く長い一週間でしたよ。凄く長くて……」
そこまで言うと、後ろのやつ……その一週間の主役が、ぽすんと俺の背中にもたれてきた。
「凄く、幸せな一週間」
はいはい。
「あらあら」
こいつもお前の言う通り相変わらずだよ。御覧の通りな。
振り払うのも疲れるのでそのまま気にせず自転車を漕いでいると、
「ところで日永君の家ってどの辺なの?」
「ん? もうすぐ着くけど」
「じゃあ家の前までついて行っちゃおっと。遠回りってわけでもなさそうだし。
あ、中まで入るつもりはないからお構いなくね。場所を知っときたいだけだから」
前もそんな感じで家に来て、家の前で泣き出したやつが……
あいつ、まだ姉抱いて寝転んでんのかな。と重なった二人の様子を思い出していると、
「あれ……?」
背中の感触が離れ、怪訝そうな声。
「どうした?」
「あ、いえなんでもないです」
ふむ……ならいいんだけど。背中に虫でもついてたとか?
「はーい到着ー。ここが日永家だよー」
人気のない寂しい我が家の前で自転車を停めると、
あとからついて来ていたもう一台の自転車も停止する。
「へえ、結構大きいのね。二人しか住んでないのに二階建てなんだ」
二人暮しを想定して建てられた家じゃないと思うが。
「二階は全く使ってないけどな。たまに掃除しに上がったらそこら中埃だらけだし」
「そう言えばわたし、二階に上がったことないです」
と、自転車に乗ったまま今更なことを。
そう言えば俺、お前を二階につれてったことないです。
それはいいとして、お前が乗ったままの自転車を手で支えるのは辛いんだが。早く降りて。
「そうなの? 開いてる部屋がもったいないわね。掃除して使わせてもらったら?」
「そ、そんな。自分の部屋を頂いて、これ以上部屋を使わせてもらうなんて……」
とセンが手を振ると、振動が自転車を通して俺に伝わる。手が辛い。
「自分の部屋あるの? てっきり二人で同じ部屋かと思ってたんだけど」
「はい。あ、でも今は同じ」
「セン! 今すぐ自転車降りろぉ!」
いらんことをぺらぺら喋らないの! めっ!
「あ、すいません。話に夢中になっちゃって」
ホントに悪いと思ってんのかお前は。
って言うか、もしかして俺の言葉をその意味のまま受け取ったのか?
自転車どうこうが本音じゃないよ? 全くないわけじゃないけども。
……そこ。こっそり笑うな眼鏡。
「よい……しょっ……」
俺に言われて、ゆっくりゆっくりと自転車を降りるセン。
しかし、降りるならスッっと降りてしまえばいいのに。
なんでそんなゆっくりゆっくり? ここ、別に地雷原とかじゃないぞ?
それでもセンはゆっくり降りる。手だけの力で体重を支え、少しずつ少しずつ。
逆けんすいか? 筋トレか?
なんて思ってる間に足が地面に到達。そしてセンが手を離すと、
ドサッ。
……とアスファルトに勢い良く膝をついて、ぺたんと座り込んでしまった。
「何やってんだ?」
「どうしたの?」
周りの二人が声をかけるも、センは下を向いたまま反応なし。様子がおかしい。
なので自転車のスタンドを立てて、腰を落としてもう一回聞いてみる。
「おい、どうした?」
「あ……」
下を向いたまま、センが震えた声を出す。
「足が……動かないです」
「はぁ?」
何を言ってんだこいつは、とその動かないらしい足を見てみると、
膝をついたときに小石が刺さったらしい。ちょっとだけ血が出ていた。
「おいおい、また足怪我してるぞ。ばんそうこう剥がれかかってるし……」
学校で保健室に忍び込んだ時につけたのであろうそれが、半分ベロンと垂れていた。
するとセンが顔を上げた。そしてまた震えた声でこう応える。
「ぜ……ぜ、ぜんぜん痛くないです。それどころか、何も感じない……!」
え…?
うわぁぁぁぁ
なんてお茶を濁すような真似はさっさと切り上げて。
とにかくシリアスっぽくなってまいりました。
しかしわたくし、そういう表現は苦手であります。
さあこれからどうなることやら……