(有)妄想心霊屋敷

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新転地はお化け屋敷 第六十章 生きる、ということ 十六

2014-09-10 20:59:03 | 新転地はお化け屋敷
「ところで、今からこのまま控え室に向かったら家守ちゃんとは会うことになるのかな?」
 無用な心配を解消させたその瞬間、不意打ち的にそう問い掛けてくる男性でした。改めて見比べてみれば他お三方に比べて少し背が高いようで、そのせいか一つ二つくらい年上にも見えないことはないのですが……でもまあ、だからといって年齢を尋ねることもないでしょう。
 というかさっき栞がしてくれた話の内容からして、年齢なんて尋ねていいものではないのでしょうが。栞のように再び年を取り始めるようなこともできなくなった、ということではあるんですし。
 何にせよ、なるべく動揺を表に出さないように返事をし始めます。動揺などしていない、とは言いません。
「あ、はい、多分。入れ違いになるにしてもあっちが通るのもこの廊下ですから、顔を合わさないままってことにはならないと思います」
「そっか。ふふ、驚くかなあ。僕達と君達が一緒に歩いてたら」
「あー、あはは、どうでしょうねえ。皆さんに会ったっていうのはもう話してたりしますんで……」
「ああ、そうなんだ? それはちょっと残念」
 とのことでしたが、しかしもちろん、その家守さんに話した中には今ここで会ったばかりのこの男性の話は含まれていないわけです。が、まあ、だからといってそれで何がどうなるというわけでもないんでしょうけどね。家守さんからすれば、僕達が会ったのが三人だけでも四人全員でも同じことなんでしょうし。
 といったところでその男性ですが、背が低い方の男性から――ううむ、なんだか失礼な呼び方のような気もしないではありませんが――会ったばかりの相手に冗談が過ぎるということなのでしょうか、軽く小突かれているのでした。
 そしてあちらのそんな動きとはまた別に、髪が短い方の女性が話の続きを引き受けてくれたりも。
「自分で言うのもなんですけど……お互いそういう話をし合えるって、楓ちゃんと日向さん達って、よっぽど仲良しなんですね。こう、その、言い難いような話ではあるわけですし」
 こちらとしてはそれを理由に「家守さんと仲が良い」とは、それこそ言い難いわけですが――とはいえ、客観的に見ればそういうことにもなるんでしょうか。
 まあ、いずれにせよ。
「それだったら僕よりしお……えー、家内ですかね」
「家内!?」
 今ここで会ったばかりの男性を除いた他三人についても尚、会ったばかりなのは間違いない人達なわけで、ならばそういう相手に対する妻の紹介を名前呼びで済ませるというのもなんだか違うんじゃないでしょうか。だったらそれこそ「妻」でいいような気もしますがしかし、「家内」はそちらより更に畏まった言い方――っぽい、というか。
 と、そんなあれやこれやがあっての初家内呼びだったのですが、
「家内……!」
 二度言わなくても。喜んでくれてるのは分かったから。
「ふふ。そうですよね、新婚さんなんですもんね」
 何が「そう」なのかは分かるような分からないようなといったところですが、ともかく何かしら納得してくださった髪が短い女性なのでした。ありがとうございます。
「それで、奥さんのほうが楓ちゃんと仲良くしてくださっている、と」
「あ、いえ、でもお話した時一緒にいたんですからこれについては孝さ――主人も、同じだとは思うんですけどね?」
 主人!?
 と、しかし家内と同じ失敗はしないように努めておきまして。いや失敗ってほどでもないんでしょうけど。
「僕も家内も、色々お世話になってますんで……」
「何だったら今日ここで式を挙げられたのも、ですし。もちろん直接的にはこの家の方達のおかげなんですけど」
 ……さすがに気にし過ぎということになるのかもしれませんが、栞がそんな例を出してくれたのには助けられました。霊能者としての家守さんを話題に上げるというのはやはり躊躇われますし、躊躇うべきでもあるんでしょうしね。
「じゃあそろそろその楓さんに会いに行きましょうか。ここで待ってても会えるみたいですけど」
 と、ここで薄く笑みを浮かべながらそんなふうに言ってきたのは髪が長い女性。いやお恥ずかしい、こちらから同行を申し出ておきながらついつい立ち話が長引いてしまって。
「あ、じゃあ家守ちゃんに会う前に一つだけいいかな」
 背の高い男性でした。彼がそう言った頃には既に僕達一行は歩き始めていて、ならば恐らくは控え室にいるであろう家守さん達が移動を始めれば、この後すぐにでも出くわすことになるわけです。が、しかし他の人のみならず彼自身も、特に足を止める様子を見せないまま、そんなふうに。
「生きるって、どういうことだと思う?」
 言葉の上では誰に対する質問か明確にしない男性ではありましたが、しかしその視線が捉えているのは、間違えようもなく僕と栞で――。
 それは、どういう?
「おい」
「大丈夫だよ、変な意味じゃないから」
 止めに入った背が低い男性を、しかし彼はやんわりと止め返すのでした。
 やんわりと止め返し、そして。
「それとこれとは関係ないよ。今の質問も、こちらのお二人も。――この四人の中でただ一人、僕だけが未だに家守ちゃんを許せてないとはいえ、ね」


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