「じゃあ、今日はそろそろ……」
「あら、もう? あ、そうか。自転車で色々行ってみるんだったっけ」
「はい」
そう言って立ち上がり、部屋を出ようとした。
「あ、忘れるところだった。ねえセン。あんた明日からも学校行くつもり?」
見送ってくれようとしたのか、一緒に立ち上がった春菜さんが訊いてきた。
「そのつもりですけど」
「じゃあちょっと待ってて。渡すものがあるから」
そう言って春菜さんは部屋の押入れを開け、
『冬物』と書かれた紙が貼ってある箱を引っ張り出した。
春菜さんが箱を開けると、なんだか嫌な匂いがした。
「さすがにちょっと防虫剤臭いけど、まあすぐに抜けるでしょ。はい」
そう言う春菜さんに渡されたのは、学校の制服だった。
「これ……」
「毎回制服が手に入るわけじゃないだろうからね。
カッターも何着か持ってるからあげるわ」
と、今度はタンスを開けて、いつも着ている制服を一着くれた。
「いいんですか?」
「いいも何も、使わないもの今の時期。なら有効活用したほうがいいじゃない?
あ、ネクタイないけど一番上のボタン外してれば多分大丈夫だから。
革靴は……まあそれっぽい靴はいてりゃ大丈夫でしょ」
「ありがとうございます!」
「袋……あ、これでいいか」
傍に置いてあったビニール袋の中身を出した。
中から出てきたのはノートと消しゴム。春菜さんらしいというかなんと言うか。
「はいじゃあ入れちゃってー」
と袋の口をこっちに向ける。言われた通り、手にもった制服をその袋に入れた。
「はいっ。じゃーこれで明日からも頑張って登校してくださいっ」
「はい!」
「それと、靴代ね。さっき買い物に行ったお釣りだけど」
小銭をいくつか受け取った。早速頂きます。
「靴、あった?」
「はい。今日は本当にありがとうございました」
「どういたしまして」
小銭を返して、玄関で靴を履く。
「それじゃあ、行ってきます」
「行ってらっしゃい」
一歩前に出て、戸に手を掛ける。そのまま振り返って、
「……春菜お姉ちゃん、大好きですよ」
言ってみたくなったので、言ってみた。けどやっぱりちょっと恥ずかしかった。
「だから恥ずかしいって……ちなみにその場合、『ですよ』は余計ね」
「?」
予想外の反応だった。
「春菜お姉ちゃん、大好き」
言い直してみた。
「うわぁ…………あ、ごめん。ちょっと悪ノリだった」
喜んでるんだか引いてるんだか微妙な表情でそう言われた。
……よく解らなかった。
「私もあんたのこと、好きだからね」
「はい」
「それじゃあ車とかに気をつけて。暗くなる前に帰るのよ」
「はい」
「あ、もちろん日永家に、だからね」
「はい。それじゃあ」
「また明日」
「また明日」
戸に掛かったままだった手を引く。そして戸を閉める時、春菜さんにもう一度頭を下げた。
家を出て自転車に乗る。……鍵かけるの忘れてた。危ない危ない。
スピードが出てちょっと怖いのでブレーキを多めに掛けつつ、裏の坂道を下る。
坂を抜けるとまた元の平らな道へ。
今度はどこに行こうかな?
……って言ってもまだ知ってるところ少ないんだけどね。
コンビニと、学校と、駅と、デパートぐらいかぁ。どうしよう。
コンビニは今向かってるのと逆方向だし、学校は行っても誰も居ないし……
デパートは? 遠いか。線路辿るだけだから道は解るんだけど。
じゃあ駅まで行って、切符売り機からご馳走になっちゃおう。
「あら、もう? あ、そうか。自転車で色々行ってみるんだったっけ」
「はい」
そう言って立ち上がり、部屋を出ようとした。
「あ、忘れるところだった。ねえセン。あんた明日からも学校行くつもり?」
見送ってくれようとしたのか、一緒に立ち上がった春菜さんが訊いてきた。
「そのつもりですけど」
「じゃあちょっと待ってて。渡すものがあるから」
そう言って春菜さんは部屋の押入れを開け、
『冬物』と書かれた紙が貼ってある箱を引っ張り出した。
春菜さんが箱を開けると、なんだか嫌な匂いがした。
「さすがにちょっと防虫剤臭いけど、まあすぐに抜けるでしょ。はい」
そう言う春菜さんに渡されたのは、学校の制服だった。
「これ……」
「毎回制服が手に入るわけじゃないだろうからね。
カッターも何着か持ってるからあげるわ」
と、今度はタンスを開けて、いつも着ている制服を一着くれた。
「いいんですか?」
「いいも何も、使わないもの今の時期。なら有効活用したほうがいいじゃない?
あ、ネクタイないけど一番上のボタン外してれば多分大丈夫だから。
革靴は……まあそれっぽい靴はいてりゃ大丈夫でしょ」
「ありがとうございます!」
「袋……あ、これでいいか」
傍に置いてあったビニール袋の中身を出した。
中から出てきたのはノートと消しゴム。春菜さんらしいというかなんと言うか。
「はいじゃあ入れちゃってー」
と袋の口をこっちに向ける。言われた通り、手にもった制服をその袋に入れた。
「はいっ。じゃーこれで明日からも頑張って登校してくださいっ」
「はい!」
「それと、靴代ね。さっき買い物に行ったお釣りだけど」
小銭をいくつか受け取った。早速頂きます。
「靴、あった?」
「はい。今日は本当にありがとうございました」
「どういたしまして」
小銭を返して、玄関で靴を履く。
「それじゃあ、行ってきます」
「行ってらっしゃい」
一歩前に出て、戸に手を掛ける。そのまま振り返って、
「……春菜お姉ちゃん、大好きですよ」
言ってみたくなったので、言ってみた。けどやっぱりちょっと恥ずかしかった。
「だから恥ずかしいって……ちなみにその場合、『ですよ』は余計ね」
「?」
予想外の反応だった。
「春菜お姉ちゃん、大好き」
言い直してみた。
「うわぁ…………あ、ごめん。ちょっと悪ノリだった」
喜んでるんだか引いてるんだか微妙な表情でそう言われた。
……よく解らなかった。
「私もあんたのこと、好きだからね」
「はい」
「それじゃあ車とかに気をつけて。暗くなる前に帰るのよ」
「はい」
「あ、もちろん日永家に、だからね」
「はい。それじゃあ」
「また明日」
「また明日」
戸に掛かったままだった手を引く。そして戸を閉める時、春菜さんにもう一度頭を下げた。
家を出て自転車に乗る。……鍵かけるの忘れてた。危ない危ない。
スピードが出てちょっと怖いのでブレーキを多めに掛けつつ、裏の坂道を下る。
坂を抜けるとまた元の平らな道へ。
今度はどこに行こうかな?
……って言ってもまだ知ってるところ少ないんだけどね。
コンビニと、学校と、駅と、デパートぐらいかぁ。どうしよう。
コンビニは今向かってるのと逆方向だし、学校は行っても誰も居ないし……
デパートは? 遠いか。線路辿るだけだから道は解るんだけど。
じゃあ駅まで行って、切符売り機からご馳走になっちゃおう。
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