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弁護士・元ロースクール教授宮武嶺の社会派リベラルブログです。

「軍隊のない国」はあるのだ!! by大久保賢一弁護士

2019年01月14日 | 人権保障と平和

 

 これまで、日本で最も尊敬する弁護士たちを何人かご紹介してきたのですが、今回登場していただくのは、日本反核法律家協会の事務局長で、弁護士会では「憲法の大久保」の異名を取る、大久保賢一先生です。

 大久保先生にはいい時も悪い時も、25年間にわたって面倒を見ていただいてきました。

 大久保先生とは20年以上前にコスタリカにご一緒したことがあるのですが、大久保先生はそれ以降もコスタリカの法律家との交流も深められ、軍隊のない国について研鑽を深めてこられました。

 戦争放棄・軍隊否認の憲法9条を持つ国で、安倍政権が兵器爆買いを進める中、軍隊のない国のリアルを知ることは貴重な情報だと思い、ご紹介させていただく次第です。

左から、大久保賢一法理事務所の大久保先生、村山先生、秘書の井上さん。

 

 

「軍隊のない国家」は本当にあるのだ!!

大久保賢一

 

はじめに

 自民党の改憲草案は憲法9条2項を廃止して、国防軍を持とうと提案している。その理由は、軍隊を持たないなどというのは、ユートピア思想だからだという。

 ユートピアとは、どこにもない場所、想像上の理想郷などとされている(広辞苑)。要するに、自民党は、軍隊を持たないなどというのは、空想的だ、非現実的だというのである。だから、戦力放棄などは放棄しようと提案しているのである。

 けれども、世界には、軍隊を持たない国が現実に存在している。軍隊を持たない国家というのは、決して、空想的ではないのである。現実に存在するものをないこととするのは、明らかに虚偽(フェイク)である。

 「軍隊のない国家」の日本における研究の第一人者は、東京造形大学教授の前田朗さんである。その前田さんが依拠している先行研究者の一人は、クリストフ・バーベイというスイスの弁護士である。

 以下の記述は、前田さんの「軍隊のない国家・27の国々と人びと」(日本評論社・2008年)と「軍隊のない国家研究の最前線」(日本国際法律家協会機関誌インタージュリスト189号(2016年8月)から192号(2017年5月))に依拠してのものである。

平和ってなんだろう―「軍隊をすてた国」コスタリカから考える (岩波ジュニア新書)
岩波書店

「軍隊をすてた国」として注目を浴びる国、中米コスタリカ。コスタリカの人びとが考える平和とはどのようなものなのだろう?民主的な選挙システムや憲法小法廷、窓口負担無料の医療制度、環境を守る活動などを紹介。自由と民主主義を重んじる社会の中で育まれる人々の意識を探りながら、あらためて平和とはなにかを考える。

 

 

軍隊のない国家

 もともと、前田さんもバーベイも軍隊のない国は27ヵ国としていたが、現在は26ヵ国としている。まず前田説で列挙すると次のとおりである。

 アンドラ、クック諸島、コスタリカ、ドミニカ、グレナダ、アイスランド、キリバス、リヒテンシュタイン、マーシャル諸島、モーリシャス、ミクロネシア、モナコ、ナウル、ニウエ、パラオ、パナマ、サモア、サンマリノ、ソロモン諸島、セントキッツ・ネービス、セントルシア、セントヴィンセント・グレナディス、トゥバル、ヴァヌアツ、ヴァチカン、ルクセンブルグである。

 バーペイはハイチを入れ、ルクセンブルクを入れていない。ハイチには国連軍が駐留し、ルクセンブルグはNATOに人を派遣しているので、それをどう評価するかによる違いである。また、モルディブは再軍備したので外されている。

 私にはどこにあるのかを示せと言われてもわからない国もある。けれども、オリンピックの入場行進の時に聞いたことがある国も多い。

軍隊のない国家―27の国々と人びと
日本評論社

世界には軍隊のない国家がたくさんある。なぜ、どのようにして軍隊を持たないようになったのか。外交や安全保障はどうしているのか。軍隊を持たないことが内政にどのような影響を及ぼしているのか。軍隊を持たないコスタリカの教育重視は有名だが、他の諸国はどうであろうか。社会のあり方、人々の暮らしに何か特徴や共通点を見出すことができるだろうか。こうした関心も持ちながら、各国を訪ね歩いた記録が本書である。

 

 

 

国家の数

 外務省のHPによると、現在世界の国は196とされている。これは日本が国家承認した国の数に日本を加えた数字である。また、国連加盟国は193ヵ国である。北朝鮮は国家承認してないので、国連加盟国ではあるが、日本政府にとっては国家ではないようである。

 それはともかくとして、私たちは、世界196ヵ国のうち26ヵ国(約13パーセント)に軍隊がないということを確認しなければならない。

 なお、二人は、軍隊とは他国の武力行使を防止し、軍事行動を行うために、政府によって設置された武力と理解しているようである。日本政府は軍隊を「武力を行使する組織」としているので、ほぼ共通しているといえよう。

 警察は、公共の安全と犯罪捜査を任務とする組織であり、小規模の保安部隊が設置されることもあるが軍隊ではない。小規模の保安部隊があっても軍隊のない国に数えられるのである。

軍隊のない国コスタリカ (母と子でみる)
草の根出版会

平和憲法をもつ国、中米のコスタリカ共和国。隣国との軍事的脅威にさらされてきたコスタリカが、どのような経緯で軍隊を廃止し、中米全体の和平にどう貢献してきたのか。軍縮、民主主義など日本と比較しながら紹介する。

 

 

 

 これらの軍隊を持たない国のうち、19ヵ国は軍隊を持たずに建国され、国家ができてから非軍事化したのは7ヵ国であるという。日本の自衛隊が解散するとき、二人はどちらと数えるのであろうか。

 再軍備したモルディブのような国もあるけれど、また、それぞれの国の歴史的背景や地理的条件、政治情勢などの違いはあるとしても、軍隊を持たないままに国家運営をしている国家は存在しているのである。

 

 

 ちなみに、1946年制定の日本国憲法は、9条2項で戦力と交戦権を放棄しているけれど、これは、世界史の上では決して初めてのことではないようである。

 例えば、スイスとオーストリアの間にある小国リヒテンシュタインは1868年に軍隊を廃止し、1921年憲法で非武装を明示しているという。そして、ナチスドイツと国境を接した時にも武装しなかったという。

 日本国憲法の非武装平和主義には先例があったのだ。

丸腰国家―軍隊を放棄したコスタリカの平和戦略― (扶桑社新書)
扶桑社

「理想」ではなく「現実」のもとに軍隊をなくした人々。教育も医療も無料!世界が“対テロ戦争”に突き進む一方で、「国家の非武装化」というもう一つの潮流がある。

 
 

 

 ところで、バーベイは日本について「憲法9条において軍隊を明示的に禁止する基準を有するが、実際には世界で最も強力な軍隊を保有している」と評価し、前田さんは、「憲法に軍隊を持たないと書いてあるのに、実際には軍隊を持っている世界で唯一の国」と皮肉交じりに書いている。

 このような事態を解消するためには、憲法という最高規範に現実を合わせることであろう。変えるべきは、憲法ではなく、違憲の状態である。そしてそれは決して夢物語でないことは、世界の現実が証明しているのである。

 私たちは、世界には26ヵ国も軍隊のない国があることを確認し、憲法9条はユートビア思想などと言いたてるのは情報操作であることを見抜き、併せて、日本のような「大国」が軍隊のない国になれば、人類史を大きく転換することになるであろうことに確信を持ちたいと思う。(2019年1月11日記)

 

 

肥田舜太郎さんが語る「いま、どうしても伝えておきたいこと」: 内部被曝とたたかい、自らのいのちを生かすために
日本評論社

 自らも広島で被爆し、被爆者医療に生涯をかけた医師が、福島第一原発事故を経験し、改めて内部被曝問題と命のまもりかたを語る。

 
憲法ルネサンス―パンと自由と平和を求めて
イクォリティ

「くらしに憲法を生かそう」の看板を事務所正面に掲げた、ある地方都市の弁護士。「昭和」の戦後がつくり出した日本人の生き方の指針、座標軸の基点としての憲法を、くらしの中から問い直す。10年間の弁護士生活の中から、日本人の生き方の基軸とされるべき国民にとっての憲法の現状と再生(ルネサンス)を問う物語の誕生である。

 
 

大久保先生とは1994年に中国司法制度調査団でご一緒し、その後、1999年にハーグで行われた世界市民平和会議に一緒に参加したのがいい思い出です。

人権派弁護士の中でもずば抜けた理論派でありながら、常に元気な私の兄貴分です。これからも大久保先生のエッセイ・論文をご紹介していきます。

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1 コメント

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誰もコメントしないのか(汗) (ラベンダ)
2019-01-29 00:48:38
では好き勝手にこの記事の初コメントを自分ラベンダがさせていただきます(笑)
コスタリカの話題なので、ちょっとしたコスタリカ文化の宣伝です(宮武さんごめんなさい、ちょっとステレオタイプなことにその国固有の文化遺産の宣伝です)。

コスタリカの世界遺産は現在4つほどありますが、その内3つが自然遺産、文化遺産が1つだけとなっています。その文化遺産がこれまた世界的に見ても印象に残る文化遺産(遺跡または遺物)でして、何と、人工的に作られた大きな石の球群なのです。正式名称は「ディキスの石球のある先コロンブス期首長制集落群」といいます。
その建造目的は一切謎に包まれ、解っていることといえば、先住民の方々の祖先が紀元6世紀には石球を作っていたとのことでして、マヤ文明とは明らかに違う別の文明が作ったということです。オーパーツだとか宇宙人だとか言ってる先住民文化への冒涜的言動の数々がいつも通り涌いてきてますが、個人的には一般的によく言われている天体的遺跡や墓標遺跡などではなく、「古代先住民の平和の記念碑的モニュメント」だったのではないかと言う新説を提唱したいです。根拠の一つとして、遺跡付近で武器らしい遺物がその近くで発掘されていないことと、そして石球の作成が6世紀から実に15世紀半ばまで続いたこと等があります。石球が作られる以前のコスタリカ先住民社会も、集落と集落で対立があったかもしれません。しかし石球が作られるようになってから、約1000年間にも渡りコスタリカ地域で同じモニュメントを製作し続け、かつその石球が古い時代に壊された痕跡が見られない遺跡も稀有です(チリ•イースター島のモアイも古い時代のものですが、最終的に先住民の集落争いでモアイ倒しが起こり、破壊されたのと対照的です)。これはコスタリカの各集落が争いのない平和な社会を忘れないために(または継承していくために)、この単純かつ人々に平和の象徴を訴えかけるモニュメントとして石球の構造を生みだしたと自分は推測します。
自分は、現在のコスタリカ平和主義理念が過去にも生きていたと言う説にロマンを感じるので、この新説を機会があれば別の場所でも提唱したいです(笑)。
この個人的見解についてはこのコメントを見てる方全てから感想や批判も受け付けます(恐らく見てないだろうけど)。

それからこのままフェードアウトも考えていましたが(バカの代表を絞るのもめんどい)、「第2回不倶戴天の敵リスト」も近々公開する予定です。有名なクズ共も多いですので、公開することにしました。
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