コーポレート・ガバナンス=企業統治とは、企業を適正かつ適法に運営していくように監視・規律すること、及び、そのための仕組みを言います。
私は、司法試験受験生や会計士試験受験生に会社法を教えており、今の会社法ができたときには弁護士会で会社法講義の講師もしたりしているのですが、会社法立法時の目玉だったコーポレート・ガバナンスはちっとも上手く行きませんねえ。
実は、福島原発事故が起きたあと、東電の主力銀行の代表取締役だった方とお話ししたことがあるのですが、その方が
「東京電力はもっとしっかりした会社だと思っていた。勝俣さん(会長)とも会食したことがあるけれど、こんなに無能だとは思わなかった」と盛んにお嘆きになるので、
「いや、日本の大企業はみんなこんな感じなんだと思いますよ」と、慰めともつかないことを申し上げたことでした(苦笑)。
株式会社というのは徹底的に資本多数決で意思決定がなされ、運営されます。
まず、取締役は株主総会で多数の株主により支持されたものが選出されます(頭数ではなく株数の多数なので資本多数決と言います)。社外取締役を選んだとしても、選任・解任については同じことです。
チェック役の監査役も同様です。
そして、代表取締役には取締役会で過半数の支持を得た者がなります。
こうなると、どんな仕組みを作ったとしても、多数者支配や多数決の濫用を防いで、会社を適正かつ適法に運営するのはむしろ至難と言えるでしょう。
これがコーポレート・ガバナンスの宿命的な問題です。
さて、多数者だからと言って適法・適正とは限らず、その抑制が難しいというこの「多数者支配」。多数者支配と言えば、株式会社だけのことではありません。
橋下大阪府知事は、ちょうど2年前の2009年10月29日、大阪市内で企業経営者ら約750人を前に講演し、関西の活性化には都市ごとの役割分担が必要との考えを示したうえで、大阪について
「こんな猥雑な街、いやらしい街はない。ここにカジノを持ってきてどんどんバクチ打ちを集めたらいい。風俗街やホテル街、全部引き受ける」
「大阪をもっと猥雑にするためにも、カジノをベイエリアに持っていく」
と述べました。このカジノ特区構想が、彼の大阪経済活性化策の目玉の一つなのです。
どうして、こうも夢も希望も品もない話になるのかわかりませんが、彼ら維新の会がダブル選挙で「多数」を占めて大阪府知事と大阪市長を独占したら、凄まじい大阪都を作ってくれそうです。
大阪 滅びの一歩 カジノ構想
こんなばくち打ちの街、大阪都が早く実現していたら、莫大なお金を落としてくれるはずだったのが、大王製紙の御曹司です。
大王製紙の井川意高(もとたか)前会長(47 創業者一族で、エリエールを迂回融資に使ったので、ティッシュ王子と呼ばれている 笑)による巨額借り入れ問題では、ティッシュ王子が連結子会社から借り入れた計約106億円のうち約90億円が、海外のカジノ関連会社の口座に王子名義で入金されていたことがわかっています。
同族会社における創業者一族は、大株主でもあるのが普通です。多数派の横暴がコーポレイト・ガバナンス=企業統治の最大の難問あることが典型的に見られる場面です。
この問題を調べている特別調査委員会の報告書によると、王子は連結子会社7社などから昨年5月~今年9月に計26回にわたり、無担保で計約106億8千万円を借り入れていました。
同社の会計監査人である大手監査法人のトーマツは昨年7月29日、子会社から大王製紙経理部に送られた取引の情報により、王子への貸し付けの事実を知ったのだそうです。
会計監査人は会社の外部から不正経理をチェックする切り札的存在ですが、しかし、会社との契約を切られたくないため、監査が甘くなりがちであるという構造的弱点があります。
トーマツは経理部に尋ねたが使途を特定できず、「グループの事業に使用するのだろう」と推測したとか(白々しいなあ)。
その後も王子への貸付額が膨らんでいく過程を把握していながら、出席した監査役会で注意を喚起することもなかったし、貸し付けていた子会社を訪れても、担当者から事情を聴かなかったということです(あ~あ 受験生の夢がまたなくなる)。
会社法によると、会計監査人は規模の大きな会社に設置が義務づけられ、会計書類の監査のほか、取締役の不正行為を発見した時には監査役会への報告を求め られています。
外部の弁護士などでつくる大王製紙の特別調査委員会は、調査報告書の中で、「貸し付けの繰り返しを防げなかったことは問題で、適正な監査の実施を強くトーマツに要求すべきだ」と指摘しました。
同族会社ではありませんが、地域独占企業である電力会社も経営にメスが入れにくい株式会社です。
佐賀・玄海原発の再稼働をめぐる九州電力やらせメール問題で、同社が経済産業省に再提出する予定だった“修正版”報告書の作成に当たり、九電第三者委員会が示した見解を会社として認めないよう真部利応社長が担当者らに指示していたことが10月23日に分かりました。
九電社内では、第三者委委員長を務めた郷原信郎弁護士が報告書に明記を求めた「古川康・佐賀県知事の発言が問題の発端となった」などの内容について、第三 者委見解として記載する一方、自社の反論を併記する形式を検討し国に再提出する意向でした。
このことが報道されると、郷原委員長や枝野幸男経産相は当然、第三者委報告の核心部分を盛り込まなかった九電の最終報告を激しく批判し、九電は修正版を再提出することが出来なくなりました。
九電の再修正案づくりは古川康佐賀県知事の関与の表現などで見解が食い違い、難航しています。また、会長、社長共に居座る方針を貫くことも困難でしょう。
しかし、なぜ、ここまで反省できず、自社役員や県知事を守ることに汲々として、国民から不信を買うようなことをするのか不思議なくらいです。
こんな体たらくで原発再稼働を本当にするつもりなのでしょうか。
結局、日本人が役員をやっていたら、明るみに出るものも出ないのかなあという悲しい思いになるのが、オリンパス事件です。
オリンパス社が3年前に英国の医療機器メーカーを約2100億円で買収した際、海外の投資助言会社に買収額の約3割にのぼる手数料を支払ったとされることが問題の発端でした。
この手数料は、通常は数%とされる相場とかけ離れており、この問題を今夏になって知った当時のマイケル・ウッドフォード社長が菊川氏に問いただすと、逆に解任されたというのです。
オリンパス側は経営手法の違いが解任理由だとしていましたが、ウッドフォード氏が英米紙でこの疑惑を公表すると、同社の株価は急落し、生保などの大株主も調査を求めました。株価は大幅に値下がりし、菊川氏は混乱の責任を取る形で辞任しました。
この社長が日本人社長だったら、九州電力と同じ事になったのではないか、と思うのは私だけではないはずです。
別に日本人の手では日本企業の統治が出来ないと言いたいのではありませんが、日本人がどうしようもなかった話には、実は東電の例もあります。
東京電力福島第一原発1号機の原子炉ひび割れ隠しを当時の通産省(現・経産省)に内部告発し、日本の原子力業界を揺るがせたのは、米国の原子炉メーカー「ゼネラル・エレクトリック」の元社員で、日系米国人ケイ・スガオカさんでした。
スガオカさんは米カリフォルニア州に住み、GEのために働いていましたが、2000年6月、福島第一原発1号機のひび割れ隠しを告発する手紙を日本の通産省に送りました。
この手紙が、東電の福島原発に関する2つの虚偽報告を明らかにしたのですが、なんと通産省=原子力安全・保安院は、スガオカさんの話を聴くことなく、東電に告発の情報を伝え、東電はウソをついて、ひび割れ隠しを否認しました。
この事件をきっかけに、他の27の安全報告書の不正が暴かれ、17基の原子炉が運転停止し、東電は世論の非難にさらされました。
東電と原子力安全・保安院は2002年8月になって、トラブル隠しの数々をやっと公表し、その遅れを批判されたのです。
かえすがえすも、ここで脱原発に転換できなかったことが悔やまれます。
この事件は、福島原発事故の問題が、一企業の問題ではなく、電力会社だけの問題でもなく、日本の企業統治システム全体の問題であること最もよく示す証拠なのではないでしょうか。
2002年のこの事件のあと、東電は、議決権のない外部監査役を増やす対応をしました。また、企業の行動指針を定め、それを実行するために倫理委員会を設置した。
経営陣は「企業風土の改革」と「国民の信頼回復」を明確な目標として掲げました。
しかし、今年の福島原発事故で、それがなんの役にも立っていなかったことが明らかになりました。東電は9年にわたり内部改革努力を集中的に行ったにもかかわらず、福島原発事故とその後の拙劣な対応を避けられなかったのです。
そして原子力安全・保安院にはまともにはメスが入りませんでした。
九州電力の反省なき態度や橋下維新の会の横暴を正せるのは、結局、世論の力です。
東電の事故隠しや告発者を東電に教えてしまった通産省・保安院の問題を徹底的に追及していれば、今回の原発事故やその後の馬鹿げた対応も防げたかもしれません。
今回、これだけの大事故を起こしても、まだ原子力発電所や電力会社の発電・配電・送電独占の仕組みを残してしまうようでは、結局、株式会社の企業統治も、この国の民主主義も達成できないでしょう。
一度不正をしたら国民から徹底的に追及され、致命傷となるのだと会社も、政府も身にしみることが一番必要です。
より良い社会や会社の仕組みを法律で作るのも、それに命を吹き込むのも、主権者たる国民の意思と行動次第なのだと痛感しています。
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脱法行為で言うとソープランドなどでの女性従業員との自由恋愛ってのも脱法売春なのでしょうか?
売春、博打の脱法行為が堂々とまかり通るというのも、コーポレート・ガバナンス、多数者支配によるものだとしたら怖いですね。
でも、脱法じみたということすらもう当たり前になってしまって誰も言わないことの方が怖いです。
そう言えば、東電の勝俣氏は「天皇」と呼ばれていたとか。
福島の事故隠しに関しては、当時の知事が東電の報復により、捏造事件で逮捕などという黒いオマケも付いており、恐ろしいとしか言いようが有りません。
東電は潰し、発送電の分離の実現と全ての原発を廃炉にすることで、経済的にも精神的にも少しは希望が持てることになろうかと思います。
批判的に見ていた維新の会だけが、脱原発を宣言し、大阪市長になったあかつきには最大の株主であることを武器に関電に要求していくというのですから、複雑です。この一点だけで、応援すべき!?