goo blog サービス終了のお知らせ 

鍵穴ラビュリントス

狭く深く(?)オタク
内容は日々の戯言
イギリス、日本、リヒテンシュタイン、大好きです
プラトニックlove好き

ヴィスの6

2013-10-06 07:17:07 | オリジナル小説
 お父様は重々しく口を開きました。
「スチュアート氏から聞いた。おまえたちはどうしても都に行って舞踏会に出たいそうだな」
スチュアート氏というのはロビンのことです。
「はい、お父様」
二人の声が重なります。
「そうか……」
セラが訊きました。
「お父様はどうして舞踏会に行かせてくださらないのですか?」
「――……舞踏会は女性の身では、危険が伴う。接吻なんてただのご挨拶であるし、うぶな少女をうまく誘って休憩部屋に連れて行って手籠めにしようとする奴もいる。わたしはそれを憂えておまえたちを行かせたくなかったんだ」
「そんな……」
アイが言い返します。
「うぶな少女じゃありませんわ。立派なレディのつもりです」
「そうですわ、お父様。それに、舞踏会にでないで大人になってしまったら、それこそ、恥ずかしいほどのうぶな女性ではありませんか」
セラがため息をつきました。
「まあそれもそうだな……」
「大舞踏会は社交界デビューの入口と言われておりますわ」
セラが言えば、
「大舞踏会ほど、安全な舞踏会はないのではないですか。なにせ王族が主催しているのですもの」
アイがたたみかけるように言います。
「――わかった。しかし大舞踏会の行われる城についたら、気を引き締めること。それを守れるなら行ってよろしい」
「わあっ」
二人は手をとりあって喜びました。いよいよ念願の舞踏会に行けるのです。


 大舞踏会の前日の朝、出立の馬車が用意されました。
 二人は着飾って馬車に乗り込みました。
 セラは白い生地に濃いピンク色の薔薇の花が散りばめられているロココ調のドレスに、髪の毛には真珠の鎖つきのボルドー色の薔薇の髪飾りをつけました。
 アイは薄黄色の生地に濃い黄色の薔薇の花が散りばめられたロココ調のドレスを着て、髪にはボルドー色の白レース付きカチューシャをつけました。
 ちなみに、セラもアイの薄いピンク色のふわふわした髪は、当日の朝、流行りの形に結い上げるつもりです。
 今日は都についたらウンディーネ大公園のすぐそばの伯母の家に泊まる手はずになっていました。お父様も体の弱いお母様を気遣ってついてきません。二人と家の者だけの、ちょっとした旅気分です。
「お父様、お母様、行ってまいります」
「楽しんでおいで」
「いろんな男の方とご挨拶なさいね」
「はいっ」
セラとアイは馬車から身を乗り出して、見えなくなるまで手を振りつづけました。
 何事もなく、夕がた過ぎに伯母の家に着きました。
 少し休んだら、さっそくウンディーネ大公園に遊びにいく予定です。