とある商家の店先、小僧の定吉さんがいつものように店番をしておりました。
そこにあらわれたのは、一人のお武家さま。
「ごめん」
「あ、いらっしゃいませ」
「うむ。ちとものを尋ねるが、金毘羅様のお祭りは幾日であったかな」
「えーっと、五日(いつか)六日(むいか)と心得ております」
「さようか。じゃまをしたな」
そう言い残して、出て行ってしまうお武家さま。
そのやり取りを聞きとがめたのは、奥にいた店の主でした。
「これ、定吉や。いま、お武家様がいらしていたようだったが、どのようなご用件だったんだい?」
「あ、旦那さま。金毘羅さまのお祭りがいつか、と聞かれましたので、五日六日ですと答えておきました」
「え、何を言ってるんだい。金毘羅様のお祭りは、九日(ここのか)十日(とおか)じゃないか」
「・・・あぁ! そうでしたねえ」
「そうでしたじゃない。すぐに追いかけて、教えてさしあげなさい」
「え!? で、でもぉ・・・」
「なんだい」
「もう多分二度とこないやつですよ? 聞くだけ聞いて、何も買わずに行っちゃたんですから」
「これ。お武家様にむかって、その言い方があるか。それにな、お客様だから親切にする、お客様でないから親切にしない、そんな了見では、いいあきんどになれませんよ。いいから早くいってらっしゃい!」
「いってまいります」
旦那にしかられ、しぶしぶ出かける定吉さん。自然と愚痴が出ます。
「ちぇっ。うちの旦那もいい人なんだけどなあ。いちいち細かいんだよな、言うことが。ほんとうに・・・。どこまで行っちゃったのかなあ、あの人。あ、あれかな? おーい、そこの人!!
・・・って、いけね、みんなこっち向いちゃったよ。そうか、みんなそこの人だもんな。
じゃあ、そこのお侍!!
・・・って、お侍みんなこっち向いちゃったよ。あぶねあぶね。えーっと、名前も知らないんだからなあ、うーんとんーっと。
ええもう、五日六日の旦那! いつかむいか!!」
「おお、なのかようか(七日八日)」
「ここのかとおか!(九日十日)」
かき麿
そこにあらわれたのは、一人のお武家さま。
「ごめん」
「あ、いらっしゃいませ」
「うむ。ちとものを尋ねるが、金毘羅様のお祭りは幾日であったかな」
「えーっと、五日(いつか)六日(むいか)と心得ております」
「さようか。じゃまをしたな」
そう言い残して、出て行ってしまうお武家さま。
そのやり取りを聞きとがめたのは、奥にいた店の主でした。
「これ、定吉や。いま、お武家様がいらしていたようだったが、どのようなご用件だったんだい?」
「あ、旦那さま。金毘羅さまのお祭りがいつか、と聞かれましたので、五日六日ですと答えておきました」
「え、何を言ってるんだい。金毘羅様のお祭りは、九日(ここのか)十日(とおか)じゃないか」
「・・・あぁ! そうでしたねえ」
「そうでしたじゃない。すぐに追いかけて、教えてさしあげなさい」
「え!? で、でもぉ・・・」
「なんだい」
「もう多分二度とこないやつですよ? 聞くだけ聞いて、何も買わずに行っちゃたんですから」
「これ。お武家様にむかって、その言い方があるか。それにな、お客様だから親切にする、お客様でないから親切にしない、そんな了見では、いいあきんどになれませんよ。いいから早くいってらっしゃい!」
「いってまいります」
旦那にしかられ、しぶしぶ出かける定吉さん。自然と愚痴が出ます。
「ちぇっ。うちの旦那もいい人なんだけどなあ。いちいち細かいんだよな、言うことが。ほんとうに・・・。どこまで行っちゃったのかなあ、あの人。あ、あれかな? おーい、そこの人!!
・・・って、いけね、みんなこっち向いちゃったよ。そうか、みんなそこの人だもんな。
じゃあ、そこのお侍!!
・・・って、お侍みんなこっち向いちゃったよ。あぶねあぶね。えーっと、名前も知らないんだからなあ、うーんとんーっと。
ええもう、五日六日の旦那! いつかむいか!!」
「おお、なのかようか(七日八日)」
「ここのかとおか!(九日十日)」
かき麿
あとのまつりです。
でも大丈夫。このお侍は以後このお店の常客となり、上客と祭り上げられます。
それにしても、語呂で笑わせる噺は、文章で表現しようとすると難しいですね。