憂鬱な4月

そこで起こり得る瞬間

柄刀一「レイニー・レイニー・ブルー」

2007年01月31日 | 柄刀一

本当は殊能センセーの「樒/榁」を再読しようと思いましたが、なぜかこっちを読んじゃったんで…
柄刀先生は拙僧も好きな作家の一人でして、「サタンの僧院」と「時を巡る肖像」以外は何とか読んでおります。

1959年生まれの北海道在住の方でありまして(関係ありませんが殊能センセーは福井在住です)、今作も北海道でのお話です。
かつて鮎川哲也賞の最終選考に何度か残ったのですが選ばれず、その将来性を買って有栖川先生や島田先生が推薦してデビューしたという作家です。
どっかで読みましたがかなり色々なアルバイトをしたそうです。(親には定職につけといわれていたそうですが…)
華々しいデビューではありませんが、実力は確かな物で様々な趣向を凝らした作品―― 緒方剛志先生が絵を描いていたり(ひでぇ絵だが)するシリーズもあります。もうちょっと真面目に絵を書いたらどうなんだ?上手いんだからさ。まぁ何か事情があるのかもしれないけど…


そさてそんなデビュー作「3000年の密室」を見てよくある歴史ミステリかなとも思っていましたが、結構拙僧は歴史ミステリ好きなんですね、実際読んでみてこりゃあおもしれぇやと興味を持ったしだいにてございます。そのせいで「アリア系銀河鉄道」「龍之介シリーズ」「X年シリーズ」とバンバン買ってしまいました。それこそハードカバーまで…

ところがイマイチ人気が上がらない作家でもあります。いい作品を出すんだけどインパクトに欠けるという意見があるようですが…
薀蓄作家に見られがちですが、読んでると…まぁ確かに薀蓄は多くて拙僧は楽しいのですが、話の味付け程度じゃないでしょうか?


作品形式は連作短編です、この人は短編も上手ですが拙僧は長編のほうが好きですねぇ。短編は切りの良さが重要ですんで、そのせいで幻想的に成りにくい所がありますから…

まぁ簡単な内容ってなもんで。

作品を通しのての主人公は車椅子探偵(本人は探偵だなんて言っていませんが)の熊谷斗志八。交通事故により下半身不随ではあるが、カラーコンタクトをはめ、皮手袋に皮のアクセサリー、車椅子もスポーティー。顔は丹精ながらも異様な装いなうえ、突き刺さるような毒舌と名前の一部から「熊ん蜂」と呼ばれています。
作中には出ていませんが、健→患という経緯があるのですから、勿論我々が何の感動も無く歩けることの喜びも知っていますし、もうそれに戻れないことの苦悩も抱えていると思われます。後天的な障害者はこの苦悩が大きいのですが、斗志八はあまり表面に出しません。
言って改善されるものでもないでしょうし、それを言うことで「俺は障害者なんだぞ」と自分で壁を作るのを彼は嫌っているのかもしれません。
あとは、語り部ではないのですが三人称のメインとなる人物で鹿野真理江というやや頼りない介護福祉士(拙僧よりは知識も技術もあると思いますが…)です。この二人が中心となって(真理江はワトスン役)事件を解決にと導くのだ!

「人の降る確率」
ある病院で看護婦が飛び降り自殺をした。声を聞いた者が現場に駆けつけたが自殺をした人物は見当たらず、翌日になり別の場所で飛び降り自殺と見られる死体が発見された――
なかなか面白いです。単純なアリバイ計画でなく、その場の判断をうまく生かして行っているので謎をうまく作っています。

「炎の行方」
斗志八らの通う養護施設の立ち退きを望む地主の家から不審火が発生した。現場からは地主の妻の死体が発見され、さらに遠隔操作の可能な発火装置が見つけられた。しかし、遠隔操作が可能にもかかわらず容疑者のアリバイは成立した――
これも面白いですねぇちょっとロマンチックなのも柄刀先生の味ではないでしょうか。

「仮面人称」
斗志八達が訪れたのはとある神社の奉納舞。付けると人の本性が見えるという仮面をつけ踊る巫女は舞台の最後に本当に毒を飲み自殺を計る。一命は取り留めたものの、観客や家族の顔が獣のように見えたと語った――
なかなか幻想的な雰囲気での作品です。自殺へのもって行き方が奇を衒っていて面白いですが、どっかで似た様な作品を読んだ気もします。長編でドタバタしていた作品です。

「密室の中のジョセフィーヌ」
ラジオの人気パーソナリティーがマンションの自室で睡眠薬を飲んで自殺を行った。ドアは電子錠であり鍵は部屋の中。完全な密室ではあるが、パーソナリティーの親戚は納得せず、斗志八と共に調査を開始した――
柄刀先生お得意の不可能犯罪物。密室であり拙僧も頭をひねりました。トリックはよく出来た作品ではありますが、インパクトにかける気がします。これも短編の宿命でしょうか…タイトルも結構好きな作品。

「百匹目の猿」
斗志八だけでなく、種々の探偵がある山荘にて行われたパーティーに招かれた。そこで一年前にこの場所で起きた事故を改めて解明することになる。
その事件とは同じようにパーティーで集まった者たちが眠る中、この家の主人が奇声をあげてサンルームのガラスを突き破って転落したというものだった――
魅力的な謎ではありましたが、島田荘司の「21世紀本格」に収録されたことから、脳に関する科学的なトリックがちょっと唐突な感じもしました。
まぁこの手のミステリは好きなんで知識自体は科学的根拠が無いってことは前提なんでかまいませんが、無理やり出したことで若干後味が悪くなっていますねぇ。

「レイニー・レイニー・ブルー」
斗志八の通う養護施設に住んでいる上半身に障害のある少女萌美。その萌美の友人で同じく障害者で大富豪の老人が宿泊先のホテルから突如姿を消した。足が不自由なのにもかかわらず車椅子は残され、謎の書置きが発見された――
面白い状況です、トリックはスゲェとはなりませんでしたがインパクトはおそらく通常の解決よりも大きいと思います。まぁこの作品の本質はトリックや謎でなく、もっと重要な大切なものであるのでいいでしょう。歩けないという障害。障害者の性の問題。これがよりミステリとマッチしていたらすさまじい作品になっていたと思います。このトリックを解ける人は本格をなめていると思います。わかんねぇよこんなの。

「コクピットシンドローム」
アパートの二階に住む老婆の部屋からガス漏れが発覚した。老婆は不在で事なきを得たが、階下の部屋でガスによる窒息と思われる死体が発見された。はたしてこれは老婆の過失なのか?老婆の知人の少年は向かいの家から一部始終を見ていたのだが――
この作品群は障害などのほうに目が言って拙僧にはややインパクトにかける物だったのですが、これは見事です。
密室の作り方は大したことは無いのですが、それに前後するトリックは秀逸かと思います。


こんな感じです。しかし、短編一個一個の感想を書いていくと大変な量になるので今度からはやめます。大変なんだもん。
まぁ柄刀先生は優秀な連作短編をいくつも書いているので、今後も紹介していければと考えています。
介護問題に立ち入ったミステリはもっと無いのでしょうか?今後売れると思うのに。

 

さて、問題に気がつきました。
殊能センセーの感想も書いていってはいるのですが、「子供の王様」が何故か見つかりません。拙僧の本棚には無いようなのでおそらく、ブックセンターイトウの本棚にあると思われます。マイッタ。買いなおさなきゃ…

あと「ヘルプマン」は介護問題を題材にした優れた漫画なので興味のある人は読んでおくといいですよ


眠いの

2007年01月29日 | 

本日を持って、ホームヘルパー2級のスクーリングは終了し、2/1から短期間ではありますが施設実習がスタートします。
非常に緊張しているのも事実ですが、とても勉強になると思うのでしっかり学んで、しっかり盗んで今後に生かそうと思います。

これから訪れる超高齢社会にむけて有意義な勉強であったと思いますし、今後もより学んで生きたいと思います。

ヘルパー1級の申し込みもしなくっちゃね。


本当はミステリの更新をしようと思ったのですが、
やたら眠いので明日にします
殊能センセーでなく柄刀一先生です。
略歴とかも明日ご紹介できればと思いますが、非常に拙僧好みの良い本格を書いてくださる人です。





ところで介護を題材にしたミステリってないんですかね?
もちろん次回感想書こうと思う柄刀先生の「レイニーレイニーブルー」もその内のひとつではありますが…
「半落ち」位しか思い浮かばないです…


人間は弱いからもがく

2007年01月24日 | 殊能将之


そもそもやはりミステリとは大変なのであります。
殊能将之センセーの「鏡の中は日曜日」でございます。

前々から判ってはいたのですが、この先生は細かい。細かいゆえに、完全に理解するのにとても時間がかかる。
前々作の「美濃牛」にもクレタ島の話以外にも横溝正史先生の作品を読んでいないと楽しめないところがあったように、今作は綾辻行人先生の「館」シリーズを読んだほうがより楽しめるといった趣向のもの。他聞を憚るって事は無いのだけれど、
またしても読んでません、館シリーズは。
今作はそんな館シリーズへのオマージュだそうで、登場人物の名前も綾辻先生のシリーズの登場人物から一文字ずついただいて様です。
とはいえ、例によってそれを抜きにしても面白いのですよ、これは。


内容は、
作家鮎井郁介の「水城優臣シリーズ」の最後の作品「梵貝荘事件」は雑誌連載を終え、単行本になる予定であった。しかし人気作品にも関わらず7年経った現在でも発表される気配は無い。名探偵、石動戯作はある出版社から、単行本化できない理由「事件は本当は解決したのか」を調査する依頼を受け行動する…。(注:梵貝荘はボンバイソウって読むんだとさ、拙僧が何を思い出したかはイワズトモガナ…)


ちなみに作中作の水城優臣(これでマサオミって読むんだ、知らなかった)「梵貝荘事件」のあらすじは、まぁ鎌倉にある変な形の館「梵貝荘」で主の異端の仏文学者に招かれた面々のうちの一人が、夜中に屋敷の一番奥まった所で刺殺されていて、その周りに一万円札が撒かれていたよっていう事件です。


序盤は認知症と思われる人物の一人称(そんな事は可能なの?)から始まり、やがて作中作と現代の調査が交互に記述される中盤を経て真相へと集合していく作りです。
ちょっと、おかしい記述はあるのですが、相変わらずテンポよく読めてイイカンジです。館シリーズの空気だけでも知っておけば良かったのかなと思わせてくれました。
ただ、ちょっとWhydunitはアンフェアではないでしょうか、フランス文学に詳しい人でも判るかどうか怪しい物です。
Howdunit はよく咄嗟にそんな事が出来たなと思う程度であり、驚きが不足しています。もちろんどちらも作中作の話ですのでこの本の持つ本質とは違っています。
本質と言ってしまうとややこしくなりますが、重要なのは「誰?」に当たります。もちろんWhodunitの「誰」とは別次元の話になるのですが…


この序盤の認知症の描写、作中作、石動の調査。この三つが上手い具合に作用し、真相に辿り着きます。見事に騙されました。
自分としては非常によくまとまった作品で、殊能センセーの代表作のひとつといっても過言ではないと思います。

第1打席「ハサミ男」で見事なホームランを放ち、次の打席「美濃牛」でエンタイトルツーベース。
しかし3打席目の「黒い仏」で豪快なファールを放ち、客席でファールボールをキャッチしようとしたらそれは爆弾で、球団「新本格ミステリーズ」内で大変な問題になるも後日の初打席「鏡の中は日曜日」でタイムリースリーベースをお見舞いしてくれた感じです
。ワカリヤスイ。

 


そして、この作品をミステリとして読んだ自分の率直な感想を簡単に表現しますと、

ラブロマンスなんでしょうなぁ…やっぱり。

 


今作品に出てくる認知症(作中では痴呆症)の人物はアルツハイマー病です。(作中に表記があります)しかも若年性アルツハイマー病です(家族性アルツハイマーの可能性も有ります)。
情報が少ないので何ともいえませんが、ある程度進行していると考えられ、作中に出てくる家族の介護者は今後、想像を絶する苦労に恐怖、苦痛と戦っていかなくてはなります、それはその認知症の人物を愛していればいるほど重くなります。
もちろんそんな家族のためにヘルパーや施設があるのですが、施設によって扱いは様々であり国もどんどん予算を使わないようにしています。まぁ話がそれましたので戻しますが、殊能センセーがどう思って若年性アルツハイマーを出したのかは判りませんが、それをひとつのテーマにするのは素晴らしいと思います。
何らかの形で少しでも多くの人々に知ってもらう事はいいと思います。
ただ作中認知症の人物がおねしょをしたシーンでヘルパーが「子供に返っちゃったんだから、しかたありませんよ。」といったのはとんでもない発言だと思いました。2001年にもなってるのにホームヘルパーの勉強したのか?その人は。


リスクファクターはある程度出ています(偏食・生活リズム)が原因は特定できていませんし、治療も困難であり現段階での回復は望めないと思っても良いでしょう。ただ進行を遅らせる薬は存在します(もちろん副作用も存在します)。作るのが大変なのか使用者が多いからかは知りませんが値段は高いそうです。

認知症はもちろん前触れはありますが、とめることは出来ません。最終的に、失外套症候群に至ります。
大切なことなんでわかんない場合は調べてください。
だからミステリ小説としては思い部類に入ります、テーマではないので空気はミステリなんですがねぇ・・・どうしても、重く感じ取ってしまいます。

ただ、認知症は誰にも訪れる可能性のある物だと今のうちに覚えておくと良いと思います。

 

 

 

水城は自分のこめかみを人差し指で叩いてみせた。
「でも、人間はここだけじゃないよ…」
手のひらが胸と腹と下腹部を順番に押さえ、
「ここも、ここも、ここも人間なんだ。彼はまだ生きてる。手を握ると、まだ温かい。それでいいじゃない」


アンチかメタか本格か

2007年01月21日 | 殊能将之

ここまで、しょっちゅうblogを更新するのはいつ以来でしょうか、会社辞めたんで多少時間に余裕があるのでできるのでしょう。本格的に次の仕事を始める前にいろいろ学ぼうと思います。

今回はまたしても殊能将之センセーの「黒い仏」でござぁ~い。
まぁメタでは無いのは明らかなんですが、本格とアンチの境界線にあるような感じの作品です。とはいえ、拙僧はアンチがどんなものかはっきり理解しているわけではないのでなんともいえません、アンチって言うならせめて「四大奇書」を読んだほうがよさそうです。トホホ
ミステリは奥が深いなぁ…次から次へと課題が出てくる。プロかバカじゃないとマニアは名乗れそうにないなぁ…
もちろん本格とも違います。


「黒い仏」→「黒仏」→「クロフツ」なんでございますが、はい読んでおりません。クロフツ先生は。
まぁクリスティ先生と同時期の作家で、アリバイ崩しが上手な作家さんだそうです。
つまりこの「黒い仏」はアリバイ崩し作品なのです!

と、えらそうに言ったは良いのですが、この作品賛否両論です。
が、例によって拙僧は結構好きなんですねぇこういうおバカな作品は。

内容はと申しますと、
ベンチャー企業の社長から福岡県にある寺に秘宝の調査を依頼された石動偽作は、助手のアントニオと共調査を開始した。しかし、寺の資料庫での調査も虚しく、一向に秘宝のありかは不明のままであった。一方福岡市内のアパートで身元不明の死体が発見された。部屋内の指紋は、被害者の物を含め一切が発見されず、遺留品と思われる謎の黒い数珠が発見されたのみであった。しかし、調査に無関係と思われる殺人事件も裏で暗躍する恐るべき因果の元収束するのであった…

絶対にこの作品をいきなり読んではいけません。もちろん殊能センセーの作品だからといって「ハサミ男」の後でも駄目です。
この作品は名探偵が名探偵たる所以、すなわちアリバイを解くという神に与えたれた力の本質に触れる可能性がある為です。
ほら、「ハサミ男」には名探偵は出なかったでしょう?だから「美濃牛」読んで石動戯作がディダクティブ・ディレクターから名探偵になる瞬間を見なくてはいけないのです。今作も石動が名探偵として登場します。
別の人物(新しい登場人物)でも駄目ですねぇ、明確に名探偵であるという実績が無いのでは、いまいちこの作品にはそぐわないと思います。
推理が当たるまで名探偵であるという認識は無いでしょうし。

さてこの作品拙僧はトリック当てられませんでした。当てる気も無いのですが、そもそもこんなトリック

あたるわけねぇじゃねえヵよ!!

トリックとしては凡庸というか平均点以下なのですが、そのトリックの使い方が驚愕の一言である意味「ああ~やっちゃった~」といった物です。
前作とは明らかに毛色の違う作品ですし、以降の作品とも違います。その為殊能センセーの作品の中でも異端なのでしょう。
とはいえ石動戯作の真骨頂ともいえる作品ですし、クロフツ先生の名前を出した意味も判ります。本格作家ではなく驚きの作家であることが判ります。
しかし、アントニオがずいぶんと便利キャラになってしまっているのが気になります。
キャラがいまいち生きていないし。ウハハ確かにそうだ、生きている生きていないどころの話じゃないんですもの…
とまぁ人物はともかく相変わらずユーモアや小ネタは上手いです。ホークスネタは面白かった。
が、小ネタに頼ってるという意見もあります。

ちなみにネタバレですがこの作品仏教物かと思いきやクトゥルフ物だからビックリ。
前作「美濃牛」における「ミノタウロス」的な物に近いのですが、もっとやばいことになっちゃってます。
まぁ拙僧は「クトゥルフ」はSFオカルト作品だから殊能センセーのチョイスもうなずける。
これは人によっては全く受け付けないでしょうなぁ…「クトゥルフ」全く知らない人でも楽しめると思いますが、
知らないと若干面白さが下がるので…

ネタバレにはあまり影響しないと思いますが、ラストの一文は強烈です。今までこんな強烈な言葉で閉めたミステリがあるのでしょうか?
もしかしたら、ミステリという体系の中でこの言葉を入れたいがために作ってしまった作品なのでは?と疑いたくもなる所存です。
作品のトリック以上にインパクトのある一言でした。

だって「その背後では人類の存亡を賭けた最後の戦いが始まろうとしていた。」だもんなぁ…

 

前作「美濃牛」では但し書きのところに「岡山県に獄門島が存在しないように、岐阜県に暮枝村は存在しない」と横溝先生をたててるし、
今作「黒い仏」では「本作品はフィクションです。実在の人物、地名、団体名、邪神名が登場する場合も、全ては著者の創造の産物です」ときてます。
いちいちこのセンセーは面白くてたまらない。

ちなみに殊能センセーの取材日記は毒舌で面白いので読んでおいても損は無いと思います。

 


ミノタウロ

2007年01月20日 | 殊能将之

リオの沈まぬ太陽こと、
アントニオ・ホドリゴ・ノゲイラ氏
ホリジェオとは一卵性の双子さんらしいが、やはり良く似ています。弟も強ぇんだから凄い母ちゃんに違いないです。
さて、格闘技の話かとも思われそうですが違います。

ミノタウロはミノタウロでも殊能センセーの「美濃牛」にてございます。

くしくも名探偵石動戯作の初登場するこの作品は、なんの因果か助手のアントニオも初登場。偶然とはいえ面白いです。
まぁ殊能センセーは紅白をBGMに読書をなさるお方ではありますがTVばっかみてるので知ってる可能性もありますね。

そんな石動戯作登場の近作は話題作「ハサミ男」の発表から8ヶ月で出てるんで素晴らしい。
もちろん今もそんなペースで新作を出してくれればなお素晴らしいのですが…

内容はと申しますと、
病を癒すという不思議な力を持った奇跡の泉のあるという鍾乳洞「亀恩洞」。
その効力を体験者から聞いたフリーライターの天瀬はカメラマンの町田、アテンダント(!?)の石動を引きつれ、編集長の指示の元、岐阜県にある暮枝村に訪れた。
地主の許可も下り、静かな農村での撮影と取材を無事に追え、いざ帰路に着こうかというそのとき、鍾乳洞の前で無残にも首を切断された若者の死体が発見された…
土地にまつわる民間伝承、地主の一族の一癖ありそうな面々…事件は解決しないまま新たなる殺人が発生した。

まぁこんな感じでしょうか。
横溝正史先生へのオマージュ的な作品とも言われますし、作中に横溝先生の辞世の句であるところの、どん栗の落ちて虚しきアスファルト  という句も出てきますが、もちろん横溝先生の作品は拙僧読んでおりません。

とはいえ、古きよきミステリの名残とでも言いましょうか、前作「ハサミ男」のような目新しさは感じられませんでしたが、文庫で700ページを超える文章をさくさく読ませる力は健在でしたし、前作同様細かい点での複線や引用、ユーモアなどはやはり見事の一言に尽きます。
無知な自分ではその小ネタの殆どは理解できませんでしたが、巧みな表現で負担にになるどころか、「ネタが細けぇなぁ」と感心するばかりですし、作中に出てくる俳句など、オーソドックスなもの(見上ぐれば永遠のぞく秋の天)から奇を狙った物(アクィナスを嫁に読ませちゃいけません等)まで本当に一人で作ったのかと思うような部分もありますし、見立て殺人など横溝作品にある言われる手法や、
「八つ墓村」にあるようなおどろおどろしさも出ていました。
今後継続していく殊能作品を考えるとこれが本来の殊能作品なのでしょうか。

タイトルは「美濃牛」と書いてミノタウロと読むのですが、作中にもあるのですが
「飛騨牛は岐阜県の黒毛和牛ブランドや。そやから岐阜県のどこで作ろうが、飛騨牛っちゅう名前がつく。飛騨高山で作ろうが美濃加茂で作ろうが岐阜県産なら飛騨牛や。肉質検査さえ通ればな」
とあるように品質検査で合格しなければ飛騨牛と名乗ることはできず、単なる和牛になるそうです。そんな美濃で作られた和牛「美濃牛」が出てくる話なのですが、もちろんギリシャ神話のクレタ島のミノタウロスのことでもあります。ここら辺の理解が深いと多少なりとも作品は面白くなります(クレタ島と暮枝とか…)が、知らなくても優れたミステリであります。

あちこちで殊能作品が文章が稚拙だとか言われてますけど、自分なんかは非常に読みやすかったのでどうなんでしょう、いちいちそんな事考えながら読んでるから楽しくなくなるんじゃないでしょうか?文章が稚拙だとどうなるんでしょう。トリックとかつまらなくなるのかな。

とはいえ、犯行のトリックはちょっとアレレな感じもしました。オーソドックス過ぎたと思います。
カー御大とか島田荘司先生とか読んでると頭が奇想トリックに行きがちで盲点にはなるんですがね。これでトリックがもうちょっとおおっと思うよな物であれば最高だったと思います。

また、なんとも参考引用文献の多いことしめて104冊もちろん「全部ちゃんと読んでいるなんて思わないでください。作者はとても不勉強な人間です」なんてフォロー(?)も入ってお茶目です。

ハサミ男を超えたかという点に関しては超えていないと思います。しかし拙僧は「ハサミ男」よりもこの作品のほうが好きですね。
それは登場人物が生き生きとしているからに他なりません。
前作ではいまいち登場人物に感情移入できず、語り部である主人公もどうしてもつかみどころの無い人間に感じ、逆に警察側の方が読んでいて楽しかった(警察小説みたいだったし)。もちろんそれはあの手法をとった殊能センセーの魔の手にまんまと陥った結果ですが。
ともかく、そういった人間像のしっかり見える登場人物が出てくる、ために場の空気の変化などもわかり易くなったのだと感じます。

とはいえ、今もってミステリをキャラクターで読んでいる拙僧はあんまり偉そうなことは言えません。
だって今作で一番おきにの登場人物は窓音ちゃんですからねぇ…

しかし、恐怖体験ってどれほど人を変化させるものなのでしょうか?そこのところがいまいち判らないために、ちょっとばかし疑問が残りました。微々たる物ですが。


さて次回作は「黒い仏」です。あれの感想を書くのは面白そうだしめんどくさそう

今回はHTML方式というのでやってみましたが、結構いろいろできて面白いかも。
ですが、絵文字バカっぽいので次からは止めます。


mercy snowは誰が為に

2007年01月18日 | 殊能将之
昨日殊能センセーの「ハサミ男」をついつい再読してしまいました。
感想書こうと思ってちょこっと解説を読もうと思ったらこのザマです。しかしまぁ再読することによって改めてこの作品の面白さが知れたような気もします。

あらすじとしては裏文の記載を引用しますと

美少女を殺害し、研ぎあげたハサミを首に突き立てる猟奇殺人犯「ハサミ男」。
三番目の犠牲者を決め、綿密に調べ上げるが、自分の手口を真似て殺された少女の死体を発見する羽目に陥る。
自分以外の人間に、何故彼女を殺す必要があるのか。
「ハサミ男」は調査をはじめる。
精緻にして大胆な長編ミステリの傑作!

細かい内容を書くとすぐににネタバレするので良い裏文ではないでしょうか。
とはいえ内容に触れないと感想もかけそうにありませんのややネタバレ方向で進みます。

初めて読んだのはだいぶ前でありまして、「六とん」を読んだ後に読んだのがこの作品です。
シリアルキラー(連続殺人鬼)が主人公となった一人称捜査パートと捜査班である警察の三人称捜査パートが交互に入っており、
慣れていないとちょっとわかりにくいところもあるかもしれません。
自分は最初読んだときにはまんまと騙されたトリックも読み返してみれば巧みな引用と複線でヒントは多くありました。
いろいろ感想サイト見てると、中盤で判ったという人が多いようなので、最後までコロッと騙されてしまった自分としてはある意味得した気分です。
だって最後の真相のショックがより克明に刻まれるでしょう?
とはいえ、複線、引用の張り方が新人にしてはこなれていますし、その選別の仕方も若造にはできない様な上手さが感じられました。
まぁ、ただ単に調べてみて判ったことなんで偉そうな事はいえませんが「ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア」のくだりなんて全然知りませんでしたよ。
SFファンでも知らないんじゃないのでしょうか?


シリアルキラーの内面に関しても、良く書けており。人を殺す事が何故いけないのかといった内容にまで触れています。
反対意見も種々ありそうですが、この小説の主人公である「ハサミ男」に関してそういうのであれば別に何の問題も無いんじゃないでしょうか。
とはいえ、そんな内面的な事もWhydunitも味付けなんでどうでもいいです。
結局この小説ってWhodunitが主体なのでそっちに重心が行ってますしね。

また、作中のTVでワイドショー中継が頻繁に出てきますが、これは殊能センセーが日中ワイドショーを良く見からでしょうか。
もちろんミステリのアイテムとしての使い方もいいと思います。
ワイドショーや雑誌で出た情報は大衆の(全ての人が知りうる)情報であり、故意にそこに真実を知るものが情報を流すってのは捜査撹乱の良い方法だと感じました。

まぁ文章がこなれていたのは昔から文章を書いていたというのもありますし、以前はSF物の翻訳もやっていたという事ですので、そりゃあ文章はうめぇわなって事でしょう。
おまけにSF小説マニアと来たもんだ。センセーのSF小説を読んでみたいというのは自分だけではないでしょう。
いや、SFでもミステリでもいいから早く新刊を読んでみたいものです


さて、問題の映画のほうですが…
「知夏」(いい名前ですねぇ、知佳ならもっと良かった)の麻生久美子は結構いい感じでしたよ。キャシャーンのヒロインよりいい感じです。
「医師」の豊川悦治は口調は相変わらずいいんだけど、なんだか若すぎな上に超能力を使いそうで、違和感がありましたがまぁいいんじゃないでしょうか。
原作では60歳位の設定だったのでもうちょっとふけた人でもいいかと思いましたが知夏とのバランス考えると問題なく感じました。
「堀ノ内」は阿部寛です。もうちょっと硬い感じがいいかなぁとも思いましたが、動機の部分でやや人間的な所が現れるので良いと思います。
監督は良く知りません。スイマセン。日活ロマポル通ってVシネやってた人です。
音楽が本多俊之とまぁ、あなた!GUNHEDですよGUNHED!!DVD出ますので買います。
「ハサミ男」のDVD見たのは結構前なんで良く覚えてませんが、ちょっと安っぽい作りになっていあたかなぁ…と。
まぁ作品の空気は上手く表現されていましたので、良しとしましょう。
でも邦画よりも洋画が大好きな拙僧としてはちょっと物足りなかったかな…作品のできどうこうの問題ではないのでどうでもいいでしょうが。


いやぁ、自分は否定的な文章を書くのが苦手なんで、褒めるばっかで参考になりませんが人それぞれって便利な言葉で片付けようと思います。
自分にしちゃあ真面目な文章になってしまいましたが、ついでに「美濃牛」も再読して感想書こうと思います。
名探偵石動戯作の活躍にご期待。

しかし殊能センセーのサイトは面白いなぁ

ミステリとの出会いと六枚のとんかつ

2007年01月12日 | その他ミステリ
タイトルは蘇部タソですが、一番好きな作家は殊能将之先生です。
殊能センセーとの出会いはかなり前のことであり、自分がミステリにはまった初期のころになります。

そもそもそれまで小説を数えるほどしか読んでおらず(それもファンタジーかSF)、読書はもっぱら漫画一本だったのですが、
友人に進められた小野不由美先生の「屍鬼」を詠んでからというもの 
「こりゃやべぇ文章とはなんと面白いものなのか!!」
と、当時イラストを趣味で描いていたのでビジュアルの持つ説明力に没頭していた拙僧にとっては驚きであり、かつ新鮮で魅力的な物に感じられたのです。

とはいいながそのころは十二國記を読んだりとミステリにはまっていたわけではおらず、自分の脳内で十二國を想像しつつ楽しんでいました。

しかしそんなファンタジーな部分もある作品と出会うことでおしまいになりました。

そのころ友人たちの間ではある作品が話題となっておりかなりの友人がその本にゾッコンであり、かつ薦めてきましたが、
あまのじゃくな拙僧はなにくそという思いで読まずにいました。
その本とは森博嗣先生の「すべてがFになる」でありまして、友人たちは「S&M」や「V」や「四季」にはまっていったのを覚えています。
もちろんは自分は読まなかったのではまってはいませんでしたが、密室物というので追々読んでみようかとも思います…

ともかく、「なるほどメフィスト賞かミステリの賞かうむむ」と興味を持ったのも事実でして、なにか面白い本がないか本屋を歩いていました。
値段の高いノベルスではなく、文庫のコーナーをぷらぷらと歩いておりますと、はてメフィスト賞というのが目にとまりました。

「第三回メフィスト賞のトンデモミステリー」と帯に書かれたその本は、表紙に首から上が生身であり、
そこから下は胸部デッサン用の様な腕なし状態のひげ親父がこちらを見下している絵がかかれており、ちょっとドン・フライ風のその風貌に興味を覚えて手に取りました。
裏には空前絶後のアホバカトリックで話題の第三回メフィスト賞受賞作がついに登場。

当時はバカミスという言葉も知らないような箱入り娘の拙僧だったわけですが、と学会のトンデモ本シリーズはよんでおりましたので、
「ふむふむ、またおかしな科学知識をつかったミステリーなのかな?と思い。何の因果か買ってしまいました。
家に帰って、これが面白かったら皆に教えてやろう。これは俺が発掘したんだなどと、程度もわきまえずに興奮しながら読み出しました。

「ん・・んん、えっ?ん?あ、ああ~~~~っ!!」とまぁ一発でその脅威の世界に引きずり込まれ、
何なんだミステリというジャンルはこれでもいいのか!?とは、思わず。
むしろ、なんだかとんでもないものに出会ってしまったぞ。
「空想科学読本」を読んだ時に似た後読感でした。

アホバカというよりバカ
拙僧は大好きな作品ですが、人によっては分かれるようで、「下品でどうしようもない作品レベルだが、大好き」
という人や逆に「壁に投げつけたくなる」という人もいます現に大御所作家のの笠井潔先生は「テレビのバラエティ番組がゴミであるのと同様、
基本的には同じ意味で」「単なるゴミである」と、痛烈な批判をしています。拙僧は面白ければなんでもいいのですが、
もうちょっと柔軟になったほうがいいですね、笠井先生は。

どこでもかしこでもミステリとは?本格ミステリとは?と論議をやっていますが、境界線は曖昧な物であり明確な枠をつくれないものだと思いますし、
多くのミステリファンも同じ意見でしょう。しかし、それでも論議が絶えないのは東野圭吾先生作「容疑者Ⅹの献身」の問題でもあるように、受賞作品が本格かそうでないかと
「ミステリ選考作品のジャンル定義」という問題に行き着いちゃってるからなんでしょうかね?そんなものの明確な定義を作って自分で枠を作って。
これはおもしろいけど本格ミステリの定義に外れるので選ばないって考えになっちゃうのでしょうか?本人の捕らえ方の違いって事でいいじゃないですか。

なんだか、プロレスラーの金村キンタロー選手の「俺たちはインディー」「インディーだからって馬鹿にするな」と声高に言っていましたがそれを思いだしました。
枠を作ることで自身のアイデンティティーを守ろうとしているのでしょうか。だれも金ちゃんをインディーだなんて思っていないし、
そもそもそんな壁はもうないのですから。
ちなみに金村キンタロー選手はいい人ですし、非常にうまいレスラーですよ。

とはいえ、論議することはいい事です。相手の言葉を吟味し自分の考えをぶつけるという行為は、脳から引き出した情報を状況に合わせて並べ替え、組み立て、
表現するわけですから、非常に脳の働きを活性化させると思います。
予期せぬとはいえ今後の超高齢社会を見据えてボケ防止に一役買っている「容疑者Ⅹの献身」はすばらしいと思います。
声高に言いましょう。

「ボケ防止に容疑者Ⅹの献身を!!」




なんだか話が超それましたが、六とんは友人にはあまり勧めませんでした。明らかに森博嗣先生とは毛色が違いすぎであり、受け入れてもらえないような感じでしたからです。
しかしプロレスの話は危険です。脱線した先はだいたいプロレスです。

そんな大好きな「六枚のとんかつ」ですが、おかげで今まで以上にメフィスト賞に興味を持ちました。
単純なミステリの賞ではなく、ミステリを主体としたエンタメの賞というのに気がついたからです。
おかげで島田荘司先生にも興味を持ちましたし、ジョン・ディクスン・カー先生にも興味を持ちました。

つまり、こういえます。

自分は蘇部健一を読んでミステリにはまった!と。

そして、拙僧は毎日日記をチェックするまでになった殊能将之先生の「ハサミ男」と出会うのでありました。