清い心と未知のものの為に⑰・・・ダグ・ハマ-ショルドの日記より
銃が発射されたとき、彼は横ざまに倒れた。-------楓の木立の下の、砂利のうえに。
7月の雨をもよおす夕暮れの薄明りのなかで、空気はよどみ、葉むらの濃い影のせいでい
っそう暗くなっている。顏は横を向いて動かず、繊細で、まだ大人になりきっていない。--
その蒼白さが、砂の灰色をした背景からくるくっきりと浮き上がり、こめなみには小さい傷
がある。黒ずんだ血が鼻からゆっくり流れ出て、それだけがこの死んだような光のなかで色
のしみをなしている。
なぜか?------もはやいかなる問いかけも、ひろがっている血だまりのかたへ超えてでて、
きみがすでに逃げ込んだ国へ入りこんでゆくことができないのである。そして、もはやいか
なることばも、きみを呼び返すことができない。弾丸がこめかみに当たるよりずって以前に
死によってえらばれたきみは、すでにわれわれから遠く引き離されて、むこうに行ってしま
っている。------かの永遠の(彼岸)に。------
9月末ごろのことだったにちがいない。それともことによると、その情景そのものが私の記
憶のうちに、それにふさわしい雰囲気を作りあげたのかもしれぬ。
「私たち兄弟姉妹は、ほんとうに幸せにしていました!私はみんながいっしょだった幾年
のクリスマスを思い出します。人生がこんなにも散り散りになってしまうなんて、あのころ、
だれだって予想できなかったでしょう」
いま、このことばと、彼女の感情を迎えた穏かな声とを、私は思い出す。---------あれから
30年たって、彼女の娘が、自分の幼児について、また自分の人生について、同じ碑銘じみた語
句をもたらすのを聞いて。
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