清き心の未知なるものの為に㊼・・・ダグ・ハマ-ショルドの日記より
境界線はどこを通っているのであろうか。これらの夢------美に溢れ、意味に満ち、しかも
明白にわかる意義は認められず、肉眼が眺めたものよりもずっと深く精神の奥底に刻みこまれ
る夢の奥底に刻みこまれる夢------のなかほ旅して、われわれはどこに行きつくのか、恐れも
なく、欲望もなく、どこにいるのか。
現実------肉体とっての現実------の思い出はどこへ消えてゆくのか。それに反して、これら
の夢の世界の映像は古びない。それは思い出のなかの思い出のように生きている。
たとえば夢に見た鳥たち。さらに、夢に見た朝も、夢に見た夜も。
疲れはてた鳥たち、疲れはてた大きな鳥たち、彼らは、夜陰の迫る黒々した水辺にそそり立
つ、巨大な壁のような断崖の上に憩っている。疲れはてた鳥たちが、赤く燃え盛る西空に首を
傾けている。火が血となり、血が煤(すす)がまざる。ひろがる水のかなたの西方を見つめ、無
限に高く、峻急にそびえる円天井を見上げる。安らかに。この広々した遥かな世界が夜の闇に
沈んでゆく瞬間を生きる。口に出したのか、出さなかったのか、ただこんなことばだけが、(
私のことばなのかね彼のことばなのか)消えてゆくのである。-----こう暗くては、返り道を見
つけだすことができない。
夜。私の前には道がのびている。うしろには、弓なりに曲った小径が家のほうにのぼってゆく。
公園のずっしりした木立のかげになった夜の闇のなかで、その家だけが闇の途切れた隙間のよう
になっている。木の下陰を暗闇に包まれて人びとが通っているのを、私は知っている。闇に隠れ
て私のまわりで生命が怯えているのを、私は知っている。家のなかでなにかにかが私を待ってい
るのを、私は知っている。公園の闇のほうから、ただ一羽きりの鳥の叫び声が聞こえてくる。そ
して、私は行く-----むこうの高みへ。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます