洪水を許容する「流域治水」へ、国交省有識者会議
2010/01/19
ダム 前原誠司 国土交通省 民主党政権 政権交代 再検証 国土交通省は1月15日、できるだけダムに頼らない治水策を検討する「今後の治水対策のあり方に関する有識者会議」(座長:中川博次京都大学名誉教授)の第2回会合を開いた。メーンの議事は、ダム事業の見直しを求める市民団体「水源開発問題全国連絡会」の嶋津暉之共同代表へのヒアリング。会合は非公開だったが、会合後にそれぞれ会見した三日月大造政務官と嶋津共同代表によれば、嶋津共同代表がダムの問題点やダムによらない治水策などを提起し、委員との質疑応答もあった。
会議の冒頭であいさつする前原誠司国交相。写真右端前列が水源開発問題全国連絡会の嶋津暉之共同代表(写真:日経コンストラクション)
嶋津氏はヒアリングで、ダムによる治水策の問題点を主に八ツ場ダムを例にとって説明したうえで、新規ダムを治水計画から除くための四つのステップを提起した。
ダムの問題点として、嶋津共同代表が挙げたのは次の四つ。
(1)ダムの集水面積は小さく、あまり大きな効果がない。
(2)雨の降り方によって治水効果が大きく変動するギャンブル的な対策である。
(3)下流に行くほど、洪水ピークの削減効果が減衰する。
(4)ダム地点の洪水が想定を超えると、治水機能が急激に下がる。
そのうえで、新規ダムを治水計画から除くための四つのステップを次のように提起した。
(1)実際に観測された洪水流量に基づいて目標流量を下げる。
(2)新規ダムよりも河道整備を優先する。
(3)河道整備で対応できない部分は洪水を受容する対策を講じる。
(4)想定を超える洪水が発生した場合に備えて、耐越水堤防を採用したり、洪水を受容する対策を講じたりする。
三日月政務官は会見で、嶋津共同代表が提起した四つのステップについて「今後の検討に大いに資する」と評価した。ただし、実行するには課題も多い。三日月政務官によれば、委員から主に次の3点の意見が出た。一つは、目標流量の設定に関して、基本高水流量を含めて確定流量と推測流量との関係や河川の重要度の決め方の問題。二つ目は、憲法で保障されている生存権を侵さないような治水の平等性や公平性の問題。三つ目は、耐越水堤防の技術的な問題だ。嶋津共同代表は会合後の会見で、「敵意をむき出しの委員も一部いたが、おおむね好意的だった。方向性は受け入れてもらえたと思う」と述べた。
嶋津共同代表がヒアリングで述べた考え方は、中川座長が提起した三つの論点に一致する部分も多い。論点には、従来のダムと堤防で洪水を防ぐ治水策から河川の氾濫(はんらん)を許容して流域全体に浅く広く流水のエネルギーを分散させる「流域治水」への政策転換の検討を盛り込んだ。治水対策案、評価・検証の進め方、今後の治水理念の構築の三つの論点について、第4回と第5回の会合で委員が発表する予定だ。なお、次回の第3回会合は委員以外のヒアリングを実施する。
会合では、本会議以外で委員が次の三つのテーマごとに打ち合わせ会議を開くことも決まった。河川対策、流域対策、評価軸や検証の進め方を議論する。
治水策や評価軸の意見を募集
さらに、有識者会議での議論の参考にするために、一般から意見を募集することにした。幅広い治水策の具体的な提案と新たな評価軸の具体的な提案を求める。応募方法や募集期間を近く公表する。
第2回会合は、嶋津共同代表のほかに、淀川水系流域委員会の委員長を務めた元国交省河川局防災課長の宮本博司氏もヒアリングに呼んでいた。宮本氏はこの有識者会議が非公開であることを理由に出席を拒否した。会合の前日の1月14日には31の市民団体が国交省に対して公開を求める文書を提出していた。しかし、三日月政務官によれば、会合の冒頭で中川座長が従来通り非公開とすることを提案し、委員が合意した。
渋谷 和久[日経コンストラクション]
2010/01/19
ダム 前原誠司 国土交通省 民主党政権 政権交代 再検証 国土交通省は1月15日、できるだけダムに頼らない治水策を検討する「今後の治水対策のあり方に関する有識者会議」(座長:中川博次京都大学名誉教授)の第2回会合を開いた。メーンの議事は、ダム事業の見直しを求める市民団体「水源開発問題全国連絡会」の嶋津暉之共同代表へのヒアリング。会合は非公開だったが、会合後にそれぞれ会見した三日月大造政務官と嶋津共同代表によれば、嶋津共同代表がダムの問題点やダムによらない治水策などを提起し、委員との質疑応答もあった。
会議の冒頭であいさつする前原誠司国交相。写真右端前列が水源開発問題全国連絡会の嶋津暉之共同代表(写真:日経コンストラクション)
嶋津氏はヒアリングで、ダムによる治水策の問題点を主に八ツ場ダムを例にとって説明したうえで、新規ダムを治水計画から除くための四つのステップを提起した。
ダムの問題点として、嶋津共同代表が挙げたのは次の四つ。
(1)ダムの集水面積は小さく、あまり大きな効果がない。
(2)雨の降り方によって治水効果が大きく変動するギャンブル的な対策である。
(3)下流に行くほど、洪水ピークの削減効果が減衰する。
(4)ダム地点の洪水が想定を超えると、治水機能が急激に下がる。
そのうえで、新規ダムを治水計画から除くための四つのステップを次のように提起した。
(1)実際に観測された洪水流量に基づいて目標流量を下げる。
(2)新規ダムよりも河道整備を優先する。
(3)河道整備で対応できない部分は洪水を受容する対策を講じる。
(4)想定を超える洪水が発生した場合に備えて、耐越水堤防を採用したり、洪水を受容する対策を講じたりする。
三日月政務官は会見で、嶋津共同代表が提起した四つのステップについて「今後の検討に大いに資する」と評価した。ただし、実行するには課題も多い。三日月政務官によれば、委員から主に次の3点の意見が出た。一つは、目標流量の設定に関して、基本高水流量を含めて確定流量と推測流量との関係や河川の重要度の決め方の問題。二つ目は、憲法で保障されている生存権を侵さないような治水の平等性や公平性の問題。三つ目は、耐越水堤防の技術的な問題だ。嶋津共同代表は会合後の会見で、「敵意をむき出しの委員も一部いたが、おおむね好意的だった。方向性は受け入れてもらえたと思う」と述べた。
嶋津共同代表がヒアリングで述べた考え方は、中川座長が提起した三つの論点に一致する部分も多い。論点には、従来のダムと堤防で洪水を防ぐ治水策から河川の氾濫(はんらん)を許容して流域全体に浅く広く流水のエネルギーを分散させる「流域治水」への政策転換の検討を盛り込んだ。治水対策案、評価・検証の進め方、今後の治水理念の構築の三つの論点について、第4回と第5回の会合で委員が発表する予定だ。なお、次回の第3回会合は委員以外のヒアリングを実施する。
会合では、本会議以外で委員が次の三つのテーマごとに打ち合わせ会議を開くことも決まった。河川対策、流域対策、評価軸や検証の進め方を議論する。
治水策や評価軸の意見を募集
さらに、有識者会議での議論の参考にするために、一般から意見を募集することにした。幅広い治水策の具体的な提案と新たな評価軸の具体的な提案を求める。応募方法や募集期間を近く公表する。
第2回会合は、嶋津共同代表のほかに、淀川水系流域委員会の委員長を務めた元国交省河川局防災課長の宮本博司氏もヒアリングに呼んでいた。宮本氏はこの有識者会議が非公開であることを理由に出席を拒否した。会合の前日の1月14日には31の市民団体が国交省に対して公開を求める文書を提出していた。しかし、三日月政務官によれば、会合の冒頭で中川座長が従来通り非公開とすることを提案し、委員が合意した。
渋谷 和久[日経コンストラクション]