プロ野球 OB投手資料ブログ

昔の投手の情報を書きたいと思ってます

佐藤文男

2020-07-08 09:27:12 | 日記
1978年

長男が生まれたばかり。「ええーっと…」デジタル時計をじっと見て、律儀に指を折り、日を数え終ってからいった。「きょうで48日目です」その仕草、顔が純情だ。「こんどの遠征、長いでしょ。帰ったらまるで変っているでしょうね。生まれたばかりというの、日一日と成長するっていうから‥」一種のオノロケである。初々しい。初めての子に「純一」と名づけた。「純」という字が好きなんです。そして大きくなったら一番の男になるように・・」本人は3人兄姉の末っ子。すっかり有名になったエピソード道に捨ててあった新聞を拾ってみたら近鉄のテスト記事。そこで思いたって、いまに至ったーという、プロ野球選手としては異例の出世物語。「人生って、ホント、わからないものですねえ」と、いま自分でつくづく思っているところだ。新聞でテストの広告を見たーということは事実だ。だが「道に捨ててあった新聞が歩いていた足にひっかかったので、それを拾いあげてヒョイとみたらテスト広告が目についた」という小説か映画のようなシーンについてあらためて聞くと、ニヤッと笑って、「それはどうかな。新聞でテスト広告をみたというのは事実だけどね」少々マユツバの話でも「プロ」なら、それがファンをひきつける看板となるから、ワザとそれを否定しないでソッとしておく選手も多い。だが、テスト生から、人知れない苦労をつづけて一軍ローテーション組にくいこみ、リリーフの切り札といわれるようになってなお純情さを失わぬこの人、あっさりとプロならではの名ドラマを打ち消してしまった。そこがスガスガしい。広島・戸手商。先輩にプロ野球選手はひとりもいない。高校3年の秋、「同級生のほどんどは就職先がきまっていた」ひとり、佐藤だけ、くる話くる話にクビを振った。「コレダと思う仕事がなくって」しばらく野球の話がつづいたあといいなおした。「やっぱり、野球が好きだったんです。野球から離れていくことができなかったんです」近鉄のテストに合格、通知が実家にきて、驚いたのは両親だ。特に、強く反対した母親に、佐藤はいった。「ダメだと思ったら、すぐ帰ってくるんだから・・・」1年たち、2年たち、3年たち・・何度か「寝つかれない夜」が続いた。2年目、ウエスタン・リーグで4勝をあげ、3年目に一軍ベンチに入ったとき「もしかしたら・・・」という気もあった。が、くる日もくる日もフリーバッティング用投手だ。ある日、チームの四番打者が、通りすぎようとしたとき、ひとこといった言葉がある。「いくらフリーバッティングに投げるといっても、打者に好かれるような投手になったら終わりだ」そうだ、と思った。試合前の主力打者にいい気持ちで打ってもらうのがフリーバッティング投手の一つの役目ではあるだろう。だが、佐藤は、その日から、「打たせてなるものか」と思って、投げた。「カーブ、シュート。曲げたり落としたり…」苦心のピッチングは、だが、なかなか認められない。「寝苦しい夜」は5年間、つづく。「暑いし、昼叱られた日など寝つかれないし、汗でもかいて思いきり体でも動かせば気も晴れるだろうと思って」夜、ひとりで暗いグラウンドを走りつづけた。ひとりで室内練習場のネットに向かってピッチングもやった。「シャドーピッチングでは体に覚えこませることはできんと思った」からだ。昨年、4月26日、6年目の初勝利。特別、監督やコーチから例年と違う話があったわけではない。「オープン戦でよく使ってもらったから、ことしはイケるかもしれないぞ・・とは思っていたけど・・」ベンチで、いつものように応援組のひとりだった。突然、「佐藤、行け」それが、いまの「リリーフ男・佐藤文男」誕生のスタートになった。26日現在、3勝5セーブ。「勝ち星とかセーブなど考えない。いまは、起用してくれる監督の期待に応えるピッチングをしたいーただそれだけ」という。中学時代、「オレがいなければ、野球部は成り立たないだろう・・・とテングになってケンカ別れ。野球から離れた」経験をもつ。それがいまい「テスト生」という苦難の道を乗り越えて、「勝ち星やセーブの数より、自分の役目を果たすこと」に生きがいを見出すようになった。いま、「深夜のひとりぼっちのランニング」の思い出がつまっている藤井寺球場の近くに、幼なじみの宏恵夫人と純一ちゃんとの幸福な日々。テスト生時代に比べれば、給料もずいぶんあがったんだろうね、と聞くと、また律儀に計算してから、「6倍になりました」いつかプロ野球選手になるんだと夢をみている少年たちには、大洋・高木選手とともに佐藤文投手のガンバリズムは、いい励ましになるだろう‥と、思わずいったら、真剣な表情で答えた。「いえ、ボクのような無鉄砲なことは、やめた方がいい。本人はいいけど、まわりの人たちが大変だ」6年間の苦労がしのばれた。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 平沢隆好 | トップ | 乗替寿好 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

日記」カテゴリの最新記事