5席ほどのカウンター。
左端に初老の男。
なにやらケータイだかスマホだかの画面を抱え込むようにいぢっている。
最近、やたらと日常にはびこっている姿だ。
オレは、なんだか、好かない。
コミュニケーションそのものよりも、コミュニケーションツールにとらわれているように見える。
少し、座面が高めなカウンターイス。
線対称を取るように、オレは右端に座る。
オレが背中を向けている、10人程が座れそうなテーブルには、男女がひと組。
これまた、女はケータイを覗きこみ、男は間を持て余すようにきょろきょろしている。
だめだな、こりゃ(笑)。
自分の女なら、ちゃんと躾しろ。
オープンキッチン。
この、調理場が俯瞰できるカウンター、大好きだ。
左側はホールとの連絡カウンター。
ホールと厨房はココを連結点にして、オーダーと料理が交換されている。
中央には配膳台。
出来上がった料理が湯気をたててつつ、ココで皿やドンブリに盛られていく。
周りには、箱やザルに取られた食材達が調理を待ち焦がれている。
右側は、火場。
食材を待ち構えているコンロの頭上には、巨大な換気扇フードが並ぶ。
オレに近い、手前、最もカウンター寄りのコンロは予備だろうか。
500Φはあろうかという竹製の巨大なセイロが乗っているが、湯気が上がっているのは、見たコトがない。
その奥は、焼ギョウザ用専用の、鍋。
そして、配膳台の正面に位置するのが、料理人らしいユニフォームの、店主と思しき男と、その中華鍋。
なにやら、鍋を振っている。
彼の火台の左側には、調味料のバットが並ぶ。
開口幅100×高さ150、深さは100くらいだろうか。
15位、マス目のように並んでいる。
その調味料をはさんで奥には、鍋、ジャーレン+オイルポッド。
最も裏口に近い位置が、麺場で麺用の一段と大きな鍋がぐらぐらと湯で満たされている。
その湯の前。
彼、がいる。
年の頃は、オレの父親ほどだろうか。
長くもなく、短くもない、昔のシチサンにも似たような白髪。
彼が若い頃は、決して小柄ではなかったと思うが、店主と比べれば小柄。
でも、厨房を多忙に行き来する、追回しの若けぇ者よりは身長も高い。
作務衣だろうか、どこか和服のような服装に、腰からの長いエプロン。
彼が、オレにとっての主人公だ。
ちょうど、五目そばを盛りつけているようだ。
どんぶりに山になっている五目そばが見える。
ふたつあるので、後ろのカップルのだろうか。
料理が出ていくのを見届けつつ、彼は、一旦、イスに座った。
海の家などでよく見かける、背もたれのない、あのパイプイスのようだ。
オレのオーダーは通っているだろうに、彼は、動こうとしない。
そこからみえるであろう、店内の様子を、ながめているようだ。
後ろから、聞こえる。
「五目そば、もやしそば、お待たせしましたぁっ」
「わぁ、すっごいな」
「アタシ、食べきれないわよ」
愚か者。
確かに、この店は、大きい盛りで有名ではある。
あるが。
海鮮中華料理の本道を心得ている店なのだ。
飽食の野次馬が、興味本位で、何をいうか。
その卑下た声をオレの耳に入れるな、女。
オレは、そんな胸元にダマされたりはしない。
彼は、まだ、動かない。
店主が、盛り付けの終わった何やらを配膳台から押し出す。
若けぇ者が連絡カウンターに料理を差し出してなにやら声をあげる。
ホールのおかみさんが料理を持ち出していく。
彼は、まだ、動かない。
おかみさんは、オレと反対側の初老の目の前に、先ほどの料理を差しだす。
「上海やきそば、おまたせしました」
くっ、あんた、地元、だな???
粋なチョイスじゃねぇか。
近頃は、中華料理店でも、あの暴力的なソース焼きそばを出す店が散見するのに呆れて、のオーダーだろ?
ま、オレには興味のないメニューなんだがな。
敬意は持つよ、あんたには(笑)。
その間にも、客は店内に数組入ってきている。
オーダーもいくつか声がする。
後ろのテーブルに、また、カップルが。
いや、父と娘か。
ふと、キッチンに視線を戻すと、彼は、既に動き始めていた。
つい、ニヤけそうになってしまう自分を、抑制する。
オレは、いつもの通りの彼の手順を、いつもの通り見つめるだけだ。
まずは、エビ。
大きな業務用のバットへ手を伸ばし、上から無造作につかめる限りのエビを、油の鍋に。
ジャーレンに、無造作に掴みあげた野菜類を放り込む。
麺をほぐしながら、湯の中に投じていく。
2人前か。
麺を少しかき混ぜてから、彼は、エビの入った油の鍋に目をやる。
彼は、鍋を見つめる。
見つめている。
まだ、見つめている。
少し、鍋の中のエビを、揺さぶるだろうか。
別のジャーレンを右手に取り、エビをすくうような、すくわないような。
いや、すくった。
野菜の上で、油を、切る。
油を野菜に、かける。
これが、油通しになるようだ。
油通しの油が全てポットに戻った。
彼は、その鍋をそのまま、火にかける。
エビと、野菜が鍋に入る。
中華のあの、音、コレは音楽だと思うのだ。
彼は数回鍋を振ると、その鍋に、スープ用の寸胴からスープを入れる。
さらに中華の音楽がその高揚を高める。
そのまま、麺あげ網を手に取り、ふたつのドンブリに麺だけをあげていく。
そう、麺の加熱時間は短い。
ソレには、理由があるのだが。
彼は、中華お玉で調味料を無造作に鍋に投入していく。
1、2、3、4種類だろうか。
最後は水溶きカタクリか。
中華鍋の中を数回お玉で混ぜ返すと、彼は、麺の上に鍋の中身を流し込んでいく。
大きく上がる湯気。
ふん。
ニヤケ顔にならないように、目線を外す。
15秒もしないうちに、後方からおかみさんの声がする。
「えびそば、お待たせしましたぁ」
オレは右側によけながら、目前にあらわれたえびそばに目をやる。
うんうん、これだよ、コレ。
厨房に目をやると、彼はまた、座って店内を眺めている。
オレはもどかしく、左手で箸の袋を抜きさった。
右手と前歯で、箸を割る。
ココロのなかで、なぜだか、詫びるように、ヒトコト。
「いただきます」
えっと。
2/11月曜休日、定期便でございます(笑)。
10時市原PA下り。
11時入店予定。
雨天中止。
左端に初老の男。
なにやらケータイだかスマホだかの画面を抱え込むようにいぢっている。
最近、やたらと日常にはびこっている姿だ。
オレは、なんだか、好かない。
コミュニケーションそのものよりも、コミュニケーションツールにとらわれているように見える。
少し、座面が高めなカウンターイス。
線対称を取るように、オレは右端に座る。
オレが背中を向けている、10人程が座れそうなテーブルには、男女がひと組。
これまた、女はケータイを覗きこみ、男は間を持て余すようにきょろきょろしている。
だめだな、こりゃ(笑)。
自分の女なら、ちゃんと躾しろ。
オープンキッチン。
この、調理場が俯瞰できるカウンター、大好きだ。
左側はホールとの連絡カウンター。
ホールと厨房はココを連結点にして、オーダーと料理が交換されている。
中央には配膳台。
出来上がった料理が湯気をたててつつ、ココで皿やドンブリに盛られていく。
周りには、箱やザルに取られた食材達が調理を待ち焦がれている。
右側は、火場。
食材を待ち構えているコンロの頭上には、巨大な換気扇フードが並ぶ。
オレに近い、手前、最もカウンター寄りのコンロは予備だろうか。
500Φはあろうかという竹製の巨大なセイロが乗っているが、湯気が上がっているのは、見たコトがない。
その奥は、焼ギョウザ用専用の、鍋。
そして、配膳台の正面に位置するのが、料理人らしいユニフォームの、店主と思しき男と、その中華鍋。
なにやら、鍋を振っている。
彼の火台の左側には、調味料のバットが並ぶ。
開口幅100×高さ150、深さは100くらいだろうか。
15位、マス目のように並んでいる。
その調味料をはさんで奥には、鍋、ジャーレン+オイルポッド。
最も裏口に近い位置が、麺場で麺用の一段と大きな鍋がぐらぐらと湯で満たされている。
その湯の前。
彼、がいる。
年の頃は、オレの父親ほどだろうか。
長くもなく、短くもない、昔のシチサンにも似たような白髪。
彼が若い頃は、決して小柄ではなかったと思うが、店主と比べれば小柄。
でも、厨房を多忙に行き来する、追回しの若けぇ者よりは身長も高い。
作務衣だろうか、どこか和服のような服装に、腰からの長いエプロン。
彼が、オレにとっての主人公だ。
ちょうど、五目そばを盛りつけているようだ。
どんぶりに山になっている五目そばが見える。
ふたつあるので、後ろのカップルのだろうか。
料理が出ていくのを見届けつつ、彼は、一旦、イスに座った。
海の家などでよく見かける、背もたれのない、あのパイプイスのようだ。
オレのオーダーは通っているだろうに、彼は、動こうとしない。
そこからみえるであろう、店内の様子を、ながめているようだ。
後ろから、聞こえる。
「五目そば、もやしそば、お待たせしましたぁっ」
「わぁ、すっごいな」
「アタシ、食べきれないわよ」
愚か者。
確かに、この店は、大きい盛りで有名ではある。
あるが。
海鮮中華料理の本道を心得ている店なのだ。
飽食の野次馬が、興味本位で、何をいうか。
その卑下た声をオレの耳に入れるな、女。
オレは、そんな胸元にダマされたりはしない。
彼は、まだ、動かない。
店主が、盛り付けの終わった何やらを配膳台から押し出す。
若けぇ者が連絡カウンターに料理を差し出してなにやら声をあげる。
ホールのおかみさんが料理を持ち出していく。
彼は、まだ、動かない。
おかみさんは、オレと反対側の初老の目の前に、先ほどの料理を差しだす。
「上海やきそば、おまたせしました」
くっ、あんた、地元、だな???
粋なチョイスじゃねぇか。
近頃は、中華料理店でも、あの暴力的なソース焼きそばを出す店が散見するのに呆れて、のオーダーだろ?
ま、オレには興味のないメニューなんだがな。
敬意は持つよ、あんたには(笑)。
その間にも、客は店内に数組入ってきている。
オーダーもいくつか声がする。
後ろのテーブルに、また、カップルが。
いや、父と娘か。
ふと、キッチンに視線を戻すと、彼は、既に動き始めていた。
つい、ニヤけそうになってしまう自分を、抑制する。
オレは、いつもの通りの彼の手順を、いつもの通り見つめるだけだ。
まずは、エビ。
大きな業務用のバットへ手を伸ばし、上から無造作につかめる限りのエビを、油の鍋に。
ジャーレンに、無造作に掴みあげた野菜類を放り込む。
麺をほぐしながら、湯の中に投じていく。
2人前か。
麺を少しかき混ぜてから、彼は、エビの入った油の鍋に目をやる。
彼は、鍋を見つめる。
見つめている。
まだ、見つめている。
少し、鍋の中のエビを、揺さぶるだろうか。
別のジャーレンを右手に取り、エビをすくうような、すくわないような。
いや、すくった。
野菜の上で、油を、切る。
油を野菜に、かける。
これが、油通しになるようだ。
油通しの油が全てポットに戻った。
彼は、その鍋をそのまま、火にかける。
エビと、野菜が鍋に入る。
中華のあの、音、コレは音楽だと思うのだ。
彼は数回鍋を振ると、その鍋に、スープ用の寸胴からスープを入れる。
さらに中華の音楽がその高揚を高める。
そのまま、麺あげ網を手に取り、ふたつのドンブリに麺だけをあげていく。
そう、麺の加熱時間は短い。
ソレには、理由があるのだが。
彼は、中華お玉で調味料を無造作に鍋に投入していく。
1、2、3、4種類だろうか。
最後は水溶きカタクリか。
中華鍋の中を数回お玉で混ぜ返すと、彼は、麺の上に鍋の中身を流し込んでいく。
大きく上がる湯気。
ふん。
ニヤケ顔にならないように、目線を外す。
15秒もしないうちに、後方からおかみさんの声がする。
「えびそば、お待たせしましたぁ」
オレは右側によけながら、目前にあらわれたえびそばに目をやる。
うんうん、これだよ、コレ。
厨房に目をやると、彼はまた、座って店内を眺めている。
オレはもどかしく、左手で箸の袋を抜きさった。
右手と前歯で、箸を割る。
ココロのなかで、なぜだか、詫びるように、ヒトコト。
「いただきます」
えっと。
2/11月曜休日、定期便でございます(笑)。
10時市原PA下り。
11時入店予定。
雨天中止。