ユージニア
恩田陸 著
角川 2005年
★第59回日本推理作家協会賞長編及び連作短編集部門受賞作
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タイトルのスペルは「Eugenia」で、これは英語でフトモモ科フトモモ属の植物の総称とのこと(※1)。作中では「白い百日紅の花」がキーワードとして登場するが、サルスベリはフトモモ目ではあるがフトモモ科ではない。まあ些細な話ではあるが。
K市の名家である青澤家の、祝宴の席を襲った毒殺事件。17人もの死者を出したこの事件は、一人の男の、自白の遺書を残した自殺により、謎を残しつつ決着し、人々から忘れ去られた。
「リドルストーリー」という言葉があって、「ラストをぼかして結末や解決が謎のまま残るミステリの形態」という意味である(※2)。その用語を知らなかった以前の私は「恩田陸テイスト」なる造語をひねり出したわけだが(※3)、今回紹介するのは恩田陸のリドルストーリーの代表格というべき作品。
物語は、毒殺事件から数十年経って、事件関係者に当時の話を聞く形式で進む。日本では芥川龍之介の「藪の中」(黒澤映画「羅生門」の原作)で有名なスタイルであり、視点の違いによる証言の変幻が物語の鍵となる。「現在」の証言とは別に、事件から十数年後に一人の大学生の卒論を元にしてこの事件を描いた小説『忘れられた祝祭』の話も絡まり、内容はさらに複雑化する。
私は途中からミステリというよりもホラーとしてこの小説を読むようになった。ちょうど初めて読んだときに風邪気味で、頭が熱っぽくなっていたからという理由もあるかもしれないが、底知れぬ深淵に踏み込もうとしているような恐怖に襲われたのである。熱と恐怖がないまぜになった、読後のぐらぐらした感覚は今も忘れ難い。
まあ一般にはミステリとして読まれるべき作品であろう。自分なりの「答え」を見つけ出してみてほしい。
(※1)『ジーニアス大英和辞典』(小学館)より
(※2)『野生時代 第56号』(角川書店)より、恩田陸と米澤穂信の対談の脚注
(※3)個人的には、「リドルストーリー」は作意であり、「恩田陸テイスト」は読者の感覚なので、微妙にニュアンスは異なる。
この本読んだの実は去年の11月なんで、実は1年以上経ってます。書評を書くのが遅れに遅れている関係上たまたま重なったので、奇遇としか言いようがないですなこれは。
都合が合えば、同窓会で会いましょう!