あめ~ば気まぐれ狂和国(Caprice Republicrazy of Amoeba)~Livin'LaVidaLoca

勤め人目夜勤科の生物・あめ~ばの目に見え心に思う事を微妙なやる気と常敬混交文で綴る雑記。
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ビョーキがはやっとる

2015-03-10 21:08:31 | 日替わりchris亭・仮設店舗
花粉症持ちには辛い季節ですが、歴史書籍レビュー第百十七回は、それどころではない重病のお話としましょうか。


ノーマン・F・カンター『黒死病 疫病の社会史』(青土社)

黒死病。ペスト菌によって引き起こされる伝染病で、敗血症を併発し体中に黒い斑点を生じることからこの名前で呼ばれるようになりました。この本を読んで初めて知ったのですが、中世に大流行してヨーロッパを恐慌に陥れた「黒死病」には、ペストだけではなく炭疽症(炭疽菌が引き起こす、家畜から人にうつる伝染病。やはり黒いあざができる)も含まれているという説が有力であるようです。

タイトルが「疫病の社会史」なので、黒死病、ことに14世紀のイングランドを中心とした大流行が社会にもたらした変化に主眼が置かれています。とはいえ、医学史、病理学史的な話もないわけではなく、前述の「炭疽病説」や、当時の病の解釈と対処法などの記述もあり、面白く読めました。

一方で本題の社会史について。章ごとに階級構造やユダヤ人の地位、文化的モチーフといった要素を取り上げ、黒死病以前と黒死病以後でどのような変化があるのかを示唆していく流れなのですが、これがなかなか難敵。本の中心は14世紀の黒死病大流行のはずなのですが、「それ以前」と「それ以後」についての分量が非常に多く、一章ごとに時系列もリセットされるため、「そこに黒死病の大流行があったことの影響とは何ぞや」という核心部がかなり見えづらいものになっています。
分量の比以外にも原因はありそうです。まず一文一文がかなり長く構文が掴みとりづらい構造であり、「~であるばかりか、」という表現を多用するなどやや癖の強い訳も相まって「消化に悪い」文章になっています。また、慎重な姿勢とも評価できるのでしょうが、断定的な物言いが少ないことも、ぼんやりした印象の原因となっているように思われます。
テーマについてはかなり大胆な取捨選択が行われているようで、黒死病に端を発するユダヤ人迫害については大きくページが割かれている一方、それと密接に関わっていると思われる「魔女狩り」については一切省かれています。

ヨーロッパの宗教史や思想史についてある程度の知識を持つことが前提となっているように見受けられる点も含めて、あまり一般におすすめはしかねるというのが正直な感想です。



所用につき、次週の更新はお休みさせていただきます。ご了承ください。

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