ORGANIC STONE

私達は地球を構成する生命を持った石に過ぎないのですから。

人生はジョークだぜ!:ディア・ウエンディ(2005)

2006-11-23 10:42:03 | 映画:ミニシアター系
Dear Wendy(2005)

 この映画は決してシリアスな映画ではありません。デンマーク・フランス・ドイツ・英国の共同製作、ラース・フォン・トリアー監督の脚本による、シリアスなテーマを内包しながらも、スタイリッシュな映像、ブラックユーモア溢れるストーリーの、現代のファンタジーです。「銃」に対する私たちの恐れとあこがれをコメディタッチのオブラートにくるみ、6人の若者たちの皮肉な運命を見せてくれます。この奇妙な映画は、カテゴライズするとすればアート系ドラマ/ファンタジー/コメディでしょうか、しかし決して難解ではなく、エンターテイメントとして優秀です。つまり面白かったってこと!

 アメリカの、とある炭鉱町。「親愛なるウェンディへ・・・」で始まるこの映画、ウェンディとは誰なのかはストーリーの途中で種明かしされます。炭鉱で働くことが「男の勤め」であるという風潮の炭鉱町で生まれ育ったティーンエイジャー、ディック(ジェイミー・ベル)は、ひ弱で、炭鉱労働者として働けず、町の中心にあるスーパーで店員をしていました。彼は天涯孤独で、父親が死んでから面倒を見てくれたのはやさしい近所のお婆ちゃんクララベルでした。ある日、クララベルの孫セバスチャン(ダンソ・ゴードン)の誕生日プレゼントに購入したおもちゃの拳銃が、実は本物の銃だったところから、物語は俄然緊張感を帯びてきます。その拳銃を見たスーパーの同僚スティービー(マーク・ウェッバー)は彼も拳銃を持っていると打ち明けます。そして彼らは廃坑となった炭鉱へ忍び込み、拳銃の試射をすることをひそかな楽しみとするのでした。

←ディック(ジェイミー・ベル)と、セバスチャン(ダンソ・ゴードン)。

 彼らは拳銃を「力の象徴」とし、それを携帯することで自分に「力」を与える神聖なお守りとして、銃への異常な愛情を持ち始め、炭鉱町の「負け犬」である他の若者を仲間にし、「ダンディーズ」という秘密結社を作ります。それは最初は子供っぽい、だれでも経験のある「隠れ家ごっご」「神聖な宝物ごっこ」の延長にあるお遊びでした。もちろん彼らは彼らの宝物が十分な威力を持つ武器だということは分かっています。彼らは名前を付けた拳銃を各自携帯しますが、それを決して使用しないというルールを決めることで自分たちは「平和主義的拳銃愛好者」であると定義づけるのです。彼らの行為は決して特殊ではありません。実際に学校でいじめられている子供たちが、学校へナイフなどの武器を「お守り」として持っていくことはあるでしょう。彼らは「ダンディーズ」と同じく、使用するつもりはありません。ただ武器を携帯しているという心理効果、自分が強くなったような気分が、彼らに自信と忍耐力を与えるのです。が、どんな状況でもその武器を使用しないでいられるのかどうかは、誰もが疑問に思う点です。

←「ダンディーズ」の儀式。。登場人物ほとんど1980年以降の生まれです。若いね~

 ご想像どおり、彼らの幸せな時間は長くは続きませんでした。正当防衛とはいえ、殺人を犯し保護観察の身のクララベルの孫セバスチャンが「ダンディーズ」に加わったことで、グループの均衡はゆっくりと壊れていきます。彼はグループの中で、ただ一人の本来の用途で銃を使用した経験者でした。実際に武器を使用した者と、そうではない者の違いは明白です。彼は今までお遊びの延長でしかなかった彼らの神聖なるスペースに、「現実」を持ち込みました。そして外へ出るのを恐れるようになった年老いたクララベルが、100メートルほど離れたいとこの家を尋ねるのを助けるために「ダンディーズ」の立てた計画は、想像もしていなかったクララベルの行動により、思いも寄らぬ悲劇を招きます。

←最初に「戦い」を挑む両足が無い赤毛の青年ヒューイ(クリス・オゥーエン)。私この人、気に入りました。

 ラース・フォン・トリアー監督「奇跡の海」でもそうでしたが、映画のクライマックスも、かっこいいんだか馬鹿なんだか、笑っていいのか悲しんでいいのか非常に戸惑う、という不思議な感覚です。もし「奇跡の海」が気に入った人ならこの映画の奇妙な結末も楽しめるはず。私は文句なしに★5つ。なぜなら彼らは、命を賭けて最後にはコーヒー豆を配達することに成功したのですから・・・



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