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足繁く通う演奏会の感想等でクラシック音楽を追求/面白すぎる台湾/イタリアやドイツの旅日記/「ドイツ留学相談室」併設

吉成文乃(MS)/正住真智子(Pf):シューベルト「冬の旅」

2019年05月28日 | pocknのコンサート感想録2019
5月26日(日)ホームコンサート#17 at Uchida's House 
Schubertiade 2019 ~シューベルトに寄せて~
内田邸音楽室

【曲目】
♪ シューベルト/湖上にて D.543b
♪ シューベルト/歌曲集「冬の旅」 D.911
♪ シューベルト/夜と夢 D.827
【アンコール】
♪ 武満徹/小さな空

MS:吉成文乃/Pf:正住真智子

世田谷の閑静な住宅街の個人宅で行われたコンサート。メゾの吉成さんとピアノの正住さんが、シューベルトの大作「冬の旅」に挑んだ。初夏に相応しい、生き生きと詩情豊かな「湖上にて」に続き、「冬の旅」のまず前半12曲が歌われ、お茶とケーキ付きの長めの休憩を挟んで後半の12曲が演奏された。吉成さんの歌う「冬の旅」は、2年前にドイツ語会話学校のレクチャーコンサートで一部を聴いたことがあり、そのとき全曲を聴きたいと思った願いが実現した。

「冬の旅」の全曲演奏は多くの歌手が手掛けるが、僕が全曲演奏に立ち合うのは15年前のボストリッジ以来とわかった。もっと聴いていると思ったが、長大で、内容が超重量級の歌曲集を聴くのは覚悟が必要で、気軽に足を向けられないオーラを放っているのかも知れない。

この歌曲集の持つストイックな厳しさ、現実離れした畏れ、押し殺された気分に抗い静かに燃える愛と憧れの炎、そして、死という「救い」も得られず彷徨う魂… 吉成さんはこれらに真っ直ぐに向き合い、言葉をギュッと凝縮させて、そこに熱く血の通った感情を注入して行く。とりわけ、堰を切ったように迫る感情の激しい吐露、例えば第7曲「川の上で」での、去った恋人を思うわが心への抑えがたい衝動、第12曲「孤独」での「これほどみじめではなかった」という独白や、第15曲「からす」の「墓場までついて来い」という叫び等での、強烈で濃厚な歌からは凄みさえ伝わってきた。穏やかなシーンでの内面の表現も心に沁みるものがあり、聴くごとに表現力の幅が広がっているのが感じられた。

歌と共に重要な役割を担う正住さんのピアノは、安心して身を委ねたくなる頼もしさがある。シーンの「背景色」が自然に変化して歌を先導する場面もあった。涙のしずくが落ちる様子や、恋人の町から逃れ去る際の「躓き」、近づく郵便馬車に高鳴る鼓動など、具体的な描写がどれもリアルで、かつそれらが突出せずに、大きな音楽の流れのなかに佇んでいる。様々なシーンが描かれた一枚の大きな絵を観ているような感覚。歌を包み込む大きさを感じた。

それにしてもこの歌曲集と向き合っていると、どの曲のなかにも様々な感情が入り乱れ、しかも、ポジティブな言葉なら単純に明るく憧れを込めて表現すればいいというわけではなく、ではどう表現すべきか、更に一つの曲のなかでの表現のバランスや、歌曲集全体のなかでの位置づけなど、突き詰めれば突き詰めるほど難関にぶち当たる作品で、生涯をかけて取り組む価値のある作品であることを改めて感じた。

終演後は演奏者を囲んだパーティーに参加させて頂いた。尽きぬ話から、演奏者のお二人の音楽に対する情熱や素顔、この会を主宰したオーナーさんの思い、参加者の様々な感じ方などが伺え、楽しく貴重な時間を過ごすことができた。まさに「シューベルティアーデ」を体験した演奏会だった。

東京藝術大学学位審査会公開演奏会より 2019.1.15 奏楽堂
世紀末ウィーンの光と陰~金成佳枝/吉成文乃/正住真智子~ 2017.10.9 やなか音楽ホール
ドイツ語学院ハイデルベルク・レクチャーコンサート「冬の旅」 2017.4.8

♪ブログ管理人の作曲♪
金子みすゞ作詞「私と小鳥と鈴と」
S:薗田真木子/Pf:梅田朋子
子守歌 ~チェロとピアノのための~
Vc:山口徳花/Pf:奥村志緒美
合唱曲「野ばら」
中村雅夫指揮 ベーレンコール
金子みすゞ作詞「さびしいとき」
金子みすゞ作詞「鯨法会」(YouTube)
以上2曲 MS:小泉詠子/Pf:田中梢
「森の詩」~ヴォカリーズ、チェロ、ピアノのためのトリオ~(YouTube)
MS:小泉詠子/Vc:山口徳花/Pf:奥村志緒美

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