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仲道郁代 ピアノリサイタル~第29回 交詢社「音楽と食事の夕べ」~

2019年12月26日 | pocknのコンサート感想録2019
12月21日(土)仲道郁代(ピアノ&お話し)
~第29回 交詢社「音楽と食事の夕べ」~
交詢社ビル9F 食堂

【曲目】
♪ ベートーヴェン/ピアノ・ソナタ第8番ハ短調 Op.13「悲愴」
♪ドビュッシー/ベルガマスク組曲~「月の光」
♪ブラームス/6つの小品Op.118~第2曲
♪ショパン/バラード第2番ヘ長調 Op.38
♪ショパン/バラード第3番変イ長調 Op.47
♪ショパン/バラード第4番ヘ短調 Op.52
♪ショパン/バラード第1番ト短調 Op.23
【アンコール】
♪エルガー/愛の挨拶


縁あって銀座の交詢社ビルの食堂で行われた仲道さんのディナー付き会員制ピアノリサイタルを聴く機会を得た。交詢社は福沢諭吉の提唱で慶應義塾の同窓会を中心に創設された伝統ある倶楽部。会場となった食堂はシャンデリアが並び、歴史と風格を感じる洋風大広間で、そこに据えられたピアノは1878年製のスタインウェイ。美味しいフルコースのフレンチが振る舞われたあと、仲道さんの登場となった。

このスタインウェイの楽器選びには仲道さんが立ち会ったとのこと。現代のフルコンサートグランドと比べるとかなり小ぶりで、脚や側板に彫刻が施された名器の印象。そしてその音は、職人が丹精込めて制作した楽器にしかないような固有の、芯のしっかりした硬質で艶のある響きがした。仲道さんは性格の異なる曲目でこの名器の特長を活かし、音楽に合った響きを引き出していた。

近年の仲道さんのリサイタルでは、演奏と並んでトークにも重点が置かれ、聴き手を作品の深い世界へ導いてくれ、また仲道さんが作品にどう対峙しているかを知ることができる。

ベートーヴェンの「悲愴」では、冒頭のたった一小節に衝撃、希望、ため息といった世界が凝縮されていて、このモチーフを様々に変化させながら音楽ができているという構成について紹介。ドビュッシーの「月の光」は、海辺にピアノを置き、波の音を聴きながら演奏する機会があったエピソードを紹介しつつ、波と光と時間の経過を作品に投影させた話、ブラームスの間奏曲では、真相は闇に包まれているブラームスとクララの関係を音楽から読み解こうとする話。

そして全曲を披露したショパンのバラードでは、祖国を思う気持ちがいかに深くショパンのパーソナリティーを形成し、作品に影を落としているかという話が印象に残った。例えば第1番のベースにあるポーランドの悲しい伝説とショパンの祖国への思いとの結びつきのエピソードなどから、知っているはずのショパンの祖国への気持ちが更に身近に深く感じられた。以前と同じ話を繰り返さない引き出しの多さは、彼女が常に研究を重ね、成長している証でもある。

仲道さんの話はどれも内容が詰まっていて作品と直結しているため、演奏から新たな感情や発見が呼び覚まされる。「悲愴」からは、強弱やテンションの激しい対比といった単純な構図よりも緻密で深い知性と感性のバランスを感じ、「月の光」からは穏やかに打ち寄せる波の情景を感じた。ブラームスの間奏曲からは、温かさや懐かしさに包まれた中に、ブラームスのやり場のない心の痛みや迷いがひしひしと伝わってきた。

ショパンの4つのバラードからは、ショパンらしい華やかな一面も聴くことができるが、仲道さんの演奏からはそうした憧れいっぱいで華麗な世界よりも、ショパンが抱える闇や孤独、もがき苦しむ姿がありありと浮かんできた。話を聴いたことが演奏の印象に影響したことはあるかも知れないが、それは音楽を聴く上での小さな助けでしかないし、話の内容から予想した演奏とは随分異なる演奏をするアーティストもいることを考えると、仲道さん定番のトーク付きのリサイタルは、話と演奏が一体のものとして聴き手に真剣に働きかけてくることを実感した。

終演後、主催の方から仲道さんにご紹介いただき、35年来のファンとしてお話することができたことも忘れられない素敵な思い出となった。

<仲道郁代 ショパンへの道 2019.1.26 Hakuju Hall

♪ブログ管理人の作曲♪
金子みすゞ作詞「積もった雪」
MS:小泉詠子/Pf:田中梢
金子みすゞ作詞「私と小鳥と鈴と」
S:薗田真木子/Pf:梅田朋子
「子守歌」~チェロとピアノのための~
Vc:山口徳花/Pf:奥村志緒美
合唱曲「野ばら」
中村雅夫指揮 ベーレンコール
金子みすゞ作詞「さびしいとき」
金子みすゞ作詞「鯨法会」
以上2曲 MS:小泉詠子/Pf:田中梢
「森の詩」~ヴォカリーズ、チェロ、ピアノのためのトリオ~
MS:小泉詠子/Vc:山口徳花/Pf:奥村志緒美

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