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都響スペシャル「第九」(指揮:大野和士)

2011年12月25日 | pocknのコンサート感想録2011
12月25日(日)大野和士 指揮 東京都交響楽団
東京文化会館
【曲目】
1.ブラームス/アルト・ラプソディ Op.53
2.ベートーヴェン/交響曲 第9番 ニ短調 op.125「合唱付き」

S:天羽明惠/MS:小山由美/T:市原多朗/Bar:堀内康雄/合唱:東京オペラシンガーズ

去年の暮れは2台ビアノによる第9という番外編はあったが、年末に第9を聴くのは4年振り。大野和士がタクトを取るというので是非聴きたいと思った。第9の前には「アルトラプソディ」が置かれるという渋くて本格派のプログラムも気に入った。

そのアルトラプソディ、ソロの小山由美は、深くて澄んだ歌声で、ブラームスがこの曲に込めた熱くてシビアな思いを、冷静に見据え、くっきりと描いて行った。大野/都響は、贅肉の落ちた研ぎ澄まされた音で的確に、しかも滑らかに歩を進めて歌をエスコートし、引き立てていた。終盤で入る男声合唱も、静かななかにも深くて明確なメッセージが伝わってきた。大野のタクトの冴えを感じる演奏だったが、その冴えは第9で益々発揮され、更に情熱とバワーも総動員した素晴らしい演奏になった。

大野はどんなときでも、常にスコアの細部まで見据えてそこから音を綿密に積み上げて行く。冷静沈着なその音楽作りは、気分で演奏を煽ったり、油を注いだりということは決してしないが、そうした積み重ねで築かれた揺るぎない信念と、音楽の真髄を伝えようとする情熱は圧倒的とも言える本物のパワーを演奏に与える。それは、第1楽章冒頭から伝わってきて、全てのフレーズが聴き手に向かって真剣に語りかけてきた。

大野/都響の演奏は、この「真剣な語り」に尽きるのではないだろうか。真っ直ぐな眼でこちらを向いて語られる「言葉」のひとつひとつが心に響いてきて、これまで繰り返し聴いてきたこの曲がとても新鮮に感じられ、「おお!」という驚きや、「そうだよね!」という説得力をもたらす。第3楽章も夢見心地ではいられない。音楽は覚醒して、「きっとあるに違いない何か」を求めて進んでいく。その姿からは孤高の美しさを感じた。

そうして行き着いた第4楽章は、それまで磨いてきた宝石の原石が、いよいよ最高の輝きを獲得し、全体のまさしく集大成として輝かしい光を放ってきた。演奏の振幅が広がり、一層能動的に、熱く語りかけてきた。低弦のレシタティーヴォ然り、そして歌詞が入った言葉での語りは、世俗性よりも、壮大で崇高な世界を伝えてきた。堀内康雄のバリトンの朗々としたレシタティーヴォと渡り合うオーケストラの素晴らしい間合いから、オペラでも最高の手腕を発揮する大野の面目如実たるものを感じさせた。こうした呼吸の取り方の上手さが、演奏に一層彫りを与え、ドラマチックな表現力を増す。

4人のソリストは皆立派だったし、東京オペラシンガーズの合唱は、あのメータ/N響の第九の時と違わぬ素晴らしい歌を響かせた。それはギリシャ彫刻のように、輝きと深みとしなやかさを備え、高貴といえるほどの美しい響きで、聴く者を高みへと引き上げてくれる。終盤では熱いものがこみ上げ、涙が出てきた。最後のPrestissimoでの、急速なテンポでも的確に噛み合った都響の合奏力も素晴らしく、テンションを最高潮に高めて最高のパフォーマンスを実現した。

第九を聴くと、自分が歌ったときの体験も合わさって、「第九はスポーツだ」と言いたくなるものを常々感じ、そんな激しく心拍数の上がる演奏に圧倒されることも多いが、今日の演奏は、どこまでも音楽的で芸術的なやり方で熱く燃え、昇華し、気高い頂点を極めた演奏。大野和士の卓越した才能と力量が十分に発揮された素晴らしい第九だった。

余談だが、テノールと男声合唱のマーチに続き、管弦楽がフーガを奏でたあと、「喜びの歌」の大合唱が始まる前の、「タター・タター」という八分音符と四分音符のシンコペーションのリズムの刻みがつながって聴こえるところが何箇所かあった。一緒に聴いていた奥さんはこれを「オケが合ってなかったね」と言ったのだが、僕はこれはオケが合っていなかったのではなく、版の問題ではないかと思ったのだがどうなんだろうか…?

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2 コメント

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八分音符と四分音符のシンコペーションのリズム (中田 兼司)
2011-12-27 18:57:59
ポックン先輩ご無沙汰しております。

都響の第九、仰せの通り「楽譜のエディション」のせいのようですね。
ベーレンライター新校訂版において、トルコ行進曲のリズムが変化しているはずです~

奥様にもよろしくお伝えください~ではでは~
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ベーレンライター (pockn)
2011-12-28 14:41:34
中ちゃん、ホントお久しぶりです!
嬉しいサプライズコメント、ありがとう。
ブログ、見てくれていたんですね!
相変わらず勉強してますねー

最近はベートーヴェンのシンフォニーで、
べーレンライター新校訂版を使用する指揮者が増えているようですが、
具体的にどんな変更があるのかボクはよく知りません。
これからは、第九のこの場所も
これが主流になってくるのかも知れませんね!
他にも2楽章のティンパニとかが気になりましたが…
また何か気づいたら教えてくださいね。
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