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新国立劇場オペラ公演 「こうもり」

2011年12月01日 | pocknのコンサート感想録2011
12月1日(木)新国立劇場オペラ公演
新国立劇場

【演目】
J.シュトラウスⅡ/「こうもり」

【配役】
ガブリエル・フォン・アイゼンシュタイン:アドリアン・エレート/ロザリンデ:アンナ・ガブラー/フランク:ルッペルト・ベルクマン/オルロフスキー公爵:エドナ・プロホニク/アルフレード:大槻孝志/ファルケ博士:ペーター・エーデルマン/アデーレ:橋本明希/ブリント博士:大久保光哉/フロッシュ:フランツ・スラーダ/イーダ:平井香織

【演出】ハインツ・ツェドニク 【美術・衣裳】オラフ・ツォンベック 【振付】マリア・ルイーズ・ヤスカ 【照明】立田雄士
【演奏】
ダン・エッティンガー指揮 東京フィルハーモニー交響楽団/新国立劇場合唱団
【バレエ】東京シティ・バレエ団

オペラにはあまり行かないボクにとって、プロの公演で「こうもり」を観るのは新婚旅行以来。そのときはウィーンのフォルクスオーバーでの公演で、音楽や踊りは本当に素晴らしかったのだが、ポンポンと飛び交うアドリブのセリフにお客が腹をかかえて大笑いするとき、わからずにつられて笑うしかなかった。ドイツ語を一生懸命勉強してるのだからもう少しわかってもいいのに、わかれば楽しさも倍増なのに、と悔しい思いもした。

今夜、この新国の公演で、このオペラが笑いに溢れ、いかに楽しめるオペラであるかを実感し、フォルクスオーバーでお客が大笑いしていた22年前のシーンが心に蘇った。歌もお芝居も、合唱もオーケストラも、それに舞台も衣装も、この華やかで楽しいオペラを大いに盛り立てた。

聴衆の笑いのツボはやはりセリフ。お客は字幕を読んでいるので、実際の笑いのツボとなる言葉が発せられる前に笑いがドッと来てしまったが、セリフを一通りしゃべり終えるまで笑うのは我慢した方が、演じる方も張り合いがあるのにと思ったり、本来アドリブで出るようなセリフまで字幕で出ると、アドリブ効果は薄れてしまう、といったことはあったが、それでも演技とセリフに大いに笑い、楽しめた。

外国人歌手が時々日本語で言うセリフが特にウケていたが、とりわけ演技も堂に入っていて見事だったのは、アイゼンシュタイン(エレート)と刑務所長フランク(ベルクマン)の滑稽なやり取りや、看守フロッシュ(スラーダ)の酔いどれ演技など男声陣。芝居小屋にいるような気分になって演技に没入してしまった。

日本人歌手も健闘していたが、演技やセリフの面では、外国人歌手達が役者になりきって自ら楽しんでいたのに比べると「オペラ歌手」の殻を破り切れないところがあった。けれど歌では日本勢も全く負けてはいない。幕明け冒頭に登場したアルフレード役大槻孝志の滑らかで朗々とした美声と、アデーレ役、橋本明希の瑞々しく、チャーミングで生き生きした表情に溢れた歌が、劇場の隅々まで響いてまずこのオペラに観客の心を誘った。橋本さんは「侯爵様、あなたのようなお方は」や「田舎娘をやるときは」など、このオペラの有名なアリアでも軽やかでチャーミングな歌唱で魅了した。素直さに更なる色気が加われば一層魅力的になるだろう。

外国勢で特によかったのは、ロザリンデ役のガブラーと、オルロフスキー公爵役のプロホニク。ガブラーはお色気ムンムン。しなやかで濃厚な歌で男たちを魅了した。「チャールダッシュ」での東欧系の深い味わいもグッときた。プロホニクはズボン役だが、本物の男よりある意味男っぽい振る舞いと存在感、頼りがいのある堂々とした歌唱がお見事だった。でも今これを書きながらチラシを見て、この役はバルツァがやるはずだったことを思い出した!そもそも今回チケットを買った決め手はバルツァが出るからだったのに。思い出してしまってちょっと悔しい。

エッティンガー指揮の東フィルは、機敏でフレッシュ、弾ける勢いが冴え渡った序曲冒頭から素晴らしかった。生き生きとした息遣いと歌があり、明るい音色でこのオペラの楽しい気分を先導していた。音色に更なる色香が出ると、益々ウィーンの香りが楽しめるかな、という欲も出てくる。

舞台は、素描タッチのシンプルだけれどセンスのいいセットで、出しゃばることなくオペラの雰囲気にマッチしていて良かった。特に第2幕、新国の奥行きのある舞台を活かした広々としたパーティーの情景は、過度に華美を装うのでなく、音楽と溶け合う名シーンを作っていた。第3幕幕切れ「証人はこの人達」というところで、背後に突然第2幕のパーティーのシーンが再現されたのは名演出!それ以外ではアッと驚くような演出はないが、元々そのような派手な演出ではなく、歌手達の演技が自然に活きるように運び、笑いに誘うのが巧いと思った。最後、許しを請うアイゼンシュタインにロザリンデがタダでは許さない、と言わんばかりに平手打ちを食らわす。日頃からこのくらいの楽しみは味わいたいと思っている男にとってはちょっと刺激的だ!

とまあこんな具合に大いに楽しませてくれたこの公演は大成功と言っていいのではないだろうか。歌のレベルではウィーンのフォルクスオーパーに引けを取らないし、外国勢の演技はフォルクスオーパーレベル。日本に居ながらにして、日本のオペラ劇場がここまでの公演をやってくれるなら、更にお金を積んでフォルクスオーパーの来日公演を観なくてもいいかな、なんて思ってはオペラ通に笑われてしまうかも知れないが、自分としては大満足であった。終演後のブラボー、もっとたくさん飛んでも良かったのでは、と思った。

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