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合唱曲「歓喜に寄せて」レクチャーコンサート

2011年06月11日 | pocknのコンサート感想録2011
6月11日(土)合唱曲「歓喜に寄せて」レクチャーコンサート
旧東京音楽学校奏楽堂

【講師】
矢羽々 崇(獨協大学外国語学部教授)
【演 奏】
S:染谷熱子、松堂久美恵/A:上杉清仁、布施奈緒子/T:石川洋人、坂口寿一/B:小笠原美敬、望月忠親
Pf:小木曽美津子、矢内直子(*)

【曲目】
ケルナー、作曲者不詳、作曲者不詳、フルカ、ミュラー、シュルツ、レルシュタープ、ツェルター、ライヒャルトによる作品
~シラーの頌歌「歓喜に寄せて」への14の曲集(Hamburg, ca.1800)より~

♪ ♪ ♪

ツムシュテーク、シューベルト、ベートーヴェン/オプホーフェン編、マイアー、ブラウンス、ヨハン・シュトラウスⅡ(CD試聴)、ランダル=ストゥループ(*)による作品

シラーの詩「歓喜に寄す」"An die Freude" につけられた音楽といえば、誰もが「第9」を思い浮かべるだろう。そしてこの詩は、崇高な人類愛の理想を音楽で謳い上げるためにベートーヴェンに選ばれた「高尚なテキスト」というイメージが強い。ところが、この詩は本来は酒場などで歌われることを想定して作られ、「第9」誕生の前も後も、実に多くの作曲家たちによって、主に気軽な合唱の音楽として作られ、庶民の間で歌われ親しまれていたという。

獨協大学主催によるこのレクチャーコンサート、前半のレクチャーでは、ドイツ文学博士の矢羽々先生の話で、この頌歌について、シラーの生い立ちや当日の社会の状況などを詳しくみながら、また、元々は第9節まである詩の内容を概観しながら、この詩が当時どのように扱われ、どのように位置付けられていたかを紐解き、それがいかに「第9」の精神につながったかということを、とてもわかりやすく、面白く知ることができた。

そんな「歓喜に寄す」の位置付けを理解したうえで、この詩にたいへん多くの作曲家によって付けられた多様な音楽を、音楽学が専門の木村佐千子先生の詳しい解説を交えて、実演で聴いた。

コンサートの前半は、「歓喜に寄す」の詩につけられた歌ばかりを集めた、シラーと同時代の作曲家達による曲集から9曲が紹介された。同じテキストが、作曲家の個性によって、様々に光が当てられ、多彩な音楽に仕上がっているが、どの作品でも、各節の前半8行がソロによるフィーチャーで歌われ、後半の4行が合唱による応唱の形が取られている。これは、この詩がRundgesangという形式で書かれているためとのことで、お酒の席でもこのように歌われたという。

興に乗って歌われるような威勢のいい音楽もあれば、教会の礼拝で、牧師の呼びかけに会衆がコラールで応えるような、落ち着いた音楽もあり、同じ形式であっても曲によって個性が違い、また、どれもとても親しみやすいメロディーで、自然と口ずさむことができそうなものが多い。

コンサート後半では「歓喜に寄す」に付けられた曲が、時代を追って現代の作品まで紹介された。軽やかに進んでゆくシューベルトの作品や、演奏会用アリアのようなソロイスティックな技巧を駆使した作品など、ピアノ伴奏もより独立して書かれ、歌って楽しむ音楽から、鑑賞のための音楽へ変遷していく様子も窺えて興味深かった。21世紀の作品として紹介されたランダル=ストゥループの作品はカルミナブラーナを思わせるハーモニーやリズムで強烈なインパクトを与えた。

演奏していたのは、芸大バッハカンタータクラブ時代からおなじみのカウンターテナーの上杉さんや、バッハコレギウムジャパンで活躍する布施さん、去年の芸祭での素敵な歌声が記憶に新しい染谷さん、レ・ボレアードの公演でモーツァルトのハ短調ミサのソロを聴いた小笠原さんなど、実力派の歌手陣が揃い、ソロパートではそれぞれの美声で表情豊かな歌を聴かせ、アンサンブルでは柔らかく美しいハーモニーを響かせていた。

コンサートの最後は聴衆も一緒に、ベートーベンの「第9」の主旋律をドイツ語で歌った。抽選で選ばれた満員の客席には、「第9」を歌った経験者も多いようで、落ち着いた良い響きのする重要文化財の奏楽堂に大きな歌声が響いた。

このレクチャーコンサートは、文学的な視点や歴史的・社会的な背景から詩の成立・内容を解説し、音楽史の観点も踏まえた詳しい解説を聴きながら、実演に接するという多角的なアプローチで「歓喜に寄す」をクローズアップする、という大変興味深く有意義で、かつ貴重な機会となった。ドイツ語圏の幅広い専門分野に精通した研究者を抱える獨協大学ならではの催しと言えよう。できればこうした機会を継続して提供してもらうと嬉しい。

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