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国内人権機構:人権の促進と擁護のための国内機構の設立と強化に関するハンドブック 4

2005-05-23 00:00:00 | 人権擁護法案
※「国内人権機構:人権の促進と擁護のための国内機構の設立と強化に関するハンドブック」について《外務省HP》

※「諸外国の国内人権機構等一覧」《外務省HP》

※「各国の国内人権機関の設置状況一覧」《人権フォーラム21HP》

※人権擁護法案《法務省HP》

3  職権による調査
  (1)  職権調査のための問題の選択
  (2)  職権調査の実施
  (3)  職権調査の事後処理
4  司法手続への参加

※3の「職権調査」は、当事者の申立に基づかず、「人権委員会」が独自に調査を開始することをいいます。「職権調査」権限は、「人権委員会」が「議会・政府等への勧告等を行う」という目的を遂行する上で必要な権限なので、これ自体に問題はありません。ただ、私人間の個別的救済に「職権調査」を発動されると、「人権委員会」という公権力が、恣意的に個人間の争いに介入することにより、自由な社会の基盤である私的自治を大幅に害することつながりかねないので、原則許されないと考えるべきです。諸外国の国内人権機関にはそのような権限がほとんど認められていないようですが、それは当然でしょう(外務省HP「一覧」)。
※然るに、「人権擁護法案」では、職権で(申立なしに)救済手続きの開始が認められており(同法案39条)、調査手続きとして強制権限を発動(同法案41条以下)できることになっています。前出の外務省HPの「一覧」によれば、職権調査が認められている国は、韓国(「一覧」では法案審議中とある)、フィリピン、インドくらいです。もっとも、職権調査を認めなくても誰かが申立てをすれば調査できるのは当然なので、この点は余り重要ではないかもしれません。
※4の「司法手続きへの参加」は、私人間における個別的救済の形態の一つとして、個別救済を扱う諸国の「国内人権機構」にほぼ認められる権限のようです(前出外務省HP「一覧」)。「司法手続きへの参加」には、当事者の提起した訴訟ににつき、「国内人権機構」が助言をするにとどまるものから、「国内人権機構」自身が訴訟を提起するものまで様々です。この点、「人権擁護法案」は、被害者の起こした訴訟に「人権委員会」が参加(民事訴訟法の補助参加)すること(同法案63条)、及び「人権委員会」による差別差止請求訴訟を認めています(同法案65条)。そういう権限自体に問題はありません。しかし、対象の絞り方に問題があります。
※諸外国の例をよく見れば分かりますが(外務省HPの「一覧」参照)、「国内人権機構」が司法手続きに参加するのは、基本的に「経済的自由権」が問題となる事案においてであり、表現の自由を中核とする「精神的自由権」が問題となる事案に関しては、そもそも司法手続きへの参加は許されていないようです。これは表現の自由の価値からすれば当然です。そして、この場合の表現はマスメディアだけの問題ではないことに注意が必要です。否、むしろ、マスメディアには、緩やかにではあれ規制がかけられている例はあります(ただし、国家機関ではなく民間の自主規制組織方式)。それに対して、個人の表現に対する規制は、少なくとも外務省の「一覧」からは確認できませんでした(外務省は「一覧」を「網羅的なものではない」と断っていますが、主要国については押えられていますから、十分参考になります)(南アフリカについては後の方で書きます)。
※「一覧」から例を挙げます。アメリカの「公民権法」の取り扱う対象は「人種,皮膚の色,出身国,性別,宗教,年齢,障害等に基づく,雇用,教育,住宅,公共施設,信用,投票における差別等」となっており、このうち「雇用、住宅、信用」は明らかに「経済的自由権」に関するものです。そして、他の「教育、公共施設、投票」も、基本的に「表現の自由」とは直接的に関係ないといっていいでしょう。「一覧」の中で、「国内人権訴機構」が訟援助等を行う権限が与えられている他の例を見ても、雇用、住宅、信用などが主眼に置かれていることは明らかで、表現の自由に影響がないよう配慮していることが窺えます(アメリカ、英国、カナダ、オランダ等々) 。然るに、「人権擁護法案」は、訴訟援助等の対象を「経済的自由権」や教育、施設利用等に限定しておらず、「表現の自由」に対する配慮が著しく欠落した、欠陥法案です。以下説明します。
※「人権擁護法案」における「人権委員会」は45条の定義する「特別人権侵害」について、訴訟参加ができるようになっています。では、「特別人権侵害」とは何かというと、42条1項に規定すると書いてあります。それで、42条1項を見ると1号から5号まで掲げられており、そのうち第1号ないし第2号は3条1項を見ろと書いてあります。そうして、ようやく「特別人権侵害」の中身が分かるという仕組みです。難解です。まあ、こういう条文の構成は商法などではよくあることですが、国民にとって極めて関係の深い法案の書き方としてはいかがなものかと考えます。普通の人はそこまで読みませんから。本題に戻って、「特別人権侵害」には、「特定の者に対し、その者の有する人種等の属性を理由としてする侮辱、嫌がらせその他の不当な差別的言動」(同法案3条1項2号イ)のうち「 相手方を畏怖させ、困惑させ、又は著しく不快にさせるもの」(同法案42条1項2号イ)が含まれることになります。つまり「人権委員会」が「不快にさせる差別的言動」と認定すれば、訴訟に参加することができてしまうのです。このような表現行為を理由とする私人間の争いに「国内人権機構」が一方の側に立って訴訟に関与することは、他国ではほとんど例をみないのではないでしょうか。少なくとも外務省作成の「一覧」からは確認できません
※更に、「人権擁護法案」によれば、「人権委員会」は「差別助長行為等の差止め等」(同法案64条以下)ができることになっており、具体的には差止請求訴訟を独自に提起できることになっています(同法案65条)。しかも、その対象は「特定の者に対し、その者の有する人種等の属性を理由としてする侮辱、嫌がらせその他の不当な差別的言動」(同法案3条2項1号)であって、「これを放置すれば当該不当な差別的取扱いをすることを助長し、又は誘発するおそれがあることが明らかであるもの」(同法案43条1号)に及びます。つまり、「人権委員会」が「差別を助長・誘発するおそれが【明らかに】あると判断した言動」については、差止請求訴訟を独断で起こせるということです。もちろん、このような対象についてまで、「国内人権機構」に訴訟提起の権能を認める国はほとんどありません。強いて挙げれば、アパルトヘイト克服に取り組む南アフリカではもしかしたらそういう権限が与えられているかもしれない、というくらいのものです(前出外務省HP「一覧」参照)。こういう点からも、「人権擁護法案」に「表現の自由」に対する配慮が著しく欠けていることは明白です
※サヨク推進派は【明らかに】という限定があるからというのでしょうが、そうは問屋が卸しません。サヨクの大好きな論法でいけば、第一に「他国にほとんど類を見ない言論統制」ということで、それだけでダメ出しでしょうし、第二に「表現の自由」を軽視する点で論外ということになるはずです。しかし、多くのサヨクはご都合主義者ですから、そういう矛盾には無頓着です。自分の言動を客観視する能力に欠ける嫌いがある、頭でっかちの主観主義者と言ってもいいかもしれません。もっと言えば、サヨクは「多様な価値観」という言葉が大好きな割には、その背後にある「自由主義」というものが全然分かっていないようにわたしはおもいます。
※更に「強制力のある調停」(同法案45条以下)についてもほぼ同様の問題があることを指摘しておきます。(続く)

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