株式会社プランシードのブログ

株式会社プランシードの社長と社員によるブログです。
会社のこと、仕事のこと、プライベートのこと、あれこれ書いています。

その36.酒なくてなんの己が桜かな

2012-08-08 13:28:58 | 制作会社社長の憂い漫遊記
酒なくてなんの己が桜かな
桂 米朝師匠がまだ50代前半の脂の乗り切った寄席で見せてもらった
古典落語の「長屋の花見」の冒頭に出てくる川柳だ。
花見に酒が欠かせないことを言うが、これがのん兵衛の口伝えで
いつしか『酒なくて何が己の人生かな』とのん兵衛の合言葉になってしまった。

以前「天気祭り」と呼ばれる業界の隠語を紹介した。
ロケ前日に、プロデューサーが助手たちを集めてお金を渡し
(軍資金=飲み代)、天気を願って酒を呑ませる伝統的風習のことであるが、
これからツライ仕事をさせることになる助手たちの不平不満を事前に回避する
いわばガス抜きだ。私はとても好きな風習で、今でも我が社では時々行なう。


(30年ほど前、よく仕事をしていた新堂 史夫カメラマン。
 マイクを握り熱唱中。私よりも20歳近く年上だ)

約30年強の監督生活の中で、酒は欠かせないものだった。
昔はロケでは旅館に雑魚寝だったので、酒でも飲まないと眠れない状況だったが、
その席で作品論を戦わせたり、家族の話、人生の話をしたりと、
スタッフのコミュニケーションを図る上で酒は大きな役割を果たしていた。

「女房とうまくいっていなくって…どうすればいいのでしょうか…」
という照明マンの話を、カメラマンと一緒に夜通し聞いたこともある。
撮影スタッフはだいたいイケる口だが、中には下戸もいる。
しかし下戸でも天気祭りには最後までお付き合いする。
タメになる話を先輩や監督、カメラマンから聞けるからである。
ところが最近では天気祭りに参加したがらない若者が増えてきた。
コミュニケーションの取り方がわからないのが最大の原因だが、
居直って「酒飲みの付き合いなんて面倒だ」と
平気で言う輩まで出てきたのは残念至極。
もはや監督やカメラマンから助手は学ぶものはないのか?見くびられたものだ。




(歳が近いカメラマンとはお互いムキになってケンカになることも…
 しかし、現場で出た問題点は酒を呑み交わしながら吐き出し
 翌朝には持ち越さない!高杉 隆カメラマンと九州ロケにて)

企業でも昔は「飲みにケーション」という酒盛りがあったが、
どんどん少なくなり、逆にコミュニケーションを図るために
社内の食堂を夜は居酒屋にして、「飲みにケーション」を
会社ぐるみで復活させる動きもある。
我々の業界でもスタッフ間での飲み会は毎年どんどん減っている。
30年ほど前に、私はロイヤルホテルのLDで編集のため東京へ行ったが
仕事現場は違うのに夜になるとスタッフが、新宿のある飲み屋に集まり、
作品論を展開していた。私はその姿に感動すら覚えたものだ。
「大阪はあかん!作品論の代わりに儲けの話ばかりしよる!」と嘆いたが、
今でも監督の私が誘わなければ、若いスタッフが誘ってくれる飲み会はない。
寂しい限りである。

とにかくどんな仕事でもチームで行なうのだから、
コミュニケーションが重要だということは明白である。
メールや携帯ではどうしても伝わらない事がある。
顔と顔を突き合わせないと伝わらない思いがある。
「カミサンの後ろ姿を見るだけで何を考えているかわかる」と
豪語してみたところで、実際は何を考えているかわからないから
結婚数よりも離婚数が年々増えている。



(多くのスタッフが同じ方向を向いて仕事するにはとにかく話すしかない!
 写真下段中央・庄野 真代さん主演の料理ビデオの収録で全スタッフと共に)

監督が考えている事を、的確に伝えないとスタッフは動けない。
ロケ日数がどんどん減り、スタッフ数もどんどん減る状況の中で
後ろ姿だけで伝えるのは難しくなっている。
特に監督である私は、カメラマンと呑む事をロケ前の必須としている。
「ここだけははずせない」ってのをしっかり話しておいて
後は「お任せ」しかない。だって監督はカメラをさわれないし、
その時、その場で起こっている事を撮るにはカメラマンに任せるしかない。
しかし、PRの世界では予算削減のあおりを受けて、
カメラマンひとりに労働が集まり、孤軍奮闘しなければならない事も多い。
照明の位置を決め、カメラの位置や動きを決めて、左手で露出とピント、
右手でズームレンズを操る。場合によっては耳にイヤホンを付け音声までも
チェックしなければならない。撮影現場では助手よりも忙しく動き回る。
したがって優秀なカメラマンほど撮影助手は言うに及ばす、照明や音声、
特機など優秀な人材をしたがえている。
監督は助監督とカメラマンを人選するが、
それ以外の現場スタッフはカメラマンが人選する。
したがって監督以上に、スタッフを動かす術を心得ている。

よく仕事をした河西 秀樹カメラマンが、撮影助手ばかりでなく
照明マンやその助手、そして助監督からも慕われていたのは
スタッフを動かす術を心得ているからである。


(左から河西 秀樹カメラマン、VEの溝岡 和成氏、そして私)

監督の持つイメージを映像化するにはどうすればいいのか、
それを理解し支えるのがカメラマン。
だから「監督の女房役」といわれるが、
まさに野球で言うところのキャッチャーの役割がカメラマンなのだ。
私はいくら外で遊んでも、女房と飲む酒が一番旨い。
日本酒好きなので、熱燗にして彼女の酌で御猪口に注いでもらい、
私が彼女の持つ御猪口に注ぎ返して、御猪口を合わせて乾杯!
彼女の顔を見ながら、一緒に飲呑むは最高である。
同様に、女房役であるカメラマンと呑む酒もまた最高である。
イメージを尽きる事なく話していると、時には相槌を打ち
時には反論してくる。
酒なくてなんの己の同志かな。

(追記)酒は飲みすぎると「キチガイ水」に化けるので要注意。

最新の画像もっと見る

コメントを投稿