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絵じゃないかおじさんぐるーぷ
平成はじめのころです
耳のあたりまで裂けた口は、新婚の頃、私が悪戯して、あゆかが昼寝している隙に口紅で書いてやったあの口だった。
人間は、相手の黒い眼だけ凝視していると、悪人や非美人といえども、可愛らしく見えてくるものである。逆に、どんな顔美人といえども、口や鼻だけ見ていると、ただの一人として、美人として見えるものはいないと、私は思っている。
私は、私の法則を適用して、その女の黒い眼だけを、眼だけを凝視した。
やっぱり、あゆかだった。
「あゆか、救けに来てくれて、ありがとう」
数分見続けていて、私は、感謝の気持ちを顔一杯に表わして、頭を下げて礼を言った。頭を上げてみると、もはや女の姿はなかった。
ふと足元に目をやると、道の端の乾いた雑草が、一山倒れかかってきていた。
おわり
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