絵じゃないかおじさん

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あ@仮想はてな物語 ゆふかひストーリィ 4/5・後6

2022-02-03 08:07:29 | おぼけまみれ
            copyright (c)ち ふ



 * 等活地獄へ

 いよいよ地獄だ。
 洞窟のような穴を進んで行くと、
 ムンムンとした熱さが襲ってきた。
 みんなに、地獄対策用スプレーをふりかけてやった。
 熱さに耐えられるし、バラバラにされても、
 10分ぐらいで、再生されるセンティが、
 調合してくれた特別製の薬品だった。

 ここで、全員が一つは、何らかの刑罰を受けなければ、
 天国へゆく資格が、出来なくなる。
 話のタネに、皆がなるべく違った種類の刑を、
 受けようということになった。

 良ヒネの眼が爛々と輝き始めた。
 塵一つ見逃すものかというような目つきをしていた。

 地獄の刑期は長いので、当分の間、
 詰め込みオンリーだということであったので、
 行列が出来ていると聞いていたが、そうでもなかった。
 大分改良されてきつつあるようだった。

 薄暗い道を進んでいくと、
 一人ふたりと地獄に送られている罪人が襲ってきた。
 スッパリンを始め、腕に自信があるものが、追っ払う。
 そのうち、追っ払っても、追っ払っても、
 罪人が次々と襲ってくる。

 顔立ちは、いかにもワルそのもののようだ。
 数10人から数100人に膨れあがったきた。
 タイタイの蹴散らしも、ドン・ガラッキーの、
 吹き飛ばしも、だんだんと効果がなくなってきたので、
 キヨヒメの一人舞台となった。

 彼女の吐く紅蓮の炎は、凄まじかった。
 火炎放射機などという、生やさしいものではない。
 火炎焼き尽し機と呼ぶに相応しかった。
 白い顔を少し紅潮させて、形の良い口から、
 しゅーっと、気持ちのよいほどに、炎が拡がってゆく。
 目を少し吊り上げて、妖艶な美しさを漲らせている。
 さすがに、言うだけのことをする女だ。

「こらーっ! お前ら何してる!」

 牛の顔をつけた人間の姿をした生きものが、
 突然やってきた。
 罪人は、あっという間に、
 蜘蛛の子を散らすように、居なくなってしまった。

「お前ら、新人か? ここでは、
 みんなが仲良くするのは、禁止だぞ。
 わかっているのか! お前ら、殴り合いをせんかい。
 蹴り合いを始めんかい」

 地獄では、罪人同士会えば、
 大喧嘩をするのが原則である。
 私たちのように、仲良く寄り固まっているのは、
 法則違反もいいところだった。

 私は、牛頭の奴の顔に、どうも見覚えがあったので、
 声をかけてみた。
 ずっと、昔のことになるのだが、
 その顔は、忘れられなかった。

「ンモ坊、ンモ坊ではないかい?」
「ん、何で、オレの名前を知ってる?」

 吊り上がっていた目が、少しおりてきた。
「オレ、おれだよ。ドン作!
 ドン作だよ! 覚えているかい?」
「エエーッ! ドンちゃん! あんた、ドンちゃんか!」

 奴は、私に、飛びついてきて泣き始めた。
 私も、なつかしさがこみあげてくる。
 例の泣き虫姫のすすり泣く声が、早くも耳に入ってきた。
 事情もよくわからないのに、よく泣けるものだ。
 それにしても、奴はこんな所に何故いるのだろう。
 別れて、もう30年にはなるというのに。

 私は農家の次男坊だ。
 その頃、生家では牛を1~2頭飼って、
 農耕を兼ねて、飼育していた。
 農作業用の機械も、今ほど開発されてなかったので、
 牛は、貴重な存在だった。

 田をスク時には、かかせない動物であった。
 米作りの命である土づくりには、欠かせない大事な作業だ。
 その頃は、まだ耕耘機やトラックターの代わりを、
 牛がしていた。

 小牛を数年飼って、農作業に使うとともに、
 大きくなると、肉牛として売って副収入にする。
 また、その売った金の一部で小牛を飼う。
 数頭の牛を飼っては、交互に売り払って、
 副収入の安定化をはかる。

 ンモ坊は、そんな牛の一頭だった。
 牛の餌の草刈りは、私の仕事の一つでもあった。
 ンモ坊は、私の感受性の、一番強いときの牛だったので、
 よく覚えている。

 小学校から帰ってきては、
 毎日毎日草刈りをしていた。
 奴が、うまそうに草を食ってくれると、
 たまらなく嬉しくなる。

 学校からの帰りに、いい草を見つけておいては、
 今日は、ここに刈りにきてやろうと、
 段取りをつけておく。

 宿題を済ませて、自転車に篭をつけて、刈りにゆく。
 誰かに先に刈り取られていたりすると、
 悔しくてたまらない。

 奴の喜びそうな、柔らかくて、青々とした
 草を探しだしては、刈って帰るのである。

 そんなある日のこと、学校から帰ってみると、
 奴が居なくなっていた。
 農繁期でもないのに、おかしいなと思ったので、
 母に聞いてみると、売ってしまったという、
 悲しい答が帰ってきた。

 心の中に、墨がぶちまかれたような気がした。
 私は、「何で売ったのか!」と激しく抗議した。
 牛が、売られてゆくのは、知っていたのだが、
 ンモ坊だけは売らないでくれと、
 両親に頼んでいたのだ。

 裏切られた思いがした。
 2~3日は、悲しくて悲しくて仕方なかった。
 この時の経験から、
 二度と牛なんかに、心を移すまいと心に誓った。

 ンモ坊は馬喰の用意したトラックに後退りして、
 なかなか乗らなかったそうだ。
 目にいっぱい涙をためて、必死で抵抗したらしい。
 そんなことを、後で、母から聞かされた。

 そのンモ坊が、ここにいる。
 どんな悪いことをして、
 こんな因果な仕事をしているのか、気になった。

「ンモ坊、何で、こんな仕事しているの?」

 話せば長いことながらと言いながらも、
 問わず語りを、してくれた。

 私と別れてから、例に漏れず、
 屠殺場に送られて、殺されたそうだ。
 そして、物心がついてみると、
 また、牛に生まれ変わっていた。

 牛など、もうコリゴリだと思って、
 脱走の機会を狙っていたら、飼い主が、
 たまたま、山道に連れて行った。

 他に人も居なかったので、これは、
 絶好のチャンス到来だと思い、
 角を突きつけて脅したら、飼い主はびっくりして、
 崖から、飛び降りた。

 彼は、そのまま、あてもなく突っ走った。
 遠くに逃げれば、何とかなるだろうと、走りに走った。
 運悪く、その山道に偶然、観光バスが通りかかった。
 曲がり角で、予期せぬ出会いが待ち受けていた。

 運転手は驚いて、ハンドルを切りそこない、
 バスは転落。
 ンモ坊は、そのまま、地獄の入口にドスーン。
 しかし、根っからの大悪人ではない。
 二度とループ界にいくのは嫌だと、
 エンマ大王に、ダダをこねた。

 地獄に直送されるような、大罪人のセクション分けは、
 大王の管轄でもある。
 きつい、汚い、危険の揃った、
 この仕事に為り手がなくて困っていたので、
 就職の話が、トントン拍子に進み、
 そのまま就職したようだ。

 牛という、あまり好きではない生き物なのだが、
 経験は豊富なので、今は、ループ界よりはましだろうと、
 この仕事に、精を出しているという。

 人間に生まれたくても、望みが叶えられなかったので、
 人間に生まれて悪事を働くような輩には、
 特に、きつく接するようだ。

 ンモ坊の気持も、よくわかるような気がする。

 次は、私の説明の番だった。
 彼は、私たちのようにお遊び半分で、

 地獄に来るような者の考え方には、
 賛成できかねる様子だった。
 それが当たり前だろう。
 真剣に生活の場としている者にとっては、
 おフザケにしか写らないだろうと思う。

 思うが、地獄の役割というものを、
 もう一度見直してもらいたい。
 単なる刑罰だけで終わるなら、
 それが恨みとなって残り、
 数倍もの怒りとなって、
 次のループ界で、大暴れするのではないだろうか?

 体罰などというものでは、
 人は、本心から変わりはしない。
 心が、縮むだけである。
 縮んだ心は、エネルギーを貯え、
 その重しがなくなると、
 何倍にも大きくなる可能性がある。
 地獄は、罪人の更生機関ではないのか?

 もし、そういう所だとすると、
 やり方が、もっともっと変わっても、
 いい気がするのだが・・・

 ンモ坊は、私とのよしみもあるので、
 彼の上司に、刑の軽減を進言してくれた。
 今度は、馬顔の男が出てきた。
 彼のもとには、地獄ゆき全員50点の報告書が届いていた。
 私は、エンマ大王がくれた通行許可証も見せた。

「よし、事情はわかった。資格も十分だ。
 だけど、ここでは何らかの罰を受けてもらわねば、
 オレたちの立場がなくなる。
 いま最新の刑罰機械が入ってきて、試運転中だ。
 その機械で罰を受けてもらおう。
 肉体的には、かなりソフトな刑だ。
 しかし、精神的には苦痛を伴うかもしれないが、
 これも、経験の一つだと思い、素直に受けてもらいたい」


つづく



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