新しい家庭教師の先生は日本人と香港人の間に生まれ、アメリカや北京も含めあちこちに住んだ経験があるそうで、今は語学を教えるプロでもあるせいか、とても言葉を大切にする先生です。
先生の初授業のときに、標準語と北京語がちょっと違うという話になリ先生は
「昔の北京は今と随分ちがいました。人々はとても礼儀正しくてきれいな言葉をしゃべっていました。あとから地方からいっぱい人が来て、昔からの北京人はどんどん郊外に移り住み、北京の街中は言葉も道徳も乱れてしまいました。」
と言い、「昔の北京の人たち」をとても懐かしがるような言い方をしました。
次に漢字の話になりました。
中国内では「簡体字」と呼ばれる、昔の漢字をかなり省略した漢字を標準文字として使っています。日本語と中国語が漢字で通じ合えるとは言ってもこの簡体字
はどれがどの字に当たるのかわからないほどの省略が多く、新たに覚えなおさないといけません。旧字体を知ってるちょうど私より上の年代が減ってくると、日
中は筆談で通じる、という今の良さはやがて消滅するでしょう。残念なことです。
先生は
「どうして今の簡体字ができたかご存知ですか?」
と聞いてきたので知らないというと、
「文化大革命のときに、文字を知らない農民にもわかりやすいようにと、当時の学者の大反対を毛沢東の妻江青が押し切って制定されたのです」。
淡々とした口調でした。ただ無学な農民のためにと強行された略し方には根拠も一貫性もなかったようです。
「たとえば劉備元徳の『劉』(
前の記事のコメントにあったように中国内に多い姓のトップ4に入るそうです。)という字は、『金』という字が入るのはけしからんという理由で「刘」となりました。」
だそうです!
台湾や香港など南の方では繁体字と呼ばれる旧字体が使われています。先生によるとこれは簡体字化の影響を免れたからだそうで、これこそが昔の正統な中国文字である、と言いたげでした。
(もっともこの旧字体もまた画数が多くて難しく、簡体字も序々に台湾社会に広がってきてはいるようです。)
先生は一応中国人ではあっても中国以外の国も知っているので色々思うことはあるのでしょう。
でも良し悪しを決め付ける感情的な言葉は先生からは一言も出ませんでした。ただじっとこちらを見据える目は、文革の功罪を問うているかのように私には見えたのでした。
なるほど!簡体字の方が画数が少なく明らかに便利そうなのに繁体字もまだ残っているのは色々感情的な事情もありそうです。
ちょうど私と同い年の中国人のママさんが、小学校高学年のときに簡体字がさらに簡略された文字に改定されて覚えなおしになり、それが誰にも読めない文字になってしまって社会に大混乱をもたらしたのでまた今の段階の簡体字に戻した、という体験をしてるそうです。
簡体字導入にもかなり混乱があったようです。でも今これだけ普及してしまってるから、いまさら戻す事はできないのでしょうね。
せっかく言葉がわからなくても文字で通じ合えるという漢字の利点、このまま消えていくのはどうしてももったいないと思うのです。
日本と中国、台湾(あと韓国も?)とで共同の漢字評議会を作って同じ漢字は各国同じ字形で使用できるような改革ができないものでしょうか???