凛太郎の徒然草

別に思い出だけに生きているわけじゃないですが

サザンオールスターズ「夕陽に別れを告げて」

2011年08月31日 | 好きな歌・心に残る歌
 8月31日が特別な日でなくなってずいぶんと経った。かつては、夏の終わりの象徴的な日であったはずなのだが。
 少年時代は、8月31日は夏休みの終わる日だった。東北や北海道以外ではだいたいそうだったのではないか。7月後半から約40日ほどの、あの特別な黄金の日々の終焉。
 夏休みは、思い出が濃い。思い切り遊び、いろんなことを体験し、学び、心の奥に刻まれていくあれこれ。
 そんなこんなが、8月31日で終わる。
 少年の頃は、たいていは宿題に追われている。行く夏を惜しみ思い出を反芻しつつ、休みが終わる。中学生にもなると宿題をどのように誤魔化して提出を引き伸ばすか、なんてことばかり考えたり、高校生だともう宿題なんか記憶にはないが、その年代ごとに、それぞれの夏の終わりがあった。
 8月31日が普通の夏の日になったのは、いつだっただろうか。

 さまざまな思いはともかく、日付的には、大学2年の夏までだった。なんでそうはっきりしているのかと言えば、無粋な話だが大学の前期試験の日程による。大学の夏休みというのは2ヶ月近くあるのだが、それまでは試験の日程が夏休み後に組まれていた。したがって、7月の頭から大学は夏期休暇に入り、8月をずっと休み、9月に入ったら前期試験。確か夏期休暇自体は9月10日くらいまであったと思うが、いきなり試験が始まるため9月に入ったらもう遊びの雰囲気は失われてしまった。
 この日程が、大学3年で変わる。7月中に前期試験を終えてしまい、その後に夏期休暇になった。楽あれば苦あり、から苦あれば楽ありパターン。したがい、夏期休暇は7月末から9月の20日前後くらいにずれた。なので大学3年の夏は、9月を過ぎてもずっと北海道をプラプラと旅行していた。もう試験は終わっているため、戻って勉強しなくとも良い。それをいいことに、大学の講義が既に始まっても僕はまだ旅の空の下に居たのではなかったか。
 以降、8月31日は公的には普通の日になった。社会人になれば、ただの流れてゆく一日だ。
 けれども、この歳になってもこの日は何だかちょっとした郷愁を覚えてしまう。それは、少年時代の刷り込みなのだろうか。夏が往く。この暑くてたまらん夏も、僕にとっては惜しむべき対象となる。秋はなんとなく、さびしい。

 サザンオールスターズの「KAMAKURA」が発売されたのは、大学2年だった1985年の9月。ちょうど僕にとって「最後の8月31日」のすぐ後に出たため、何だか夏の終わりの象徴のようなアルバムに思えて仕方がない。
 「KAMAKURA」。名盤の誉れ高い。
 僕らの世代だともうサザンオールスターズというのは、わざわざ避けて通らない限りもう無意識下で自然と流れてしまう、そういう存在ではないか。浸透度が圧倒的。音楽が好きとか嫌いとか、そういうのを超えてしまっていると思われる。デビューが1978年だから、ちょうど「ニューミュージック」という得体の知れない音楽ジャンルがマスコミを席巻した頃。前年にアリスの「冬の稲妻」が出て、原田真二、世良公則、渡辺真知子がデビュー。ニューミュージックという名称はともかく、確かに新しいムーブメントがあった。私事だが深夜放送小僧だった僕は、この年にようやくギターを手に入れる。中学一年生。音楽にのめりこみだす頃。
 同世代であれば絶対にわかってもらえる「勝手にシンドバット」の衝撃。あれは凄い歌であるということに異論を持つ人は少なかろう。以来サザンは、ずっと一線に居続けることになる。ニューミュージックなんて言葉が廃り、音楽シーンでは様々な栄枯盛衰があったのだが、サザンだけはずっと君臨し続けている。サザンが活動停止しても、桑田佳祐居る限りそれは君臨しているのと同じ。
 そのサザンの8枚目のアルバムで、満を持した2枚組という「KAMAKURA」。このアルバムは、みんな聴いたんじゃないのか。

 そのアルバム「KAMAKURA」を、実は僕は購入していない。実家に居た頃は、妹が持っていた。相当なファンだった彼女がサザンのアルバムを全て揃えていた。そうなれば、僕は所持する必要がなくなる。社会人となり独立したときは手元にサザンが無い状態がしばらく続いたが、後に所帯を持った相手がサザンのファンクラブ会員歴の長い女だった。なので、積極的に聴こうという姿勢は持たずとも結局全てのアルバムを繰り返し聴いている。だけでなく、今まで最もライブに行った回数の多いミュージシャンは、サザンである。これを言うと意外に思われるのだが、そういう家族事情がある。
 「KAMAKURA」は、発売した年の秋には、実家でエンドレスのように流れていた。
 おかげで、刷り込まれてしまった。

 しかし、刷り込まれて良かったと思う。
 「Computer Children」「真昼の情景」「古戦場で濡れん坊は昭和のHero」「死体置場でロマンスを」「顔」「怪物君の空」「Happy Birthday」…このラインナップは本当にすさまじく質が高い。遠い目の「星空のビリーホリディ」。洒落た「Long-haired Lady」。かわいい「鎌倉物語」。何とも興味深い「吉田拓郎の唄」。
 シングルも「Bye Bye My Love」というサザン一流の疾走感を伴う名曲が収録されている。僕はサザンのシングルでは「Tarako」が一番好きだが、「Bye Bye My Love」もいい。「ミスブランニューデイ」「Tarako」「Bye Bye My Love」までの流れは、黄金期だなと個人的に思う。
 話がそれたが「KAMAKURA」恐るべき完成度の高さと言っていいと思われる。サザンはこのアルバムのあと、ハラ坊の産休などもあって3年間活動を停止するが、その前に全ての力を投じたかのような濃密さだと言える。
 その中の一曲に、夕陽に別れを告げてがある。

  遠く離れてHigh-School 揺れる想い出 心にしみる夏の日 
  恋人の居場所も今は知らない 毎日変わる波のよう
    
 この曲は、誤解を恐れずに言えば、「KAMAKURA」の全20曲の中では陳腐な部類に入ってしまうかもしれない。少なくとも、誰にでも平均的に良さがわかる曲だろう。
 そして、僕の耳にも残って離れない。
 詩から考えて、黄金色した夏の日々を過ぎ去った思い出として回顧している青年。それはもちろん、桑田さん自身の鎌倉学園高校時代に対する郷愁を投影しているに違いない。

  色褪せた校舎に別れを告げる 鎌倉の陽よ サヨナラ
  独り身の辛さを音楽に託して お互いに笑いあえる

 なんかね、じーんとくるのだよ、昔から。そうやって、僕達も卒業してきたんだ。そして、あの夏の日々は永遠に忘れない。仮に、昨日のことですら忘却の彼方に押し流されてしまうほど耄碌しても、あの還らぬ日々のことはずっと記憶に留めておきたい。 
 夏の終わりには、いろんな追憶がよみがえる。
 海。プール。水鉄砲。親戚の子。真っ黒に焼けた肌。スイカ。昆虫採集。盆踊り。肝試し。夏の大三角形。入道雲。夕立。蝉時雨。部活と汗。鈍行列車。田舎のバス停。陽炎。麦藁帽子の少女。キャンプ。カキ氷。ただ椅子を並べるバイト。祭囃子。花火大会。彼女の浴衣。夕焼け。見つめていただけの恋。遠かった夢。

  She was in love with me one day, oh yeah 涙がこぼれちゃう

 あれからどれだけ経っただろう。8月31日になると、いろんなことが思い出される。夏が終わる日。

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3 コメント

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Good Times (よぴち)
2011-09-01 18:05:05
凜太郎さん

泣かせるね。
いや、そんなつもりはないんでしょうけど、勝手に泣いてます。

この曲は、私も大学時代にちょっとした思い出があって、どうにも、今でも、ちょっと鼻がツーンと来てしまう曲。

夏って、若い頃は(子供の頃も含め)、やっぱり特別な季節だったんだな、って、
ありふれた言い方になるけど、過ぎて久しい今になって思います。
じゃ、何の思い出がある?って問われても、
具体的に挙げられるのは、わずかなんだけど…。
ということは、何だろう、その「特別感」は事象や形に残るものでない、精神的なものか?

今年は、私にとって久しぶりに入院もなく、また、この数年の中では身体が軽い方だったせいか、何か出来そうな、少なくともありそうな、気がしてたのかなぁ。
ホント、久しぶりに夏が行く淋しさを感じています。

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Eternal Time (凛太郎)
2011-09-02 07:05:37
やっぱり、還らないもの、追憶の中にだけあるものってのが浮かび上がると、僕も涙腺が弛みます。なんか思い出す曲なんですよね。黄金色した夏の日々を。
その日々は、よぴちさんのおっしゃるとおり、それほど具象化しない。僕は最後に羅列しましたが、ひとつじゃなくいろんなことが巡る。具体的な「これ!」じゃない心的情景。精神的なものなのかもしれませんね。少しづつ刻み付けられた。

今年の夏も、何も成すことなく終わってしまいました。さびしい。
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Unknown (名古屋のひと)
2023-04-02 22:07:30
あー、今更だけどコメントします

僕も夕日に別れを告げて、とてもすき

BYE BYE MY LOVEも

サザン、なんて切なくさせるんだろう
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