凛太郎の徒然草

別に思い出だけに生きているわけじゃないですが

トーホールド Ⅱ

2006年09月16日 | プロレス技あれこれ
 前回からの続き。

 トーホールドは、結局のところつま先を掴んで足を捻り、足首、ヒザ関節、股関節を痛める技である。例えばヒザ十時など逆関節技的な技、またアキレス腱固めなどの順関節技とはそこが違う。あくまで関節を捻って(つまり縦にしか曲がらない関節を横に回して)極めてしまう。これは怖ろしい。
 アンクルホールドは、ちょっとアキレス腱固めに似ているような感じがする(裏アキレスね)。しかし、足首を横に捻じ曲げている以上トーホールドの変形と見たい。
 そして、足のいくつかの関節を極めるわけだが、捻じ曲げる部分をどこに特化するかで技が分かれていくようにも思う。アンクルホールドは足首。ヒールホールドは膝。クロスヒールホールド(ヴォルク・ハンのやつね)はどっちなんだろう。ややこしい。

 そういう範疇でいくと、ドラゴンスクリューという技も、これらの「足関節捻じ曲げ」の技の部類ではないかとも思える。あれはヒザの破壊だ。相手の身体が固定しているわけではないので自分と一緒に回転してしまうが、自分の回転のスピードが速いため、その時間差で関節を痛める。したがって、ドラゴンスクリューはゆっくりやってはダメ。素早く回転することで「相手の身体が残る」ことが重要なのだ。
 藤波辰巳のドラゴン殺法のひとつだが、最初に見たときはビックリした。何をやったのかが一瞬わからなかった。しかしこれはよく見ると怖い技である。カールゴッチ由来の技だと言われたが、当時は相手の蹴りを受け止めて倒すという技という印象が強かったものの、あれは一歩間違えれば靭帯を損傷する。
 あくまで僕の印象だが、藤波がヘビー級に転向した後は一時封印、とまではいかなくても頻度が減ったのではないだろうか。これはヘビー級で使われる方が怖い。掛けられる側の身体が重いため、身体が残る時間が長い。一緒に回ってしまうことがこの技の受身であるのだから。例えば曙などに仕掛けたとしたら、彼はおそらく一緒に回転することなど出来ないだろうから確実にヒザを破壊されてしまう。

 そうして、ドラゴンスクリューは他のドラゴン殺法(ドラゴンロケットなど)とともに見る機会が減っていったのだが、これに再び脚光を浴びせたのが武藤敬司である。
 印象深いのはやはりvs高田延彦で、武藤はこの技で高田のヒザを完全に破壊してしまった。そのあと4の字固めでフィニッシュとなるのだが、あれはその前のドラゴンスクリューで勝負がついていたとも言える。怖い。
 その後も武藤はドラゴンスクリューを得意技として使い続けているが、以後は武藤は足首のホールドを離すのを早くしているようにも思える。そのことで、相手にかかる負担を軽減している。雪崩式も使うようになったが、これもどちらかと言えば相手をマットに叩きつけることを主眼としていてヒザ破壊を避けている。武藤のように高速回転を旨としていれば、そうしないと事故に繋がる。
 武藤は天才的センスを持ったレスラーだが、派手にアピールする技を多用するためにいきおい危険性を伴う。武藤は技がキレ過ぎるために危ない。なので、ドラゴンスクリューしかり、またフェイスクラッシャーも離すのが早い。シャイニングウィザードも眉間ではなくこめかみを狙う回し蹴り的に変化した。残念ではあるがいたしかたないことだろう。ドラゴンスクリューを、最後まで足首をホールドして高速回転する危険性を考えるとそら怖ろしい。

 話がそれた。
 トーホールドと言って、どういう技を連想するかと言えば、それはやはりドリーファンクJr.の「スピニング・トーホールド」が浮かぶのではないだろうか。試みにトーホールドで検索したらスピニング・トーホールドばかりがヒットした。こちらの方がずっと認知されているものとわかる。
 プロレスファンでこの技を知らない人はいないと思っていたが、しかしもうドリーの全盛時代からずいぶんと年月が流れた。今ではトーホールドと言えば例えば蝶野のSTF(ステップオーバートーホールド・ウィズフェイスロック)なんかの方が10代のファンには馴染み深いかもしれない。
 現在は「プロレス技博物館」の西村修が使うが、西村も新日を離脱して地上波ではこの技が見られない状態が続いている。これだけ一世を風靡した技であるが、見たことがない、という若いファンが増えていくことが予想される。しかしこの技はファンクス(テリーも含めて)の印象があまりにも強すぎるために「物真似」にしか見えないので会得しても使用しにくいだろう。それだけ偉大な技であったとも言える。
 技の解説はもう僕には荷が重過ぎるので知っていること前提で書くが、この技はドリーの父であるファンクシニアが、自ら経営する牧場で暴れる牛を押さえつけるために行ったやり方から発展させ完成したと言われる。子供の頃読んでいたコミック「プロレススーパースター列伝」ではそこのところが細かく描写されていた。トーを掴み(というより足首か)相手のヒザを曲げて足を差込み、内側に回転させて極める。ヒザが曲がっているので、完全にこれはヒザ関節の破壊を目的とする。
 ファンク一家のまさしく「伝家の宝刀」であった。父シニアは、身体が小さく悪役としてでしか生きる道がなかったのだが、ヘビー級王者への憧れをひたすら持ち続け、二人の息子にその夢を託して鍛えぬいた。これがアマリロの「ファンク道場」の発祥である。そして二人ともデビューを果たし、ドリーは当時のNWA王者ジン・キニスキーを破ってついに一家念願のヘビー級王座に就き、スピニング・トーホールドをフィニッシュホールドとして4年3ヶ月もの間君臨した。僕がプロレスを見た最初の頃はドリーがまだチャンピオンで、ギリギリ間に合った世代と言える。NWA王者と言えば後にハリー・レイス、そしてリック・フレアーの代名詞となっていったが、僕はなんと言ってもドリーだ。悪役、そして綱渡り防衛の印象が強いレイスやフレアーと比べ、ドリーには風格があったように思う(三つ子の魂百まで、であって最初に見たチャンピオンの印象は強いのです)。

 さて、スピニングトーホールドであるが、今ではこの技は実に難しいのではないかと思う。もちろん関節を極めるポイントなど難しい技であるということも承知しているが、「魅せる」というプロレスに不可欠な一点についてもこれはなかなか大変なのではないか。
 この技は足首をホールドして、自らはスタンディングで極める技で、相手の上半身及び片足は全くのフリー状態であるので、反撃は可能だ。たいていは痛くてのたうちまわる様を掛けられた側は上半身で表現しているが、掛ける側は力を入れるとぐっと前がかりの姿勢になるため、相手に頭部を掴まれやすい。また、回転する段階で後ろ向きになる場面も生じるため空いている足で蹴飛ばされる場合もある。防御しやすい技と見られるように思える。なので黙って掛けられているのは説得力に欠ける。
 また、内側に足首を極めただけでもう十分なのだが、それを派手にするために「回転」を加える。そうすると、どうしてもバレリーナのようにスピンというわけにはいかないため、下手をすると「ドタドタ」という印象が生じる。晩年のテリーのスピンなどは実に「ドタドタ」としていて、あれでは必殺技の値打ちが下がってしまう。かくしてスピニング・トーホールドは難しい技となるのだ。
 あくまで印象だが、若い頃のドリーは「くるり」とスピンしていた。何歩も足をつかない。これが重要なのではないだろうか。この回転によって波のように痛みが襲ってくる。この迫力を生み出さないといけない。なので後継者が生まれにくいという側面もあるのだろう。

 チャンピオンであった頃、また実力者として君臨していたころのドリーは、オールラウンドプレイヤーでありながら最後にオリジナルホールドを出す。その「伝家の宝刀」を抜く瞬間をゾクゾクして見ていたファンは多いだろう。
 なので、簡単に真似出来るものではないのだ。ドリーの醸し出す雰囲気、風格のようなものも加味されてこの技は輝きを増す。クラシカルな匂いを持っていた頃のプロレスならではだったかもしれないが、そういう意味においては、「スピニング・トーホールド」は幻となってもいいような気さえしている。

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4 コメント

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(笑 (明石家_1955)
2006-09-16 22:36:59
「プロレススーパースター列伝」w



おいら、いまだに持ってますよ。
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世界最強タック・リーグ戦 (ヒロリン)
2006-09-16 23:33:46
 プロレスでもっとも衝撃を受けた、あの伝説の「世界最強タック・リーグ戦」でのファンクスVSブッチャー・シーク戦は昭和54年(1979年)12月だったんですね・・・。もう27年も前のこととなってしまいました・・・。



 「スピニング・トーホールド」も伝説の技になってしまいそうですね・・・。
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>明石屋_1955さん  (凛太郎)
2006-09-17 08:42:48
僕も、持っていることは持っているのですよ。ただダンボール箱に入っていて出てこない。この記事を書くときも確認しようと思ったんですがねえ。

あのコミックスは梶原一騎だったんでノンフィクションじゃないですが、結構面白かったよねえ(笑)。
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>ヒロリンさん (凛太郎)
2006-09-17 08:46:15
「あっ、フォークだ!」

実況中継がまだ耳に残っています。もうそんなに時間が経ったのですね(汗)。



「勇気があります、テリー・ファンク!」



あれからテリーは人気爆発。会場にはチアガールも登場していました。なんか違う風景だなあと思ってはいましたが。まああれも時代でしょうね(笑)。

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