凛太郎の徒然草

別に思い出だけに生きているわけじゃないですが

フットスタンプ

2012年02月29日 | プロレス技あれこれ
 プリンス・デヴィットというアイルランドのレスラーがいて、ここのところ新日本プロレスジュニアの第一人者となっている。実に運動神経がいい。その跳躍力には時として惚れ惚れする。技も多彩で、高さがあるために常に美しく映える。
 彼は、80kgそこそこに体重を絞っている。ジュニアヘビー級は100kg未満であればOKなので、まだまだ体重は増やせるはずなのだが、より技の切れをよくするためにストイックにそれ以上増やさないのだろう。プロレスラーは受身を取るためにあるていどの体の分厚さというものは必要で、痩せているとダメージが大きくなるため、肉の鎧を付けるのが一般的である。無差別級ならその体重は青天井であり、階級別なら制限ギリキリまで太るほうが有利である。打撃技の威力は体重に比例する。そういう競技の中で、いかにも体脂肪率が低そうなデヴィットの体躯は、修行僧を思わせる。
 技も多彩だ。ペガサスキッド以来のスープレックスをはじめ、投げ技、打撃技、身軽さを活用した体当たり系技などを息つく間もなく繰り広げる。完全にジュニアのエースとして君臨している。
 そこまで身体能力に優れ精進を重ねるレスラーであるのに、彼はどうしてダイビングフットスタンプを得意技にしているのだろうか。

 フットスタンプという技は、そのまま解釈すればいい。マットに倒れている相手に向かって、飛び上がってドスンと足裏で踏みつける。相手のボディの上に着地すると言ってもいい。多くは、両足を揃えて踏む。その場合、完全に体重が足裏の面積でかかることになる。
 自分の体重を相手に浴びせてゆく打撃技として、ボディプレス、ヒップドロップ、ニードロップ、エルボードロップ、ダイビングヘッドと様々あるが、負荷を他に逃がすことなく100%相手に浴びせる技は、セントーン(巧いサマーソルトドロップ含)と、このフットスタンプしかない。
 さらに、セントーンと比べて体重の乗る面積が小さい(背中と足裏では必然的にそうなる)。したがって、よりフットスタンプの方がその面積に対する負荷が大きいこととなる。レスラーの体重が、その足裏に集中して飛んでくる。
 より高くから飛べば、物理の法則でどんどん衝撃が増す。ダイビングフットスタンプという技は、コーナーに上って飛び降りる。多くは腹部を狙うために、相手が仰向け状態のところへ落ちてくる。
 考えてもみればいい。僕なら腹の上にボウリングの球を落とされても終わりだろうに、プロレスラーがジャンプして足を揃えて落ちてくるのだ。悶絶必至であることはいうまでもない。
 数多いプロレス技において、その拷問度合いはトップクラスだろう。
 にもかかわらず、こんなにつまらない技もそう多くはない。はっきり言って、僕は嫌いだ。

 なぜ「嫌い」とまで明言するのかといえば、まずこの技は、全く技術を必要としないからである。僕でも簡単にできる。倒れている相手の腹の上に飛び上がって足を揃えて乗るだけでいい。それだけで相手はゲフッとなり悶え苦しむ。コーナートップから飛び降りるにはちょっと勇気がいるが、それも可能である。目測を誤るということもあるまい。
 そして、リスクが生じない。
 普通のフットスタンプはもちろんのこと、コーナートップから飛び降りたとしても、全くノーリスクである。コーナーからのダイブ技は常に「自爆」という危険性を伴う。ニードロップを避けられればヒザをマットにしたたか打ち付けることになる。ヘッドバットもセントーンも、失敗すれば大変なダメージを負う。それでも果敢にレスラーは飛ぶわけで、そこに、普通の人では出来ないレスラーならではの勇気と受身技術が必要となってくる。ところがこのフットスタンプには自爆がない。避けられたらそのままマットに着地すればいいだけ。こんなの、ずるい(幼稚な表現だが本音)。
 さらに、見栄えが悪い。
 この技を得意としていたレスラーに越中詩郎、佐野直喜、小川良成らがいるが、いずれもかわりばえせず相手の腹の上に足を揃えて落ちてくるだけ。体勢は直立不動のままであり、アクションが少ない。ただの自由落下である。なので悶絶技にもかかわらずそれが伝わりにくい。表現すれば「チョンと相手の上に乗る」くらいの感じである。よくよく考えればこれはえげつない技なのだが、よくよく考えねばならないところに、この技の致命的欠陥があるといっていいかもしれない。
 観客も沸きにくい。後に佐野直喜は、コーナートップからマットへのダイブだけではなく、リング下の相手にも放ついわゆる「断崖式」も繰り出すようになったが、それでも仕掛ける側はただ直立して落ちるだけなので、こけしの如く見栄えがしない。
 以上の理由で、僕の中では「つまらない技」の最右翼となってしまう。技と言えるかどうかも、僕には疑問である。

 プリンス・デヴィットのダイビングフットスタンプは、それらとは確かに一味違う。
 彼は、コーナートップから飛び降りるのではない。そこから上昇して、十分に高度を稼ぐ。その最高到達地点でヒザを抱えるように縮める。ジャンプして脚を屈するために空中で一瞬止まって見える。これはつまり滞空時間を長く感じさせるわけで、そこから相手の腹部めがけて落下と同時に脚を思い切り突き伸ばす。落下と同時に屈伸式ドロップキックを叩き込むようなもので、それは見栄えがすると同時に多大な悶絶への説得力を生じさせる。これは、本当にえげつない。
 このデヴィットの技は確かに、僕でも可能な「腹の上にチョンと乗る」フットスタンプとは一線を画する。
 しかしそれでも、フットスタンプはフットスタンプなのである。これだけ身体能力が高く技術力のあるデヴィットがどうしてもやらねばならぬ技ではない。

 では、フットスタンプはどうすればプロレスの中で生きるのだろうか。
 まずは、見栄えである。それは、デヴィットが体現している。高さ、そして滞空時間の長さ、さらに脚を突き出すことによる串刺し感。これで、フットスタンプは技に昇華する。
 しかし、これはデヴィットだから出来るのである。前述したように、デヴィットは80kgそこそこしかない。だから、ここまで危険なことが可能なのである。ジュニアヘビーでも、軽い部類のレスラーのみ可能。もうひとり、ロウ・キーのフットスタンプも印象に残る。彼も、体重はさほどではない。
 逆に言えば、越中や佐野ではこういう形のフットスタンプは無理なのである。越中や佐野は実に器用なレスラーであり、デヴィット式の突き刺すようなフットスタンプくらいおやすい御用で繰り出せるだろう。しかし100kg超えしている彼らがデヴィットやロウ・キーのようなフットスタンプをやれば、相手の腹腔が破れてしまう。プロレスは、相手を殺すための競技ではない。なので、足を揃えて直立姿勢でチョンと降りる程度しか出来ないのだ。
 そして、佐野や越中はかつてジュニアヘビーで一時代を築いたレスラー。つまりヘビー級の中では軽量だ。相手はたいてい彼らよりデカい。なので、いかにも軽い技に見えてしまうのである。相手に全体重を浴びせるという技にも関わらず。
 なので、彼らがフットスタンプをやることに賛成が出来ない。
 もっと重量級のレスラーがフットスタンプをやれば、それはえげつなさが伝わるに違いない。アンドレがセカンドロープに上って落ちてくれば観客は皆「やめろー!」と叫ぶだろう。ただ自由落下するだけで迫力満点となる。しかし、それは無理である。相手が確実に怪我をする。
 僕が知る限りで、「やめてくれ!」と思わず叫びそうになったフットスタンプは、橋本真也のそれである。あれだけデカいのが落ちてくれば、相手はどうなることかと思ってしまう。あれくらいのレスラーでないとフットスタンプは活きない、と言える。
 しかしながら、その橋本のフットスタンプでさえ、やはり違和感をどうしても持ってしまうのである。何故か。それは前述した「技術いらず」「リスクを負わない」という点において、だ。これは「ずるい技」であるという感覚がどうしても抜けないからである。
 逆に言えば、これはレスラーのキャラクター次第で活かせるのだ。

 今のプロレス、ことに日本のプロレスは、もはや善玉悪玉の区別で感情移入して観る視点が減じた。技術の凌ぎ合いが観点の主流である。それはそれでもちろんいいと思うのだが、フットスタンプのような技は「悪役」がやってこそ生きると僕は思う。凶器攻撃にせよチョークなどの反則にせよ、いずれも「ずるい」技は悪役がやるものだ。
 フットスタンプは、反則ではない。しかし、リスクを負わず省エネで最大限の効果をあげるこの技は、悪役がやってこそはえるのではないか。デヴィットがこれをやることの最大の違和感は、ここにある。
 ケビン・サリバンというレスラーがいた。今はどうしているのかな。若い頃はテクニシャンとして知られたケビンだったが、のちに悪役として名を馳せた。凶器攻撃で血を流すスタイルだった。
 彼が、ダイビングフットスタンプをやった。実に似合っていた。この技は、腹の上にドスンと落ちてきて相手が悶絶するのを舌なめずりして喜んでいるくらいのレスラーでないと似合わないような気がする。そのリスクなしというずるさも、観客の感情移入に役立つ。
 矢野通などは、フットスタンプが似合いそうだと思う。フィニッシュにせず、苦しむ様子をしばらく眺めているような佇まいを見てみたいものだと思う。もう既にやっていたとすればごめんなさい。

 さて、フットスタンプのもうひとつの道は、技術的に極めることである。デヴィットのフットスタンプも極限までいっているとは思うが、それでも見方によればプロでなくても真似できる技だ。その、さらに上をいく必要性がある。
 ムーンサルト・フットスタンプというのがある。その名の如くコーナートップからムーンサルト回転をして両足で相手ボディに着地するという離れ技で、福岡晶が開発したとも言われる。女子プロレスをはじめ、男子でも現在は使い手が何人もいるようだ。これもリスクを負わない点は残るものの、その素人には決して真似できない技術力によって、善玉がやっても必殺技として認めうるものになってくる。
 しかし、ちょっとエグくないかいこの技。遠心力が加わるのはまたキツいよ。何度か凄惨な場面を見たぞ。そこまでしてフットスタンプをやらなくてもいいのではないのだろうか、とつい思う。

 フットスタンプという技は、足裏に体重をのせて踏みつける技、との定義もできる。さすれば、近い技はストンピングである。
 ストンピングになると、急に卑怯な感じが失せる。視点とは、勝手なものだと思う。だいたい、これは基本技である。とにかく相手を踏み倒す技であり、誰でもやる。ただし、フィニッシュには結びつかない。
 ストンピングは蹴りだろう、との見方もあるが、stompとstampは類義語のようですね。辞書ひいてもイマイチよくわからんけれども、stompはドシンドシンと踏み鳴らす意味らしく。足の甲ないしは爪先、踵、踝をつかえば蹴り、足裏であれば踏みつけ、と定義してみるかな。じゃローリングソバットはストンピングの一種か、と問われればまた迷宮に入るのだが、ストンピングは足裏を使い、ドシンドシンと相手を踏む(ように蹴る・蹴り倒す)。力のベクトルは下方、ということでいいかな。
 僕などは、長州の鬼気迫るストンピングは印象に残るなあ。インタータッグ戦で谷津と組んで、鶴田天龍を相手にしたときの、肋骨を痛めながら空を飛ばんばかりに勢いをつけて相手を踏み倒そうとしたストンピングは今でも思い出す。蹴れば肋骨に響くのに何度も何度も渾身の力を振り絞ってね。ああいう試合がまた観たい。
 両技とも足裏に体重をのせて相手に対峙することには共通項があるが、ストンピングはもちろん片足でガンガン踏み倒そうとするわけで、両足をそろえるフットスタンプとはその点で明確に違う、とも言える。その場でジャンプして相手を踏みつける場合は確かに違う。しかし、コーナーから飛び降りて片足で踏みつければ、それはストンピングかフットスタンプなのか。ダイビング・ストンピングなど聞いたことがなく、やはりそれはフットスタンプではないか。シングル・フットスタンプ。
 しかし、両足でも体重の乗る面積が小さく衝撃が強いのに、全体重が片足では腹に足がめり込んでしまう。そんな危険なことは誰もしないので、技として成立しないから誰も考えないのだろう。
 ならば、ディック・ザ・ブルーザーのアトミック・ボムズ・アウェイは何なのだろうか。あれは、コーナーから片足で踏み潰さんと落下してくるのだぞ。

 とはいいながら、僕のように力道山が死んでから生まれた世代では、「生傷男」デック・ザ・ブルーザー・アフィルスなど伝説上の人で、もちろん全盛期など知らず懐かしプロレスのビデオで数回観たにすぎない。しかし、その迫力たるや凄まじいレスラーで、ある意味不世出であるとも言える。胸板というかその体躯は、異常に分厚い。あんな身体は見たことがない。そのパンパンの盛り上がった、しかもボディビル的ではない膨れ上がった筋肉。プリンス・デヴィットと比べるのも変だが、明らかに異形の人だったと思う。
 技らしい技は、ない。とにかく殴る蹴る。顔をつかんで捻じ曲げる(チンロックに近いがもっと力任せ)。腕をつかんで捻りあげる(関節技というにはあまりにも力任せ)。クロー攻撃(というより掴んで握りつぶす)。コーナーに叩きつける。全くのところ、規格外のレスラーだ。技は、ボディスラムくらいか。用心棒あがりらしいが、さもありなんとも言えるファイトスタイル。喧嘩だな。何でもいいから相手を叩きのめすのだ。
 そのフィニッシュホールドが、アトミック・ボムズ・アウェイと呼ばれる技である。
 
 相手に殴る蹴るの暴行をくわえて(格闘技であるプロレスでこの表現はおかしいがそう言いたくなるのだ)、相手が抵抗できなくなったらマットに叩きつけ、自分はコーナートップに上がる。そして、ジャンプ一番、マットに飛び降りて相手を踏み潰すのだ。それが、アトミック・ボムズ・アウェイ。足を揃えて落下してくるフットスタンプなんてものではない。踏み潰し技だ。
 ただ、古いレスラーなので僕も数例しか観てはいない。しかし最近は動画サイトというものがあってまことに有難く、Dick The Bruiserで検索していくつも観戦した。いやはや、やはりすさまじい。こんなのやこんなのが典型かなとは思うが、もう少し若い頃はニードロップも使っていたようだ。いくつかそういう例を見た。
 これは、自爆を避けるためにヒザから落ちるのをやめたのだろうか。いや、このおっさんはそんなチンケなことなど考えてはいまい。だいたい、アトミック・ボムズ・アウェイを出す前に既に相手はノックアウト状態であることが多く、よけようにもよけられないではないか。
 思うに、ニーでもストンピングでもどっちでも良かったのではないか。コーナーに上がってとどめを刺すのは、それが派手だからやっていたのであって、それ以上ではなかったように思える。相手を潰せて自分が満足ゆくなら、ヒザでも足裏でもどっちでもいい。踏み潰すほうが楽そうだな。じゃそっちにするか。その程度のことだろう。
 こういうタイプのレスラーは、もういない。腕力が強いということと、腕っぷしが強いというのは違う。技の切れをよくするため身体を絞り込み最高のパフォーマンスを見せようとするデヴィットのようなレスラーも好きだけれど、身体に肉をつけまくって相手が抵抗しようともかまわず前進して叩き潰すブルーザーのような個性もまた、見たい。そしてフットスタンプが似合うとすればそれはブルーザーだろう。本人は、串刺しフットスタンプなんてしゃらくさい、俺は踏み潰すだけだ、と言うだろうけれども。
 
 
 


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3 コメント

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Unknown (Unknown)
2018-08-03 23:38:46
この技、デビューしたての新人がベテランにかける...ぐらいなら許せるけど、そうでなかったら反則にしてもいいぐらいだと思う。
それか、女子プロレスとかで、すんごい体重差ある対戦の時のハンデ (プロレスでハンデというのも変かもしれんが) で体重軽い方のみかけても許されるとかのルールにするとか
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Unknown (Unknown)
2021-04-13 20:51:16
私もフットスタンプが嫌いです。ローリスクで地味なのにどう考えても痛いし危ないですよね。点で落ちるので事故もありそうですし見てると怖いです。受ける側も寝ているだけで派手な受けを見せられるわけでもなくおいしさゼロというのがまた…。
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Unknown (たか)
2024-07-26 15:47:31
全く同意見。AmebaでNOAHの試合やってるけど拳王がPFSと言って同じ事をやってる。リスクの無い安全第一の技?だ。棚橋がハイフライフローやるのと全く違う。オマケに拳王は後頭部への蹴りもやる。急所への蹴りと同じように鍛えようが無いのに蹴る。そんな事ばかりやるから拳王が嫌い。リスクの無い事ばかりなのに塩崎は相変わらず胸へのチョップばかり。何でも有りの拳王に対しても蹴りは絶対にしない。剛腕とか言いながらもラリアットとチョップしかやらない。だから塩崎も後頭部へのチョップをやればいいのに頭が無いのかやらないんだな~
だから見るたびにイライラ!
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