凛太郎の徒然草

別に思い出だけに生きているわけじゃないですが

旅の移動手段 その1 徒歩・ヒッチハイク

2007年10月17日 | 旅のアングル
 移動しなくても旅は出来るのだ、という一群の人が居る。動かなくてなんで旅と言えるのかと僕などは思うが、鉄道ファン、特に時刻表派は、移動を伴わない旅をする。時刻表を読み耽り、列車の接続を辿っているとそれだけで旅に出ている気分になってくるらしい。達人になるとそれは実際の旅行の感動を凌駕する場合もあると言う。つまり「机上旅行」であるが、それを全然否定する気持ちにもなれない。ちょっと分かる部分もあるのだ。一種の究極と言えるか。移動手段に絞った旅のひとつの到達点として、非常に純度が高いとも言える。
 しかしながら僕たちのような凡人はとてもそれでは旅行をした気にはさすがにならない。やはり移動してこその旅行で、そのために様々な交通手段を駆使して旅立とうとする。旅は出かけないとやはり成立しない、と悟りを開いていない僕などは思う。

 さて、旅行の手段としての移動には、様々な方法がある。そんなことを思うがままに述べてみたい。

 まず、徒歩である。
 歩きの旅というのは古来からの基本。黄門様も弥次さん喜多さんもそうやって旅をしてきた。また僕がよく言う「旅の達成感」という点においてこれほどそれを味わえる旅もない。
 しかし、現代では日常的にそんな旅をしている人はかなりの少数派である。もちろんいないわけではないが。何故少数派になるかといえば、二つほど原因が考えられる。ひとつはもちろん現代人の体力の低下である。しんどいもん。もうひとつは、最初から徒歩というのは今では贅沢な手段であるからだ。なんせ時間がかかる。その時間を捻出することがなかなか出来ない。
 だから、徒歩旅行をモットーとする人はかなり頑張っている。最近、旧街道を歩く、なんてことをよく実行に移している人がいるが、職業を持ちながらやっている人はたいてい尺取虫式である。東海道を歩くとして、日本橋を基点としてまず品川まで歩く。品川まで着いたら電車などで一旦帰宅。そして次回の休みに品川まで電車で行ってまたそこから歩き始める。そうして繋げていく方式。大変だなぁと思う。
 僕もやってみようかと思ったことがある。学生の頃だ。しかし体力に不安もあり、まず住んでいた京都から、滋賀県の草津まで歩いてみた。約30km。これは難なく到達した。なんだ簡単じゃないの。それに勢いを得た僕は、YH協会が主催した「琵琶湖一周ハイク」というものに参加してみた。これは約180kmである。深夜に起点である琵琶湖南端の大津市瀬田を出発し、琵琶湖西岸を約100km、昼夜ぶっ通しで歩いて琵琶湖北端の海津大崎まで。そして一泊の後、翌日東岸を近江八幡まで50km、そして翌日もとの瀬田まで30km。そういうスケジュール。
 その詳細についてここで書こうと思ったのだが、もうね…。キツかったことしか印象にない。僕は当時サイクリストで体力には自信もあったのだが、体力よりなによりヒザ関節がやられ足が曲がらなくなった。足裏にはマメが出来ては潰れまた出来て。あんまり書いても面白い話は出てこないので止める。一日で100km歩くなんてそりゃもう大変だった。こういうのは「慣れ」もあると思うしコツもあるだろうし、日頃から歩いていればある程度は平気なのかもしれないが、僕にはとてもとても。
 それ以来、徹底した歩きの旅というのはやっていない。
 もっとももっと加齢して「毎日が日曜日」となったらやってみたいなとチラリと思ったりもする。自分のペースで。しかし、おそらく無理だろうな。四国八十八箇所巡礼などのお遍路さんは今でも完全徒歩の人が多い。すげぇなぁと思う。

 旅の移動手段には実に様々なものがあると思うのだが、徒歩に近いもので、以前ローラースケートで旅をしている人と出会った事がある。北海道でだ。これはなかなか格好いいと思った。しかし平坦な道でないと駄目なのでは、と思ったが、話を聞くと、昇りの道でもテクニックであがっていけるのだと言う。ははぁそうなんですか。こういうのは特殊技能の世界なのでとても真似出来ない。僕は実際に会ったことはないが、スケートボードで旅をしている人もいる由。どうやって峠を登るのだろう。

 さて、最初から最後まで徒歩というのはなかなか難しいが、もちろん旅先では徹底的に歩く。街歩きも楽しい。また、登山も旅の一形態だとすればそれは徒歩旅行みたいなものである。

 ここで、ヒッチハイクについてちょっと書いてみたい。
 ヒッチハイクとは、ご承知のとおり走る自動車等に頼み込んで乗せてもらって旅をすること。Hitch hikeであり、hikeと言うからには徒歩旅行の一形態であると言えるかもしれない。
 一時期「猿岩石」がTVで世界をヒッチで旅して話題になり、一時的に市民権を得て、ヒッチ人口が急激に増えた。最近はもちろんブームも去って下火だとは思うが、ヒッチハイクがなくなってしまったわけではない。僕も乗せてもらう側、乗せる側両方に立ったことがあり、内実はある程度知っているつもり。
 ちょっと堅苦しい話を先にするが、これには是非論がある。カヌーの野田知佑氏は「若いときは経験だ、大いにやれ」、ジャーナリストの本多勝一氏は「人に頼るな、自分で稼いだ金で旅をしろ」。双方の異なる意見はそれぞれに頷かせる部分があるのだが、僕は今は本多氏と考えを同じくしている。やはりこれは「甘えの構造」から成り立つ旅行形態ではないのか。
 一部の人のことなのかもしれないが、猿岩石以来ヒッチをする人のマナーが著しく低下しているとはよく言われる話。傍若無人な態度、「これこそ旅だ」と嘯き他の旅行手段をあざけるエセ「旅行の達人」、親切を仇で返す不逞の輩など、見ていて情けなくなったりする。
 僕の考えとしては、ヒッチはあくまでも緊急避難として活用し、基本的には自分で稼いだ金で旅をして欲しい。人の情けに頼って、しかもそれが当然という人が本当の旅行者と賛美されるのにはどうしても疑問が伴う。また昨今はいい人ばかりではない。乗せる側、乗る側両方に危険が伴う。

 そういったことを踏まえて、若かりし頃の甘えの構造の話をいくつか。まあ恥の話です。
 ヒッチハイクだけを手段として旅に出たことはないが、一度だけそれに類したことをやったことがある。
 学生の頃。ある日の朝僕に、東京在住の旅で知り合った友人から電話が入った。「明日旅の仲間で集まるんだけれども出てこないか」
 こういうことはもっと早く言ってくれれば金の工面もするのだが、その時はなんせ明日のことであり時間がなかった。それでも参加したいので、なんとかして行くわ、と返事をして財布を見ると、呑み代を引くと片道分しか交通費は捻出出来ない。キセルは犯罪であるし、僕はなんとかヒッチハイクで京都から東京まで行けないかと考えた。
 しかし国道に出て親指を立てたり、「東京」と大きく書いた紙を掲げたりしていてはいつになったら着けるのかわからない。僕はまず、知り合いが出掛ける際にちょっと同乗させてもらった。高速に乗るためにである。その人は隣県までしか行かないために、途中のサービスエリアで降ろしてもらった。さて、ここからが勝負である。
 待合に入ると、いかにも長距離トラック然としている人たちがたくさんいる。そこに勇気を持って話しかけてみる。「えっと、遠距離バスに乗って東京に行くところだったのですが、トイレに入っている間にバスが出ちゃって困ってるんです」
 こんなのミエミエの嘘である。バスが乗客確認もせず出て行くものか。ただこれで笑ってくれればしめたもの。もちろん最初は断られたが、何人かに話しかけていると、笑いながら「じゃ乗っていくか」と言ってくれた方がいた。ああなんと有難い。
 そして、僕は東京行きの長距離のおっちゃんに同乗させてもらうことが出来た。今にして思えば本当に無茶なことをやったものだ。僕は礼儀として自分が出来る限りの笑い話をして楽しんでもらうよう努めた。その方は本当に親切な人で、ごはんまで奢ってくれて無事東京に送り届けてくれた。
 今考えれば冷や汗ものである。若気の至りとは言え深く反省。本当に感謝しています。

 旅の途中で「乗っていくか」と声を掛けられ同乗させてもらったことはよくある。冬の寒い北海道や東北などで一人トボトボ歩いていると、車が止まってくれたりする。これは厳密には自分からアクションを起していないのでヒッチハイクとは異なるが、結果は同じことである。有難い。また、自転車で走っているときすら、雨に打たれたりしていると軽トラックが止まって「後ろに自転車乗せて乗っていけよ」と言われたことまである。世の中善人ばかりだなと思ったりする。古きよき時代の話。
 他にもいくつもヒッチをした経験はある。例えば知床での話。当時知床半島の西側であるウトロ方面に宿泊していて、そこから山中にある神秘の湖、羅臼湖に行こうという話で同宿者たちと盛り上がった。だが、そこへの入り口は知床横断道路を行き峠を少し越えた羅臼側にある。同行者はみんなバイク。僕は交通手段として自転車を持っていたが、標高738mの峠を越えてまだ少し行って…となると自転車だとキツい。それに時間もかかる。なので、横断道路の入り口まで行って親指を立てた。ここから先は一本道なので必ず誰かは止まってくれた。同宿者からは「サイクリストのくせにヒッチをするやつ」と呼ばれ揶揄されてしまった。いやはや。
 最高人数として、7人でヒッチをしたことがある。沖縄の西表島のことだ。こんな離島では、バスは走っていることは走っているのだが本数が極端に少ない。同じ宿に泊まり合わせた仲間と遊びに出かけたのだが、宿に帰るバス便を逃してしまった。そこでヒッチで宿に帰ろうと思ったのだが、7人じゃ無理である。どんな車もこの大人数を見れば止まってはくれない。
 7人のうち2人は女性である。なので、彼女らにやってもらうことにした。
「一人で運転してるバンが来たら手を上げてみて」
 彼女らは南国の島であるから当然露出度の高い格好をしている。そうしておいて僕ら男5人は陰に隠れた。
 作戦はピタリと的中し、ものの数分で大きなバンが彼女らの前に止まった。彼女らが「どこまで行くんですか」と尋ねて「船浦までなら行くよ。乗っていきな」と言う声が聞こえたとたん、むくつけき男どもがゾロゾロと「いやぁすみませんね」と現れた。
 これは一種の騙しだ。もちろん申し訳ないので断られたら引き下がるつもりだったが、一旦乗せると言った以上はもう女の子だけ乗せるとは言えなかっただろう。苦笑いをしつつ「みんな乗っていきなよ」と言ってくださった。
 これも若気の至りである。本当にごめんなさい。もうこんなずるいことはしません。
 
 そういう牧歌的な時代もあったのだが、今はなんだか事情も少し変わった。
 かつて乗せてもらう側であった僕は、それから車移動の際にはヒッチハイクの人を見れば出来るだけ乗せるようにはしていたが、事件なども多く何だか怖くなって今では躊躇してしまうようになった。時代が変わっちゃったなと思う。
 もちろん再び乗せてもらう側になどならない。別に金銭に困っていないし、今は携帯の時代で、バスを逃してもいざとなればタクシーだって電話で呼べるからではあるが、それよりだれがこんなむさ苦しい中年男性を乗せてくれるものか。

 次回に続く。

コメント (8)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 僕の旅 福岡県 | トップ | 旅の移動手段 その2 自転... »

8 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
ヒッチハイク! (jasmintea)
2007-10-18 19:40:07
ヒッチハイクをしているつもりはないのですが方向オンチの私は知らない方に車で目的地に連れていって頂くことがよくあります。
世の中優しい方が多いですよね~。
どうせなら、とついでに観光もして下さったりして♪
逆に若い娘さんを乗せるのは気がひけるのかもしれません。

「歩く」って大切なことですよね。
移動手段は乗り物を使っても現地ではなるべく歩きたいです。
って、かなりヒッチハイクの話とズレていますね

PS 凛太郎さんの笑い話、聞きたかったなぁ!
返信する
>jasminteaさん (凛太郎)
2007-10-18 22:57:08
昨今、世の中善人ばかりではないという報道その他が流れてちょっと車に乗せてもらうのにも躊躇しがちなご時世なのですが、それでもこうして人の親切に触れると「性善説」を信じたくなります。まだまだ捨てたものではないのかなぁ。
でも、ヒッチハイクを大いにやりなさい、と言うことを記事に書くのはちとまずいのかな、なんて自制心も働いたりして。難しいですよ。
歩くってのは大切なことですね。全てを歩きとおして旅をするなんてことはなかなか出来ませんが、ポイントポイントはしっかり歩いて瞳に焼き付ける。歩くことで昔の人の距離感もわかる。歩きはホント基本ですね。

…あれ、jasminさんは若い娘さんじゃなかったのですか? (笑)。
返信する
移動手段 (組長~!)
2007-10-20 20:23:07
旅をした気分にはなれないけれど、昔は時刻表を見るのが大好きでしたし、いまは地図を見るのが大好きです!(^^♪

初めての北海道旅行の時、台風で列車が止まってしまい牧場に泊めてもらいました。(どういう経緯かは、忘れたけど。)

その牧場の方の口利きで、知り合いの方のトラックに乗り無事に列車が運行している所まで行く事ができました。

積丹の方を歩いていて陽が暮れて、バスもなくてヒッチハイクしたような記憶も・・。

この文を読ませて頂いて、ず~っと忘れていた色んな事を思い出しました!(^^)
返信する
>組長~!さん (凛太郎)
2007-10-21 06:55:51
いやぁ僕もさすがに机上旅行で旅した気分は無理ですけど、ふと気がつくと地図とかを見てしまって30分、なんてことがあります。疲れているときはそうなります(笑)。

組長さんはやっぱりいろいろ経験をされていますね。普通ではなかなか出来ないような。アクシデントってそのときは「困ったな~」と思うのですが後で結構いい思い出になったりする。事故さえなけりゃ旅って何が起こっても楽しいもんなんですね。
返信する
中年よ 身体を鍛えておけ。 (まるちゃん)
2007-10-24 09:44:30
ヒッチハイク こわいよ。
若いお嬢さんじゃあるまいし 誰もなんにもせえへんて って言われそ。
でもね。

カッコだけは若いから 目の悪い狼が間違って乗せてくれて 正体(狼のじゃなく まるちゃんの)に気づいた途端 クルマから落とされたらどうする。
そこから とぼとぼ歩くしかない。

だからまるちゃんは 毎朝お散歩して足を鍛えているのだ。
返信する
>まるちゃん (凛太郎)
2007-10-25 23:52:25
ヒッチハイクは性善説を信じていないととても出来ないものなのですね。やっぱり昨今は怖いかもしれません。僕も、「こんな楽しいことがあるからヒッチをどんどんやるべきだ」という立場にはとてもたてませんし勧める書き方にもしなかったつもり。

まるちゃん、「カッコは」お若くしてらっしゃると…(メモメモ)。而して正体は…。けれどもいつも、ある意味子供さんにもとれる文体を巧く遣われてらっしゃいますので、正体は僕にはよくわかんないなぁ。でもまあブログに年齢は関係ありませんからね~。

散歩は健康にいい。これは間違いありませんねー。
返信する
正体っすか。 (まるちゃん)
2007-10-26 07:22:33
『まるこ』と『ま3号』が無理なく共存している 
酸いも甘いもかみ分けた(誰がっ!)オンナですねw

夕方の教育TVを欠かさず観て 
jasminteaさんのブログがだいすきな
普通の女の子(どこがっ!)という言い方もできますwww
返信する
>まるちゃん (凛太郎)
2007-10-26 21:45:33
いやぁ多面的正体ですねー(笑)。でもネットってそういうのが楽しいのかも、ですね。「無理なく共存」ってのがいいです。
返信する

コメントを投稿

旅のアングル」カテゴリの最新記事