凛太郎の徒然草

別に思い出だけに生きているわけじゃないですが

旅行とコレクション 2

2008年06月28日 | 旅のアングル
 前回の続き。
 旅に出てコレクションがつい集まってしまう、という話を書いたが、コレクションというものの問題は「かさばる」ということである。僕は蒐集癖のある性格であることは自認していて、ついつい家にモノが堆積してしまう。そりゃ広い家と無限の資金力があればそんなのどこ吹く風であるが、マハラジャじゃあるまいしいつも同居人の文句と戦いながらということになってしまう。精神衛生上よろしくない。
 ならば、かさばらないものであればいいのではないか。だが、追憶を除いて、蒐集に場所をとらないものなどない。しかし限りなく少なくてすむ蒐集品もある。それは「スタンプ」の類である。

 旅の記念スタンプというのは観光地どこにでもあって、パンフレット等に押してはつい四散してしまうものである。でも、あれもきちんととっておけば立派な旅の記念品と成りうる。なんと言っても「現地でしか手に入らない」ものであるから。
 あれを集めている人などあまり居ないが、時々イベント的に「スタンプラリー」などという催し物があったりする。スタンプラリーというのは、用紙に空欄があって、全部集めれば記念品がもらえる、といったゲーム。探し当てて一つ一つ押し、景品と交換するわけだが、それがしばしば旅行に絡まる。よく道の駅が主催したりする。北海道の道の駅のスタンプを15個集めれば記念品贈呈、抽選でグルメセットプレゼントなんてやつね。
 どういう思考回路であるかはよくわからないが、うちの奥さんはやたらそういうのが好きである。見かければ必ずやる。押して歩くのが楽しいらしい。デパートや祭りなどのイベントでこういうのはよくやるが、その度に押して回っている。どうせ賞品など大したものはもらえないのだが、押すという行為が愉悦だという。まあ反対する理由もないので勝手にやりなさい、であるが、これに旅行が重なると少々相乗効果も現れたりしてしまう。前述の道の駅のスタンプなど長距離移動を伴うものであり、その予定も当初なかったのに、もう10km行けば道の駅があるよ、ということになるとわざわざ車を走らせたりする。こうなると旅の目的にスタンプラリーが加味されてしまう。どんどん旅が捻じ曲がってくる。
 それで、集まると景品と交換、ということになるのだが、僕なんかはそういう機会に押したスタンプを交換して取られるのが惜しくなったりする。僕の蒐集癖の部分が首をもたげる。オマエこれ渡すの止めて持って帰ろうよ、何言ってんの何のために押して回ってるのよ、なんてそこで初めて揉め事が起こったりもする。どちらも根本の主張は浅はかであり、以降は保存用と二つづつ押し始めてしまったりする。もはや阿呆である。
 まあこんな話などかわいいものである。実はこのスタンプ蒐集というものは相当に奥深い。高じると、そのうちスタンプを押すためにだけ旅立つような按配になったりもする。それはそれで立派な旅の目的だ、と言う事も出来るが、まず病膏肓の部類だろう。

 それはともかくとして、旅に出て知らず知らずのうちに集まってしまうスタンプというものもある。でも後から見て大切な記念となるもの。コレクションのつもりでは無かったが、中には人に見せて自慢できるものもある。その最もグレードが高いものとして「パスポートに押されるビザ」がある。
 海外旅行にいくと、国毎にパスポートにスタンプが押されていく。これが沢山たまると、記念だけでなく立派な旅のコレクションとして誇れるものになる。それぞれに思い出がこもりつい見返してしまうものらしい。旅行通のステイタスみたいなものだな。僕は海外は全く門外漢なのでちと羨ましい。
 国内であるとこういうのはそう多くはない。昔は、途中下車の際に切符に押される下車印というものがあって、これをコレクションしている人を見たことがある。今はどうなのだろう。下車印なんてもう滅びたのか。頼めば改札で押してくれるのだろうか。しかし切符があんな打ち出しのものになってはもはや集める価値もないかもしれない。
 もっと規模は小さくなるが、僕には大事に保管しているスタンプ帳がある。それはユースホステルの宿泊印である。ユースホステルとは何か、と問われると話が長くなるのでこちらを参照していただきたいが、この全国ネットの宿泊施設では、泊まるたびにひとつスタンプを会員証に押す。それぞれの宿で特徴のあるスタンプが用意されていて楽しい。そして旅が長くなるとどんどんこれがたまり、会員証のスタンプ欄を溢れて補助カードを繋げていく。その補助カードがまたそれぞれの場所で凝ったものを供してくれる。集まるとなかなか楽しい。僕も若い頃はよくこの施設を利用し、宿泊数が300泊を超え、相当量のスタンプが集った。理解してくれる人は少数だと思うが、これは僕にとっては宝物である。思い出が詰まっている。火事になったら当然持って逃げる。だが何が起こるかわからないので、念のためコピーしてネットにアップしてある。それがこれである。同好の士以外見られてもしょうがないものだとは思うけれども。
 ユースホステルの会員でなくなってもう10年以上経つ。今はどうなっているのだろうか。

 以上のようなスタンプは、それと意識しないで集まってしまうものである。スタンプを押してもらうためにユースホステルに泊まるわけではない。だが、コレクターはだんだん病が高じる。そして、スタンプ目的であちこちに顔を出し蒐集を始める。そのひとつに「旅行貯金」というものがある。
 レィルウェイ・ライターの種村直樹氏の著作「きまぐれ郵便貯金の旅」等で有名だが、これは全国の郵便局を巡って少しづつ貯金をし、その郵便局のはんこを押してもらってコレクションするというもの。局によっては個性溢れるはんこを用意しているところもあり、旅の記念にはもってこいとも言える。しかも貯金も出来て一石二鳥か。
 しかし、これを日本中全局にわたってやろうと試みている人も多いのである。調べてはいないが、全国に貯金可能な郵便局は2万や3万はあるのではないか。民営化で簡易郵便局がなくなり業務委託となりかなり減ったと思われるが、それでも数多いはず。非常に壮大な趣味になってくる。しかも増減がある(市町村合併も影響した)ので永遠のテーマのようになってくる。しかもさらに難しいのは、平日でしかも4時までしか通常は貯金が出来ない。なかなか厳しいのである。
 うちではスタンプラリー好きの妻がこれを試みようとしたのだが必死で止めた。こんなものコンプリートは到底無理だろうし、やり始めたら家へ帰ってこなくなってしまう。だが珍しいところはやっておきたい、と言うので一応、日本の東西南北(珸瑶瑁郵便局、与那国郵便局、波照間郵便局、大岬郵便局)は済ませた。次の目標は全県制覇ということになるが、付き合うのも大変である。夏に長期で自動車旅行をしているときなどがチャンスだが、平日四時までという制限があるため、丁度金曜昼過ぎに鹿児島に居たときに「あ、明日土曜だ」と妻が言い出し、必死になって宮崎まで車を飛ばしてギリギリ四時前に県境の郵便局に滑り込んだこともあった。高速で移動中も「降りてっ! 貯金する」などと言い出す。全く何をやっているのか時々分からなくなる。

 この旅行貯金と同様のものに、「りそめぐ(つまり全国のりそな銀行への預金)」に代表される全国規模の金融機関の預金めぐりがある。また「住基ネット巡り」。住民基本台帳ネットワークが成立して、全国の市町村役場で自分の住民票を取ることが出来るためにあちこちで申請しコレクションするというもの。住民票用紙って各自治体で個性があるものらしい。何でもやる人はいるのである。旅行コレクターの道は実に多岐にわたる。機関や施設だけではない。全国のミスタードーナツの店名付きミスドカードを集めている人だって居る。可能性は無限にある。その中で最も過酷なのが「旅行献血」だろうか。
 献血をすると献血手帳に血液センターの印を押してもらえる。これを各地で集めるのが旅行献血。旅行貯金などより遥かに数は少ないものの、文字通り身を削ってやらないと集まらないものである。しかし献血は誰かの役には必ずたっており、ただの無益な趣味とは違うのがミソではあるのだが。しかしながら、これの最大の難点は、2週間に一度しか献血は出来ないというルールである。なのでまず一旅行に一回しか出来ない。貯金のように次々と増殖していくことが無理なのだ。でもやっている人は居る。ここまで来ると尊敬に値する。

 こんな旅行におけるスタンプ蒐集など奥が深すぎて完結するはずもない世界なのだが、実はひとつだけ「コンプリート」に近い完成度にまで高まったものがある。それは、「駅スタンプ」の世界である。この駅スタンプについては詳しい方も多く、例えばこちらのサイトなどはその素晴らしい蒐集実績に唸るが、最も古い歴史は戦前から始まったものもあるそうだ。全国で大々的に設置されたのはあの40年ほど前になる「ディスカバー・ジャパン」キャンペーンの時に全国に置かれたもので、その数1400に至るという。その後、「一枚のキップから」「いい日旅立ち」など国鉄のキャンペーン毎に新しくなり置き換えられる。かと言って古いものが完全に撤去されたかといえばそうとも限らず、実数はなかなか掌握できない。
 現在一応の指標となるものは、1980年に国鉄が設置した「わたしの旅スタンプ」である。専用のスタンプ帳が発行され、その「わたしの旅スタンプノート」には全国のスタンプ設置駅の一覧が載っていた。その数740駅。
 それを元にして記念スタンプを押す旅を、後に妻になる女性がやっていた。その事は以前に千葉県の旅に書いたことがある。しかしこれは、前述したように全てのスタンプを網羅しているわけではなく、その総実数というのは把握が出来ない。しかし、彼女がやりだしたときはそんな情報など探してもなく、その一覧に載っているスタンプを指標として蒐集していたようなのである。それだけでも700を超える数なので、とてもやり切れないと当時は思っていたようだ。ただ押すのが趣味の人なので、コツコツとあちこちで押し続けた。
 彼女がそれを始めたのは80年代末。もうキャンペーンが始まってからずいぶんと時間も経過していて、一覧に載っているスタンプも磨耗、盗難などで失われている場合もあり、せっかく足を運んだのに無い、と駅員さんに言われてしまったことも多かったらしいのだが、とにかく一覧を頼りに押し続けていた。
 そのうちに「これは完成できる」と思ったのだろう。彼女はそれだけを目的に旅行に出るようになった。何度も言うが病膏肓である。僕にも「協力してくれ」と言ってきた。以前書いた北海道旅行の際にも、彼女が僕の車に同乗した理由の半分ははスタンプを押すためにだったようだ。北海道など列車本数が少ないので車でないと追いつかないのである。それでも旅行中には達成できなくて、僕より休みが2日ほど早く終わるため先に帰らねばならなくなったとき「白老と長万部残っちゃったから押しといて頂戴」などと言ってスタンプ帳を僕に預ける始末である。完全に巻き込まれてしまった。
 結婚してからも、「ちょっと九州に旅行にいくわ」とか言って二週間ほど留守にする。コンタンはスタンプを押すためである。まあそれはかまわないのだけれども、スタンプだけじゃなくてちゃんと旅を楽しまなきゃダメだよ。さらに、四国へ車で行かない、と誘う。スタンプが引っかかっているのである。思えば90年代前半はスタンプに明け暮れたなと思う。そうして全国へ出かけた。
 苦労も多い。スタンプは盗難に遭うことが多いので、駅員さんが保管している場合が多い。頼んで出してきてもらう。だが、夜になって訪れるともう駅舎が閉まっていることもあった。また出直しである。山形の楯岡駅などは、よっぽど不法侵入しようかと思った程だ。しかし、浜頓別駅などは天北線廃止でもうスタンプも失われただろうと諦めていたら、バスターミナルに置いてあったりして。念のために訪れて良かった。
 いろんな挿話があり、これだけでHPを作れるのではないかと思う。そうして苦労し、大船渡線の陸中松川を最後にようやく完成に近い状態になった。失われたものはしょうがないが、少なくとも昭和の国鉄の時代に発行されたスタンプノートに記載されている駅には全て行った。もう完結と言っていいだろう。全国制覇だ。
 しかし、前述したように記載以外にもスタンプはあったりする。また発見するかもしれず、一応は永遠のテーマにもなっている。でも妻からは憑き物が落ちたようである。ホッと一息である。

 最近妻は「お遍路」に行こうと僕をいつも誘う。信心深さなど微塵もないくせに。しかし何故行きたがっているかはよく分かる。なるほどね。ありゃスタンプラリーに確かに似ている。四国八十八ヶ所や西国三十三ヶ所。参拝して、各札所のお寺の納経所でご朱印をいただく。88ヶ所でコンプリート出来るのだからそりゃ血が疼くでしょうよ(不信心な物言いお許し下さい)。しかしもう少し待ってくれ。今忙しいんだわ(汗)。

 次回に続く。

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2 コメント

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まいった。 (よぴち)
2008-07-05 23:51:16
これは、まいりました。
確かに、心理的にはすごく良く分かるし、私も、やり始めたらきっとコンプリートを目指してしまうでしょう。
でも、時間もお金もないな…。まず、子供が生れ学校に行くようになってからは、なにせ「学校」のカレンダーにすごく束縛された生活になりました。
加えて、娘が高校生になってからは、「部活」というものも重くのしかかってきて(中学時代は放送部で、部活に対する思い入れが全くなかった)、もはや土日もありません…。
話の本題からそれて申し訳ないのですが、ユースホステル、私は泊まったことがないのですが、昔あこがれましたね~。なんか、青春の塊みたいで。ノートとかあったりして。そういえば、昔は学生がよく行く喫茶店なんかにもノートがあったりしたなぁ。
スタンプ、一応全部見たけど、福井のはなかった。福井には、ユースホステルなかったのかな…。
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>よぴちさん (凛太郎)
2008-07-06 16:21:18
いやぁ面倒臭い話をみんな読んでいただいてありがとうございました。
もうね、阿呆としか言いようの無い話ですからねぇ(汗)。

我が家の場合、子供がいないのは確かに大きい。自由度はよぴちさんとは遥かに違いますからね。寂しいことも多いですけど、いいこともあるんです。え、こんなアホな話、果たしていいことなのか? (笑)。

ユースホステルのスタンプまでご覧になっていただけたようで。あれ、不鮮明ですしよくわかんないですよね(汗)。えーっと、福井県は、高校のときに美浜と東尋坊のYHに宿泊したのですが、そのスタンプは失ってしまいまして(涙)。その話は以前に都道府県旅の福井県編に書いたことがあります。それから、画像ですと実は一番最初のスタンプは越前岬YHのものなんです。でも、判別つかないですよね。すみません。
本当に、僕にとっては青春の塊でした。
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