夜明けの曳航

銀行総合職一期生、外交官配偶者等を経て大学の法学教員(ニューヨーク州弁護士でもある)に。古都の暮らしをエンジョイ中。

フランス担保法の改正

2007年06月10日 | profession
北大で比較法学会があった。

山野目先生、平野先生、片山先生というそうそうたる顔ぶれが発表されたフランス担保法改正についてのご発表が大変興味深かった。

なかでも、抵当権について、注目すべき改正があった。
抵当権設定時に充填条項(Clause de rechargement,この訳語は充当にすべきではないか、という意見が加賀山先生から出た。先生の売買予約完結権についての考察は講義でも参考にさせていただいていたのでご挨拶させていただいた。鎌田先生も訳語は再考すべきとのご意見だった)を設けておけば、元本について特定された上限額を限度に、別の債権者が設定者との合意と付記登記により、根抵当権の一部譲渡、分割と同じ効果を得ることができる、というもの。

鎌田先生がご指摘されたようにはじめは普通抵当だったのに、根抵当権の一部譲渡、分割譲渡のようなことができる点も画期的だ。

信用促進のための制度だということで、私も銀行員の経験から、「日本の抵当制度だと、根抵当権者は極度額に余裕がある場合、関係会社に一部譲渡するなどして、とにかく自分ががっちりつかんで離さない、フランスのこの制度だと、それを設定者が自由に新規融資に使えるのだから中小企業金融などに画期的な制度だが、強行法規によって無効となる優先条項に、抵当権者自身や債権者だけでなく、もっと広い範囲を含めるようにしないと実効性がないのではないか」という質問をさせていただいた。

今年82歳のゼミの恩師X先生は今回もいらしていて、後で「最近モンゴルにも手を出しているようですが、あまり手を広げすぎるのはどうでしょうか。さっきもすごく良い質問をしていたし大変センスはあるのだから、もっと狭く深くを心がけるようにしなさい」と叱咤された。

昨年京都での比較法学会でも「お世辞でなくあなたはいつまでも○○大学なんか(私がそう思っているわけではない。そういわれた言葉を忠実に再現しているだけだから、反応しないように)にいる人ではないのだからがんばりなさい」といわれたのだっけ。
こういういいにくいことをちゃんといってくださる恩師がいるのはありがたい。
私には研究者としての才能はあまりないと思うが、14年間の銀行員経験とか、4カ国で法学教育を受けたという研究者としては独特な経験から、自分なりの視点を探ってやっていくしかないと思っている。
(そういえば、ちょうど加藤廣『信長の棺』『秀吉の枷』(歴史観が180度変わる名著)を読んだばかりで、学会の後本能寺に行ったら、ちょうど信長の命日で信長祭りをやっていたのだった)

学会の後、北大近くの評判のカレースープ屋ピカンティで食事をしていたら、隣の北大生らしい学生のグループが「300人もいるからレポートなんか先生はちゃんとよんでないみたいだ。ひどい内容でも出しただけで優くれた」「そうだよね。そんなの読めるわけないよね」と話しているので、よっぽど「そんなことはない。先生によってはちゃんと読んでるよ。私は300人近い講義で毎週記述式の小テストをやって全部ちゃんと採点してたよ(ジェンダーと法のこと)」といおうかと思ったが、他大学の学生にそういうのは僭越なのでやめておいた。

この週末も別の学会があったのだが、レジュメにも書いてあることを質問したのに「そのことは調べていないので○○先生がご自分で調べてください」と逆切れされたのには心底びっくりした。(相手は今日初めて名前を知った全く面識のない人なので、個人的に恨みを買った覚えはない)

それと関連する論点を東大のN先生が後で質問したときは、何も答えられず固まっていた。
あまりにも失礼だと思ったが、後でN先生が「あの人は、あなたに限らず、全ての質問について、自分が調べたことしか答えない、という姿勢だったでしょう。あまり気にすることはありません」といってくれたので少し気持ちが収まったのだが、たとえ、調べていないことに自分なりの理由があった(N先生も関連する質問をしたように、私の質問はやはり調べておくべき問題だったと思うが)としても、質問によって新たな問題点に気づくという契機もあるはずだ。研究者はそういう可能性に対して常に謙虚でなければならないのではないだろうか。

また、その論点が調べる必要ないものだと思うなら、質問する人によって対応を変えるのもおかしい。質問した人がえらい人かどうかでなく質問内容によって態度を決めるべきであり、その点も人として信用できない。

大きな法改正を経て注目されている(立法者解説の筆頭に出てくる判事はハーバードの同級生である)分野だけに、残念だった。

それにしても調べていないことを聞かれて「あなたが自分で調べてください」って答えていいなら便利だなあ、とくに研究会などで嫌がらせ以外のなにものでもない質問をされたときなんかに。
でも研究者の末席を汚すものとして最低限の良心とプライドをもっているから、そんな禁じ手は絶対使わないつもりだ(というかそんなの当たり前じゃないか)。

今月末の学会発表もがんばろう。
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