夜明けの曳航

銀行総合職一期生、外交官配偶者等を経て大学の法学教員(ニューヨーク州弁護士でもある)に。古都の暮らしをエンジョイ中。

今年の新入生ゼミナール その2

2004年10月12日 | profession
七、 DVD教材『いとこのヴィニー』
1. 概要
原題My Cousin Vinny 1992年米国映画、Jonathan Lynn監督
コンビニ強盗の冤罪で逮捕された若者二人が、弁護士になって間もないいとこのヴィニーの失敗だらけの弁護により、何とか検察官による起訴の取消にいたるまでを、さまざまなエピソードや伏線をとりまぜながらユーモラスに描いているが、前記六、2.の米国刑事裁判手続の流れを知る上で格好の教材である。
2. 映画を見ながらの解説
米国法を学習する上で良い材料となるシーンがふんだんにあるため、その都度映像を止めて解説(以下詳述)した。
(1) NYの若者二人(ビル(『ベスト・キッド』のラルフ・マッチオが演じている)とスタン)がUCLAに入学するために、ドライブを兼ねて車で南部を通ってロスアンジェルスに移動する途中、アラバマ州のコンビニで食料品の買物をしたが、ビルが両手が塞がっているためポケットに入れたツナ缶の清算を忘れていたことを、車でコンビニを離れてすぐに気づいた。伏線として「アラバマ州の死刑執行年齢は10歳から」という会話が出てくる。
→ここで、米国の連邦制度について説明。連邦法と州法のカバーする範囲について解説し、刑法についても、州ごとに全く違い、死刑廃止した州もあるが、アラバマは死刑制度を残しており、しかも厳罰主義であるようだ。
(2) 後ろから追ってくるパトカーに止められ、二人は逮捕されてしまい、Line upが行われる。
→Line upについて説明。
(3) 取り調べられるが、黙秘権を主張するか保安官に尋ねられる。
→ミランダ・ルールについて解説
(4) 二人はツナ缶の万引のことと誤解し、「罪を認め協力します」といってしまう。保安官に”You shot the clerk”といわれて初めて、ビルは冤罪事件に巻き込まれたことに気づく。
→ビルが驚いて”I shot the clerk?”と何度も保安官に尋ねる場面が、肯定文がそのまま疑問文になっているのに、字面からは自白のように見えるのでこれを自白として扱われてしまうことを説明。
(5) ビルは電話でNYの母に助けを求め、いとこのヴィニーが弁護士になったことを聞き、弁護を依頼することにする。
→この時の電話の会話で「弁護士費用は50ドルから10万ドル」という科白があり、弁護士の腕次第で報酬に大きな差があることを説明。また、スタンの「南部の連中はKKKや近親相姦ばかり」という科白について、KKKの意味、および、この映画の副テーマである”New Yorker Meets Southern People”の意義、地域性の格差について説明。
(6) ヴィニー・ガンビーニ(ジョー・ペシ)が婚約者のリサとともに登場。ビルとスタンが収監された州刑務所の周辺にはアムネスティの活動家たちが「ノートンを救え」というデモを行っている。
→アムネスティについて解説
(7) ヴィニーが州刑務所に二人を訪ねてくる。司法試験に合格するまで6年かかり、弁護士にはなったばかり、法廷に立つのも初めてという。
→米国の司法試験制度について説明
(8) ヴィニーが州裁判所の事件担当裁判長チェンバレン・ハラーにinterviewを受けに行く。そこで、NY州の経験豊富な弁護士であると嘘をついてしまう。この嘘がばれたら、弁護活動自体ができなくなるので、ばれそうになる度にごまかし続けることになる。ハラー判事は不審に思いながらもアラバマ州刑事訴訟法の本を貸してくれる。
→Pro hac vice(他州の弁護士が法廷で弁護活動をするための要件・手続)について解説。州によって違い、たとえばハワイではハワイ州の弁護士と共同でないと他州の弁護士は法廷活動ができない(名前を借りるだけのケースが事実上多いようだが)。アラバマ州は、裁判長がその能力・経験を認めれば許されるようである。
(9) リサとモーテルに泊まったヴィニーは、朝5時半に製材所の汽笛で起こされ、朝食をとるために入ったレストランで南部特有の食べ物「グリッツ」を初めて食べる。
→大きな伏線になっていることに注意を促す。
(10) ヴィニーは法廷に行くが、座る場所さえ知らず、また、罪状認否では単に有罪か無罪かをいえばいいことも知らずにくどくどと弁論をしたことや革ジャンで来たことについて、ハラー判事の怒りを買い、法廷侮辱罪で収監されてしまう。
→日本にはない法廷侮辱罪について解説。また、手続の最後に裁判長が保釈金について被告人については20万ドル、ヴィニーについては200ドルと宣言したことについて、日本では無罪を主張すると保釈金を積んでも保釈されないことが多いが、米国では無罪の推定が厳格に守られていて保釈が広く認められること、ハワイ州の裁判所でも保釈中で昼食休憩に弁護人と出かける被告人が多かったことに言及。
(11)リサが保釈金を払ったおかげで保釈されたヴィニーに、リサは「お金が足りなくなってきたから稼ごうと思って昨日プールバーに行ってお金を騙し取られた」という。取り返そうとそのプールバーに乗り込む二人。騙した男JTに200ドルを返せと詰め寄り、JTが「痛い目にあいたいか?」というと、ヴィニーは「君のCounter Offerはそれか?rejectする。私から改めてCounter Offerする、君を殴れたら200ドルくれるか?」と取引をまとめてしまう。その場で喧嘩しようとするJTにヴィニーは金を用意してからだという。プールバーにいたむち打ち症の男にヴィニーは「追突されたのか」と聞き「いや転んだんだ」と答えると、さらに「どこで転んだんだ」「自宅だ」「くそ!」という会話が展開される。
→米国契約法上のCounter Offerの概念を説明。また、むち打ち症の男との会話は、事件性があれば、クライアントになると思ってしつこく聞いていたこと、米国弁護士の蔑称ambulance chaser(救急車の後を追いかけてまで客をつかまえようとする)を説明。
(12)水道の蛇口のパッキングが緩んでいるのかリサの締め方が甘いのかをめぐって証人尋問のようなやりとりをする。
→これも伏線だと指摘。
(13)Pre-trial(予審)
3人の検察側証人の証言と、ビルが”I shot the clerk.”と自白したという保安官の証言。ヴィニーは反対尋問もしないので、起訴相当として、正式起訴が決定してしまい、さらに、また革ジャンで出廷したため法廷侮辱罪でぶち込まれる。保釈されるが今度はモーテルの隣の豚舎の騒音で早朝起こされ、モーテルを変わる事にする。
→Pre-Trial制度や主尋問、反対尋問の制度について解説。
(14)スタンはヴィニーに不信感を抱き、public defenderであるジョン・ギボンズを雇うことにするが、ビルは、ヴィニーの「レンガを積み上げて家を建てるように、検事がいかにもっともらしく証拠を積み上げても、それがレンガでなくトランプのように薄っぺらい紙でできた手品みたいなものだと立証してやる。お前は無罪なんだから。」という言葉に勇気づけられ信じることにする。ノートンの死刑執行でびびるスタンに、ビルは「ヴィニーは有名な手品師のトリックを片っ端から見破ったことがあるんだ。ガンビーニの血筋なんだ」という。
→米国の公選弁護制度に2種類あり、州政府の運営するpublic defenders officeに所属するpublic defenderと、その都度裁判所が任命する普通の弁護士(Court Appoint)があり、その2種類で刑事事件の9割を弁護していることを説明。
真実は一つであるという日本人に対して、法廷での闘争を手品にたとえることが、真実は見る角度によって違うという米国人らしい考え方を象徴している。
(15)ビルの話を裏付けるように、JTに呼び出されたヴィニーが見せ金だと看破してまた取引がお預けになる。移った先のモーテルで今度は朝5時に列車の轟音で起こされる。トロッター検事と話すヴィニー。検事が「弁護士時代に有罪の被告人を何人も無罪にして、罪人は裁かれるべきだと思い検事に転向した」と語り、ヴィニーは「交通違反で裁判所に行った時、警察のミスを認めさせたら、担当のマロイ判事が『君は弁護士に向いている』といったのが弁護士になるきっかけだ。ロースクールに通っている時も何かと力になってくれた」と話す。
→検事の話から、日本にはない米国の法曹一元制度を解説。ヴィニーの話から、日本にある刑事罰・行政罰の区別は米国法になく、日本ならその場で違反切符を切られるような交通違反も裁判所で手続することになると説明。
(16)ヴィニーは検察側の情報を得るためにトロッターを狩に誘い、情報を開示してくれと頼む。相手を丸め込んで資料を入手したと思うヴィニーに、刑事訴訟法の本を読んだリサが「法律上、検事は情報を開示する義務があり、しないと審理無効になるのよ、ロースクールで習わなかったの?」と指摘する。ヴィニーは3名の証人を訪ね、いろいろ質問する。翌朝また列車の轟音で5時に起こされる。
→trialを効率的に行うために、開示制度が徹底されていること、日本ではこうした制度がないことが裁判員導入に際して不安であること(その後裁判員法案と同時に刑事訴訟法が開示制度創設のため改正されたが)を説明。
(17)Jury Selection陪審選定。トロッターが陪審員候補者に質問し、「強盗犯人は電気椅子にかけるべきです」という婦人を陪審員として選ぶシーン。
→陪審員の選任手続(有名事件ほどjury poolが大きいこと、事前にアンケートで絞ることもあること、忌避の制度等)について解説。どんな人物を陪審にするかで評決は決まるので、プロファイリング等を駆使する陪審コンサルタントの重要性(OJシンプソン事件でも活躍)についても触れる。
(18)ヴィニーはハラー判事に呼び出され、「NYに問い合わせたが、ヴィニー・ガンビーニの法廷活動の記録はない」と詰め寄る。ヴィニーは、「俳優時代の芸名:ジェリー・ガロを弁護士活動で使っている」と苦し紛れに説明する。後でリサが「ジェリー・ガロは大物弁護士だけど先週死んだわよ」と指摘し青くなる。トロッターが貸してくれた猟小屋で寝ていた二人はふくろうの声で起こされる。車で寝ようとすると落雷が轟く。翌朝、大雨でぬかるんだ地面にタイヤがめり込み、また、ヴィニーの一張羅の背広が泥まみれになってしまう。JTを殴って200ドル取り返すシーン。洋服屋もクリーニング屋も休みで、仕方なく古着屋で調達した手品師のような燕尾服でtrialに出廷しまた裁判長から注意を受ける。トロッターは第一級謀殺罪(first degree murder)と幇助罪に当たると主張。
→米国の刑法上、殺人にたくさんの類型があり、第一級謀殺、第二級謀殺、第一級殺人、第二級殺人等、それぞれもさらに多くの類型に分かれている。このように構成要件が細分化されていることは陪審制度において必須の条件だが、そうでない日本で裁判員制度は機能するのか疑問。ちなみに強盗殺人は第一級謀殺として扱う州が多い。
(19)3名の証人に尋問するトロッター。ギボンズ弁護士は極度のあがり症でまともな反対尋問はできないことが判明。ヴィニーは、「グリッツを作り始めた時コンビニに入っていった彼らを見たが、5分後グリッツを食べようとしたら銃声がした。だから彼らに間違いない」と証言した男性証人に、「南部の誇り、グリッツは最低15分は煮ないと本場の味は出せないでしょう?」((9)参照)と、矛盾を突き、陪審も大きくうなずく。窓から犯行を見たという男性証人には、窓と現場の間にたくさんの茂みがあったことを指摘する。さらに、ライリーさんという老女の証人については、その場で視力を試して眼鏡の度が合っておらず、よく見えていなかったことを立証する。スタンはギボンズを解雇してヴィニーに戻る。
→次の教材『12人の怒れる男』との関係で重要なシーンだと指摘。
(20)三度法廷侮辱罪でぶちこまれヴィニー、しかし、安眠のため刑務所にとどまることにする。第2回のtrialでトロッターはexpert witnessとして、FBI自動車分析班のウィルバー氏を喚問する。ヴィニーは「不意打ちの証人、とくに反対尋問の準備に時間を要するexpert witnessの予告なしの喚問は違法だ」と裁判長に異議を申し立てるが、却下されてしまう。
→expert witnessの要件等について、さらに異議申し立てについて解説。
(21)ウィルバー氏は、犯人が逃走した際のタイヤ跡が、ビルたちの車63年型スカイラークと同型のものであると証言。ファックスを受け取ってランチ休憩を宣言した裁判長はヴィニーに「ジェリー・ガロは死亡している」と伝える。苦し紛れにヴィニーは「裁判長の聞き違えです。私はジェリー・カロです」といい、その場でNYに問い合わせた判事は「15時にわかるそうだ、それまでに裁判が終わらないかぎりおしまいだ」という。裁判でも経歴詐称でも追い詰められ、絶体絶命のヴィニーはいらいらしてリサと喧嘩してしまう。午後の法廷でヴィニーはウィルバー氏にろくな反対尋問ができない。しかし、リサの撮った写真を見るうちにあることに気づき、保安官に調査を依頼するとともに、リサをexpert witnessとして召喚する。喧嘩中のリサは初め非協力的で、いやいや証人席に座る。ヴィニーは「彼女は私の婚約者ですが敵対的証人です」という。
→通常自分の証人には誘導尋問ができないが、自分の証人でも敵対的証人ならできる、というルールを説明。
(22)リサの専門能力をテストしようとするトロッターの質問に的確に回答し、expert witnessとして承認されるリサ。リサは失業中の美容師だが、家族は全員自動車整備工で、自動車のメカのことには非情に詳しい。説得力ある説明で犯人のタイヤ跡は64年型テンペストだと証言した。そのやり取りは(12)とそっくり。ウィルバーもその正確性を認め、先ほどの証言を撤回した。保安官が戻ってきて、「64年型テンペストの盗難容疑でジョージア州で2人の若者が逮捕され、車からマグナム357が出てきた」と証言。トロッターも起訴を取り消し、大喜びする当事者。招待がばれる前に逃げたいヴィニーをみんなが離そうとしない。とうとうハラー判事につかまったヴィニーはもはやこれまでと覚悟するが、なぜか判事は握手を求めてきた。NYに戻る車の中で、リサは喧嘩した直後にマロイ判事に頼んで口裏を合わせてもらったと告げる。
3.あらすじと感想文の課題を出す。
注意点:刑事裁判傍聴で見た日本の刑事裁判の様子との対比の視点を入れること
感想文には、刑事裁判の傍聴をした経験と比較して、「裁判が検察、弁護人のゲームのようになっていると感じた。…日本の裁判は専門家だけで行われているので、一般の人には裁判を傍聴してもどのようなことが話されているのかわかりにくい。アメリカの裁判では陪審という一般の人がいるので、早口で難しい言葉を並べるということもないので、話がどうなっているのかわかりやすい。これは、重大な事件になればなるほど、わかりやすい裁判というのは特に被害者(遺族)にとってよいものだと思う。…日本の裁判制度もアメリカの裁判制度もそれぞれ一長一短あり、裁判員制度の法案は成立してしまったが、制度が始まるまでにはまだ時間があるので、その間に現在の日本の制度とアメリカ型の制度のそれぞれの良い面を組み合わせたれるようなやり方を考えていくべきである。私は、特に実際の現場が一般の人にわかりやすいように裁判を進める工夫と、裁判の迅速化のために検察、弁護士がそれぞれ情報をきちんと審理できるように完全に準備した上で、それぞれが真実を明らかにするよう務めることが大切だと考える。」というものがあった。
また、「ミランダ・ルールは日本にも必要な制度だと思った。一般的に人は一度自白したのなら、あとで証言を覆そうとしても、その人が犯人であると思い込んでしまう可能性が高く、自白を偏重しがちではないか。…私が傍聴に行った裁判はたまたま第1回で判決まで出たが、多くの裁判は長い時間がかかっているようだ。この映画の中では、裁判は連続して迅速に行われていた。弁護人と検察官は情報を開示し、裁判がスムーズに行われるように、準備がなされていた。早ければ良いという問題ではないが、やはり、時間が風化してしまい、証言や記憶が曖昧になる前に判決が出ることが望ましいと思う」というものもあった。
八、 DVD教材『12人の怒れる男』
「いとこのヴィニー」で刑事裁判の流れを学習したので、今度は陪審制度そのものについて学習する。
1. 概要
陪審制度を語る上で必ず出てくる古典的な名作であるが、1957年のオリジナル(主演ヘンリー・フォンダ)が、1997年にリメイク(主演ジャック・レモン)されているが、以下のような理由でリメイク版を使用した。
① オリジナルは全員白人男性だがリメイク版はアフリカ系4名が入っている。
② 男性だけの不自然さを解消するように裁判長は女性になっている。
③ より現代に近い設定になっており、若い学生にとっつきやすい。たとえば、7号陪審員はヤンキース・ファンで野球の試合に間に合うように早く帰りたがっているといった設定がある。
④ 実験シーン等、ひとつひとつのエピソードがより丁寧に描かれている。
⑤ アフリカ系の10号陪審員が、ヒスパニックに対して激しい憎悪を抱いており、そのことが強硬に有罪を主張させたという設定が、ヒスパニックがアフリカ系を上回り、大統領選挙選でもブッシュとケリーの両陣営がヒスパニックの票のために迎合政策を採ろうとしているような現代アメリカの状況を顕著に表している(日経2004年4月25日付記事「経済力増すメキシコ不法移民」を教材として説明に使用)
⑥ モノクロのオリジナルより見やすい。
ただし、オリジナルにしかない、審理が終わって、jury instructionの前に、2人の補欠陪審員が出て行くシーンだけは見せ、多くの州で、陪審員の病気等に備えて初めから若干の補欠をとっておくこと、を、ハワイ州の裁判所の陪審席が14個あることを写真で示したりして解説した。
3. 学習内容
(1)ストーリーは余りにも有名なのでここでは省略するが、陪審員の構成は以下の通りである。
号数 無罪にした順番 人種等 職業 その他の情報
1 9 アフリカ系 高校フットボールのコーチ 陪審長。温厚。
2 6 アフリカ系 銀行員 年配。孫がおたふく風邪。
3 12 白人 メッセンジャー会社経営 家出した息子を被告人に投影し最後まで有罪にこだわる。
4 11 白人 株式ブローカー 終始紳士的・論理的に議論する
5 3 アフリカ系 看護師 スラム出身。ナイフの持ち方について需要証言。
6 6 白人 ペンキ職人 老人に優しい。
7 7 白人 セールスマン 野球試合のために早く帰りたい
8 1 白人 建築士 名はDavis孤軍奮闘で無罪を主張
9 2 白人 杖をついた老人。眼鏡の跡のことに気づく。
10 10 アフリカ系 車の修理関係 モスリム。ヒスパニックに激しい憎悪を持ち人種的偏見を周りから非難される。
11 4 白人 時計職人 東欧移民。なぜ犯行現場に戻ってきたかについての疑問を提出。
12 9 白人 広告代理店 優柔不断で無罪に変えた後もまた有罪に変えたりする。

(2)証拠品のナイフを見ようという提案が出されたところでいったん止め、以下のことを書かせる。
①自分が裁判員になったとしたら、映画の陪審1号から12号までの誰と最も近い言動をするか?かなりばらけたが、8号が3名と最も多かった。
②陪審1号から12号まで(8号以外)について、有罪から無罪に意見を変える順番を予想しなさい。一人も合っていなかった。最後が3号であることは何人かが当たっていた。
③(オプション)ゼミの中に、映画の陪審何号かと同じ言動をしそうな人がいたら、氏名と何号かを書きなさい。
ゼミの行事等で仲が良さそうな子を3号に近い、と指摘する等、本当の人間関係が垣間見えたりした。
(3) jury instructionでの「有罪であるということに合理的な疑いがあれば無罪にしなければならない」という科白について、「無罪の推定」ルールを解説。
(4) NY州の刑法(18歳なら第一級謀殺の対象になること、10以上の類型に分かれた殺人罪)*科白から舞台はNYと推定されるので。
(5) この事件の弁護人がCourt Appointの公選弁護人であることを指摘。
(6) 見終わった後、以下の点について議論させた。
① なぜ、怒れる男なのか、考えてみよう。ちなみにオリジナルでは白人男性ばかりだった。
→1957年当時は、米国でも男女差別があって、有色人種や女性は陪審員にあまり選ばれなかったのではないか。リメイク版では、有色人種を入れるだけでなく、裁判長を女性にしてその辺の違和感を軽減する工夫をしている。ちなみに現在はperemptory challengeを特定の人種や性別を排除するために使ったら、審理無効になる。
② 10号陪審員はなぜ被告人有罪にこだわったのか→1.参照
③ 3号陪審員はなぜ被告人有罪にこだわったのか?→1.参照
④ 8号陪審員が評議の場で行ったことを、『いとこのヴィニー』の法廷で行われたことと比べてみると?
証人の視力を疑って実験してみるというのは、『いとこのヴィニー』では弁護人がやっており、本来弁護人がやるべきことである。
⑤ この事件の弁護人について考えてみよう。
→やるべきことをやらないのは、やはり報酬の少ない公選弁護人制度の弊害なのでは。
⑥ 見終わって改めて自分と似た言動をとる陪審員は誰か考えてみよう。
(7) 見終わった後感想を書かせた。
感想の中には、「無罪に意見を変える人がいう『合理的な疑いがあるからだ』というフレーズが気に入りました」「3号や10号のように私情で判断しようとする人は必ずいるだろう。でも、陪審員を選定するときの質問だけで、そういう人かどうか、また、事件が何らかの私情を刺激するようなものかどうかは判定できず、危険なのではないか」「人間の能力や感情、信条で被告人の人生が大きく変わってしまう危険性がある。これらは人間が人間に対して行う裁判である以上、完全に防ぐことはまず不可能であるが、裁判官のみの裁判と裁判員という素人がかかわる裁判を比較すればもちろん後者だろう。こうした危険をどのように小さくするかは非常に大きな問題だ。まずできることは、なぜ裁判員制度が考えられ、実施されることとなったのかについて国民に理解されるモアでしっかりと説明を行うことである。5年後に実施と決まったからといって、あせって理解が得られないまま始まってしまったら大変なことになる。」
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