夜明けの曳航

銀行総合職一期生、外交官配偶者等を経て大学の法学教員(ニューヨーク州弁護士でもある)に。古都の暮らしをエンジョイ中。

国際民商事法研修

2007年03月18日 | profession
1月から2月に計3週間ほど東南アジアに出張(ちょうどベトナムが正式にWTOに加盟した日にホーチミンにいあわせてラッキーだった)をし、その翌日から2日間、大阪で法務省法務総合研究所の主催する国際民商事法研修で講師を務めさせていただいた。

同研修は、ベトナム、カンボジア、ミャンマー、ラオスから3名ずつ選ばれた研修生に約一ヶ月にわたって研修を行うというものであり、私は、土地法の講義とワークショップのコーディネート、ファイナンスの講義を依頼されていた。
外国の方ばかりかと思ったら、日本人の判事、検事、弁護士、企業法務の方もいらしたが、日本人の法律家の前で英語で法律の講義をするというのはどうも気恥ずかしいものである。

12名の研修生はみな優秀で、活発な議論が行われたし、過半数の7名が女性であり、女性の方が積極的に発言していたのがとても頼もしかった。

私は文科三類から法学部に進学し、3年生から法律を勉強し始めたのだが、はじめは刑法や憲法の勉強に正義感を刺激された。
しかし、米倉明先生のゼミに入り、特別養子制度の制定などに尽力されている真摯な姿を見て、ごく普通の人の日常生活に最も関係ある民事法こそ、真に社会正義を実現することに近い法分野なのではないかと思うようになった。

紆余曲折を経て研究者になることができたが、この初心をどのように実現させたらいいかわからなかったが、最近その一端となるテーマを見つけることができた。
それが、不動産登記制度の比較研究である。
元々、数年前から米国や英国に調査旅行に行き、ハワイ州やマサチューセッツ州で採用されているtorrensという特異な登記制度(オーストラリアで発祥)を調べていた。
日本の制度と、米国の殆どの州で採用されている簡単な登記制度(そのため、title insuranceが不可欠)とtorrens制度と、どの制度が、取引の安全、効率、納税者のメリット等を総合して最もいいのか、ということに関心をもったからだ。

が、最近、カンボジアでアジア開銀や世銀に融資の条件として「押し付けられた」不動産登記制度が彼らの説明によるとtorrensであり(これらの機関で中心になっているオーストラリア人弁護士のマーケット獲得のためという説もある)、それが、日本人が法制度整備支援で協力して制定した民法と適合しないという問題があることを知るに至った。
法制度整備支援を担った女性の弁護士さんにもお会いして、その献身的な努力(プノンペンに赴任して1年以上アンコールワットに行く暇さえないほど大変な努力をされたという)に感動した。
ここで、自分の英米法の研究が、法制度整備支援を援護射撃できる可能性があることに気づき、大いに発奮したのである。

昨年京都の比較法学会でお目にかかった、やはりゼミでお世話になったX先生にこの話をしたところ、「登記制度というのが担保権者の都合でできる制度だということは既に我妻先生が指摘されていたことです。大変よいテーマです。大いにおやりなさい」と励まされた(X先生は、80歳のご高齢なのに、学会やシンポジウムで必ずといっていいほどお目にかかる。本当に頭が下がる)。
無論、私の能力はたかがしれているが、当面このテーマを自分なりに追究していこうと思う。

このブログにも書いたが、尊敬するアンコールワット研究の第一人者である上智大学の石澤良昭学長(猪口さんは学長選挙に敗れ、生涯初めての挫折に傷ついて政治家に転向したのではないかと私は睨んでいる)と、やり方こそ違え、同じ志の仕事ができるのも非常にうれしい。
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