origenesの日記

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Seamus HeaneyのStation Islandについて

2008-01-20 17:46:03 | Weblog
Seamus Heaneyの代表的長編Station Island(1984)を部分的に読む。
この詩はドネガル州のロッホ・デルグ(=ステーション・アイランド)を舞台とした連作である。ロッホ・デルグは、かつてアイルランドにカトリックを伝えた聖人、聖パトリックがこの島で飢餓に耐えながら3日間祈りを続けたという伝説から、「聖パトリックの煉獄」と呼ばれている。この場所は昔からヨーロッパの観光名所であり、ダンテの「煉獄編」はステイション・アイランドの伝説から影響を受けたという説もある。詩全体は、ダンテの『神曲』のように3部にわかれている。「地下鉄」「ステイション・アイランド」「生き返ったスウィーニー」という3部であるが、それぞれが地獄・煉獄・天国が意識されているようだ。語り手である詩人シェイマス・ヒーニーはその3箇所を旅していく(尚、スウィーニーとは初期アイルランド・カトリックの修道士で、自然詩を読んでいた人々のことを言う)。この長編詩では、ダンテの他に、十字架の聖ヨハネの「霊魂の暗夜」、旧約聖書のソロモンの雅歌、ジェイムズ・ジョイスの『フィネガンズ・ウェイク』など様々な先行テキストが引用されている。
長編詩の中盤2-12において、ジェイムズ・ジョイスが語り手ヒーニーの目の前に登場する。この箇所は『ステイション・アイランド』でも有名な箇所であり、Norton Anthologyでも引用されている。ジョイスは『神曲』のヴェルギリウスのように、詩人を導く。
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"Your obligation / is not discharged by any common rite. / What you must do must be done on your own."
(2826)
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第2部の序盤では北アイルランドデリー州という政治的紛争の場に生まれたヒーニーが、それにも関らず「私には怒る役を担うつもりはない」と政治的態度以上に農村の細々とした風景を自分の文学的活動において重要なものとして見なしたということが述べられているが、ここでのジョイスの声もヒーニーに「なすべきことをなせ」と語りかけ、アイルランド人が英語で書くということに関しても「英語はもう我々に属しているんだ」と堂々と言い切る。「君は死んだ炎を引っ掻き回しているんだよ」("You are raking at dead fires"(2827))というジョイスの台詞は、語り手の詩人がアイルランド人というアイデンティティに未だ拘泥することをばかばかしいと見なしているかのようだ。詩人ヒーニーはイェイツのように"To Ireland in the Coming Times"と詩を書くのではなく、ジョイスのように自分個人のために詩を書く。

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