origenesの日記

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薮内清『中国古代の科学』(講談社学術文庫)

2008-07-02 19:20:30 | Weblog
ニーダム・テーゼというものがある。イギリスの歴史家ジョゼフ・ニーダムによるもので、コペルニクスなどの科学革命以前は、中国の方がヨーロッパより科学的に進んでいたというテーゼである。タオイストであったニーダムの中国贔屓を差し引いても興味深い論だとは思う。
著者は京都大学の科学史家であり、本書で古代・中世の中国の科学について叙述している。このニーダム・テーゼに沿いつつも、過度に中国の科学を賞賛することなく、ヨーロッパとの比較の中で分析している。
興味深かったのが、春秋時代の文化をヨーロッパの古代ギリシア文化に例えている点である。孔子、老子、荘子、墨子を始めとする諸子百家が活躍した春秋戦国時代は中国でも稀に見る時代であり、それ以降の中国文化に多大な影響を及ぼすこととなった。そして中国文化としては比較的珍しいことながら、この文化の担い手たちは外域の文化を重んじ、それを巧みに輸入していたという。長い歴史の中、漢民族はその「中華意識」から排他的になることが多かったが、この時期は例外的であったという。孔子の時代がギリシア文化ならば、さしずめ漢あたりが古代ローマ文化になろうか。
ほかに「蓋天説」と「渾天説」の対立が興味深かった。前者が天が静止しているという地動説的な思想であり、後者が天は動いているという天動説的な思想であるという。最もこの時期、世界とは球面上のものだと考えられていたらしく、渾天説をもってコペルニクス・ガリレオの先駆とするのは多少無理があるという。