origenesの日記

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佐藤道信『「日本美術」誕生 近代日本の「ことば」と戦略』(講談社選書メチエ)

2008-05-19 21:05:19 | Weblog
「日本美術」という概念そのものが近代的なものである。「美術」はfine artsの訳語だが江戸時代にはなかったものであるし、「西洋美術」と対置される「日本美術」なるものも近代的な概念である。そして「日本美術」に対する研究や「日本美術」家たちの活躍はナショナリズムと強く結びついてきた。
「日本美術」を考える上で外せないのが、初期の東京美術学校で美術史教授を務めたフェノロサである。彼は歴史を遡って「日本美術」観を確立し、苅野芳崖や橋本雅邦といった実作家にも影響を与えた。フェノロサの同僚でもあった岡倉天心も「日本美術」概念の確立に貢献した人物である。「アジアは一つ」として東洋美術の中の日本美術の発展を目指した岡倉の思想は、後にナショナリストにも影響を与えることとなる。
岡倉は東京美術学校を内部闘争で退官した後、横山大観・下村観山・菱田春草のような人物とともに民営の日本美術院を作り出した。