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1月の課題本 『源氏物語 九つの変奏』(江國香織 他 著)

2013-11-30 23:26:04 | ・例会レポ

『源氏物語 九つの変奏』
(江國香織、角田光代、金原ひとみ、
 桐野夏生、小池昌代、島田雅彦、
 日和聡子、町田康、松浦理英子)

新潮文庫 2011年

時を超えて読み継がれ、日本人の美意識に深く浸透した『源氏物語』。紫式部が綴って以来千年を経た「源氏物語千年紀」に際し、当代の人気作家九人が鍾愛の章を現代語に訳す。谷崎潤一郎、円地文子らの現代語訳により、幾たびも命を吹き込まれてきた永遠の古典。その新たな魅力を、九人九様の斬新な解釈と流麗な文体で捉えたアンソロジー。『ナイン・ストーリーズ・オブ・ゲンジ』改題。 

=例会レポート=

2014年最初の例会は、見学者含めて男性3名・女性11名に講師の菊池先生を加えて15名が集まりました。課題本は現代日本の作家9人が源氏物語の中の一帖を翻案して書いた短編9編のアンソロジーです。では以下、例会レポートです。

【源氏物語について】
・今回の課題本の原典となる源氏物語ですが、あらすじは知っているものの、実はちゃんと読んだことはないという方も半数近くいました。その一方、やっぱり古典好き・源氏物語好きで深く読んでいらっしゃる方もいました。河合隼雄「紫マンダラ」を挙げて、源氏を狂言廻しとして色々な女性を描いているのが面白いという方も。世界観、自然描写の美しさにも魅力があるようです。また、今回課題本を読んでみて、面白かった、源氏物語自体も好き、宇治十帖もつまらない話なはずなのに面白い、これなら50数帖あっても読むという方もいらっしゃいました。

・一方、光源氏というキャラクター自体に厳しい目を向ける方もいましたし、正直何が面白いのか、どこを楽しめばよいのか分からないという方もいました。

・また源氏物語を読むには適齢期があるのでは?という意見も。その上で、自分は光源氏の魅力が分かるにはまだまだで彼には腹が立つそうです。

・さらに源氏物語で好きなキャラを上げると若紫という方も。自分は藤壺の代わりではないかと思い悩み、明石の姫君には嫉妬心も抱き、女三の宮が制裁となったときには自分の出自で悩みもする、けれども女性の生き方として幸せとも考える若紫に、「頑張れ!」と。尼になる位しか最終的に女性の生きる道がない時代に、その中での駆け引きが作品にも出ているということでした。

【課題本の感想】
<総論>
推薦者の予想に反して厳しい意見が多めでした。具体的には下記のような感じです。

・「九つの変奏」と言うがあまりバリエーションはなく、タイトルはハードカバー出版時の「ナイン・ストーリーズ・オブ・ゲンジ」の方が良かった。

・「全体として、夏休みの宿題として源氏について書かされた感じ」という意見を出された参加者がいて、結構多くの人が納得していました。その上で、ヤンキー入っている人はやっぱり自分のことしか書かないし、真面目な人は現代語訳風に書き、受け狙いに走る不真面目な男子もいる、といった感じ。さらに、この見解を受けて、では自分は「ちゃんとやらない男子に怒る学級委員」という立場で読んだとおっしゃる方もいました。

・この本のターゲットがどこにあるのか?が分からなかった。

・これは嫌。源氏物語を壊しに行っている感じ。源氏物語の世界観や自然描写といった魅力がこの本にはなかった。

・最後の一つ二つは面白いと思ったが、それまではあまり印象に残らない。源氏物語と別物だと思えば楽しく読めたが。

・単なる現代語訳という感じでがっかりした。源氏物語を題材にしたものなら、もっと面白いものが沢山ある。なんとかならなかったのか。

一方、以下のように多少なりとも好意的な意見もありました。
・(これが書かれた)2008年ならではの要素がないとつまら
ないと思ったが、「浮舟」「柏木」「若紫」など一部にはそれを感じた。

・面白くなかったわけではなくて、それぞれの人のそれぞれの文章があると感じて、そこは面白い。

<各論>
各作品についての意見としては以下のような感じです。「末摘花」の触れる方がダントツで多かったです。続いて「浮舟」「若紫」あたり。

☆「末摘花」(町田康)を好意的に読まれた方が多かったです。今の言葉で書かれているが源氏の心情を良く描いている。芥川龍之介「鼻」を連想した。現代的ではないが恋愛の滑稽さが良く描かれている。ぶっちゃけてる印象。また、末摘花の和歌「唐衣君が心のつらければ雲雲崖に本地垂れよし」は昔深夜ラジオで受けた歌が元ネタという指摘をされる方も。ただもっと面白く書けたはずだという意見も。

☆「浮舟」(小池昌代)も文章が好き、艶めかしさが好きという意見が複数の方から出ました。浮舟を読めるよう(な年齢)になった自分と浮舟とを対比させているのが良い。浮舟もつまらない女なのに小池昌代が書くとこう面白くなるのかと感じたという意見も。一方、もう少しなんとかならなかったのかという意見もありました。

☆「若紫」(角田光代)も黒くて良い感じ。14歳にして女のしたたかさが書かれていて良い。昭和の女給風という意見もありました。一方、光源氏を理想化し過ぎていて好みではないという意見もありました。

☆「夕顔」(江國香織)は文章が綺麗、江國さんらしい文章、と文章に惹かれた方が多かったです。

☆「柏木」(桐野夏生)では女三の宮の視点で彼女の辛い立場が良く描かれている。また老いた源氏を見せている面もあって面白いという意見がありました。

☆「葵」(金原ひとみ)は好きじゃないという方が多かったです。源氏物語をめちゃくちゃにしていて、こういう話なら読まなかったという方も。一方、出産の血や胎盤のムッとする匂いが描かれている点を評価する方もいました。

☆「須磨」(島田雅彦)は書くべきエピソードがまだあったはずという意見がありました。

【講師よりコメント】
・平安王朝の男女関係という面もあるが、光源氏の権力欲、これをしっかり描いているのが源氏物語の重要な要素。

・平安王朝は天皇家の権力争いで、近親で結婚等を重ねるので血も濃くなる。その中で、母への憧れや、ままにならない女に惹かれてしまう、という男の性が良く描かれている。

・課題本に関しては、源氏物語を翻訳するか翻案するかをそれぞれの書き手が選択している。その上で、金原ひとみは源氏を育てる視点を取ったし、町田康はある種の伝統芸である茶化し物という体裁を取った。また松浦理英子は何でと思うくらい素直な現代語訳を選択した。

・時代が移っても感情は変わらない。これを物語中の出来事を通して、多角的・多視点で捉える小説となっている。全ての作品が一人称で書かれていることがその一つの答え。

・時代の風俗を書き込んで、そこに人というものを描いていくという風俗小説の難しさは、すぐに古くなってしまうこと。現代なら10年でも古くなってしまう。時間が経つと読まれなくなってしまう。一方、源氏物語はこれからも続くであろう人の営みの原型が描かれている。

・もう一つ、歌というのも重要な要素。感情を表す手段として「歌」を使っていることを忘れてはいけない。

・源氏物語の現代語訳では与謝野晶子や円地史子などは随分自分の想いを入れている。与謝野は歌人なだけに特に歌も大事にしていた。原文に忠実なのは谷崎潤一郎。

・映画の話だが、「源氏物語 千年の謎」(2011年公開)の原作の高山由紀子の小説(「源氏物語 悲しみの皇子」)では、紫式部が仕えた中宮彰子(道長の娘)に読ませて聞かせているという体裁を取っている。これにより、紫式部が生きている現実の王朝と光源氏が出てくる架空の王朝の二つを描く構造になっている。

・課題本でいうと、「葵」(金原ひとみ)はいかにも金原らしいし、「夕顔」(江國香織)と「若紫」(角田光代)はやはり飛び抜けて上手い。「須磨」(島田雅彦)はう~んといった感じだった。「浮舟」(小池昌代)は浮舟の一人称にすることで男を描いていて、原文にはない書き方になっている。

・源氏物語に関しては単に恋愛ものというだけではなく、光源氏の権力欲をしっかり描いているということ、そして平安王朝の人間関係が背景として描き込まれている点が重要なところ。


以上、自分では思いつかないような意見も沢山聞け、そして講師の先生からも「光源氏の権力欲」という、あまり意識していなかったけど、言われてみれば物語全編を色付けている要素についても指摘してもらえて、今回もとても有意義な例会でした。どうもありがとうございました。 


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