昔の望遠鏡で見ています

オズマについて

 オズマは、よく考えられた姿をしている。レンズが集めた光線の通り道の鏡筒は、円筒状の必要はない。光が収束する接眼部側は、より小口径の望遠鏡の部品を使えば、コストの削減もできる。オズマの製作者は、いろいろ工夫を凝らし、この形状にたどり着いたのだろう。




 天文ガイド1970年11月号の「天体望遠鏡をテストする」で、ビクセン オズマ80号 8㎝屈折経緯儀について詳しく述べられている。富田弘一郎は、”今回の製品は画期的な超低価格の8cm屈折ということでとりあげました。27,800円と価格を下げることに成功した秘密は、ビクセンエーターカスタム6cm屈経をベースに、いわゆるチューンアップしたもので、三脚・架台と鏡筒の一部をそのまま転用し、太い鏡筒をつぎ足して8cmとしたものです。設計、試作、量産用の金型、木型などの経費がぐんと安くついてこのような価格となったものです。”と、その設計思想を高く評価している。






 対物レンズセルの保持方法が独特である。先の天文ガイドの記事中では、”セルの鏡筒への取付がおそまつです。3本の6mmネジで鏡筒の外側から引っ張って吊ったようになっているだけです。筒の方には10×6.3mmの楕円穴があって、取付けネジをゆるめてセルを傾け光軸修正ができます。3本のネジの頭はローレットが切ってあって、指で回せますが、冬期にはずいぶんむずかしいと思われます。ここはドライバーを使って回すようにするべきでしょう。”と述べられている。当該鏡筒は、改良ずみでドライバーで回せるようになっていた。

 ただし、”楕円穴のために、ワッシャーが当ててあるのはもちろんです。筒の厚みが薄いため、引きネジで吊っただけですが、少々の振動ですぐ狂ってしまいます。今回は充分光軸修正をしておいて3時間ほど車で運んだところ、ずいぶんずれてしまっていました。もう少しなんとかならないでしょうか。”という部分は、改良も難しかったのであろう、残念ながらそのままであった。




 黒色の接続金具の外周にV型の切込みがあるので、不思議に思ったが、記事では、”・・・接続金物へは差込みで、3本の5mmビスで固定し、内部には1カ所遮光絞りが入っています。内側のツヤ消し塗装は上等ですが、外装は少し弱いようです。接続金具は他機にはない部品です。外径100mmと63mmの筒をつなぐもので、軽金属鋳物で立派なものです。ツバの外径はなぜかずいぶん太くなっています。ツバの部分の3ヵ所の切込みは、5mmのネジのタップ加工の都合によるものだそうです。”と説明されていた。



 繰り出し部も肉厚で、丈夫な造りである。

 この望遠鏡が作られてから半世紀が経過しているが、少々欠点はあるにせよ、その独創性の素晴らしさは色褪せていない。接続金具の形状も独特で、醸し出される雰囲気は、望遠鏡の概念を超えている。この存在は、文字どおり ’ 超望遠鏡 ’ とも言うべきものだと思う。





 詩集「天体望遠鏡」(著者 加藤正明 昭和31年 発行所 詩宴社)のあとがきに、興味深い表現があったので、一部を抜粋して紹介したい。
 ”・・・天体望遠鏡は闇夜に向けるが良い。そしてなるべく根気に覗くが良い。影像のヴェールを一枚一枚丹念に覗き、覗くだけでなく深くその拠りどころについて考えてみるが良い。そしてその影像の正しい姿を見ることができたとき、私たちはいつの間にか天から地上を見ていることになるかも知れない。まさしく天体望遠鏡とは天を見るものではないだろう。・・・”

 オズマは、天を見るために作られたが、いつしかそれを超え、古スコファンにその存在を鑑賞される対象になっているのではないかと思う。



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