昔の望遠鏡で見ています

二本のニコンの8cm

 二本のニコンの8cm鏡筒を、比べてみました。


 左が製造番号7001*、右が7140*です。左側の対物レンズ枠の周囲には、スペックが刻印されていますが、右にはありません。

 ニコンの8cm天体望遠鏡に関する詳しい情報が掲載されているHP「昔の趣味は何でしたか?」の、” ニコン8cm昭和49年モデル ” で紹介されている71から始まる番号から類推すると、左右の鏡筒とも昭和49年より前に製造されたと思われます。



 上が製造番号7001*、下が7140*です。接眼部とファインダー脚部共に黒色塗装がなされていますが、表面の仕上げが異なっています。上はなめらかですが、下は細かな凹凸が付けられています。また、ファインダーを保持する部分の外周の形状も、上は直線的な円筒ですが、下は端部の厚みを増した形状となっています。

 なお上の鏡筒には、後のニコン6.5cm用ファインダーが装着されていることと、下の鏡筒の塗装は少し焼けた状態であることに、ご留意ください。

 先のHP「昔の趣味は何でしたか?」に紹介されている鏡筒では、ファインダーを保持する部分の端部が厚みを増しているのに加え、塗装の表面には細かな凹凸が見られるので、製造番号7140*と同様なのですが、一方対物レンズ枠の周囲にはスペックが刻印されていますので、この部分は製造番号7001*と同じになっているようです。

 このように仕上げの統一性は認められませんでしたので、もう少し多くの鏡筒の情報が集まれば、仕上げ等の変遷について判ってくるのではと思い、昔の雑誌やカタログ等を見てみました。

 天文ガイド1968年3月号に、関連した記事がありました。富田弘一郎は、「新製品紹介 日本光学8cm屈折望遠鏡」の中で、” 日本光学工業株式会社から8cm屈折望遠鏡が新しく発売されました。この望遠鏡は計画の当初に筆者も相談にあずかった立場もあり、また価格が少し高く,今まで本誌でテストした器械と多少趣を異にしてしていますので,今月にかぎりテストではなくて新製品の紹介という形で記すことにします。・・・小口径機としては,戦後いち早く5cmと6.5cmの屈折赤道儀を発売しましたが,そのすぐれた光学性能は天文ファンを魅了したものでした。この器械は数年前に在庫がなくなり惜しまれていましたが,これにかわる8cmが発売となったわけです。この望遠鏡は同社が2年以上の歳月をかけて研究開発しただけあって,なかなか特徴のあるよい望遠鏡となりました。望遠鏡の生命である光学系は定評あるニコンの技術によって製作されたもので,球面収差,コマ収差,色収差の補正が最良となるように設計されています。・・・ ” と述べていますが、紹介した鏡筒のシリアル番号や塗装の詳細までは記載されていませんでした。ただし掲載された写真をよく見ると、ファインダーを保持する部分の外周の形状は直線的な円筒状に見えました

 Nikon 8cm屈折天体望遠鏡 使用説明書(裏表紙の右下に72.7cと記載されているもの)には、何枚かの写真が掲載されていますが、ここでも対物レンズ枠の周囲や塗装の仕上げまでは判別できませんでした。一方、ファインダーを保持する部分の形状についは、製造番号7001*と同じ直線的な円筒状であることが認められました。”72.7c”が、1972年7月を意味しているとしたら、昭和47年においても、発売当初から変わらずこの形状だったということになります。

 これらの資料から、ファインダーを保持する部分の形状は、昭和47年から49年の間に変更されていたのではないかということが、想像できました。

 先の天文ガイドの記事を書いた富田弘一郎は、辛口で有名な東京天文台員でしたが、ニコンの8cm望遠鏡についてはなかなか好意的だったようです。プロの目から見ても、ニコンの8cmは良く出来ていたのでしょう。

 このニコンの白い鏡筒を見るたびに、白い高級車の塗装を思い出します。質感が、同じ白でも他社の鏡筒とは違います。ニコン8cmは、デザインも良く質感も良く、光学性能もプロからもお墨付きをもらうという、まさに別物の鏡筒なのだと思います。

 



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