浮遊脳内

思い付きを書いて見ます

グローサーフント イン アクション 8

2011-07-21 00:28:05 | Weblog


グロフン (8)
 三つのロケット弾が尾を引いて森の中へ飛び込んでゆく。
 木々の中に吸い込まれて爆発が起きる。その白煙を引きずりながら、滑るように素早く横歩きする姿がある。四つ足を広げて低く構えたその姿は敵の、独立地球傭兵軍の装甲戦闘服と同じく印象をうけるまろみある姿だ。装甲戦闘服でありながら、重装備のために人型さえ捨てた姿だ。その四つ足の姿は、砂色の迷彩の右に備えた火器をこちらへと向ける。そして放った。
 超音速の砲弾が森を駆け抜け、突き去る。飛び散る枝葉の中をグローサーフントたちは機敏に駆ける。応射のレーザを迸らせる。乾いた森の中を火箭が走る。グローサーフントは機敏に駆け、また足を止め閃光を放つ。こちらのグローサーフントは三機、あちらの四つ足も増援を入れて三機。数の上では遜色無い。だが敵の反応は鈍い。
 チャペック軍曹は思った。四つ足はスーパーAFSと比べても重装備で機動力もある。突破の前衛を担えるような戦力だ。その火力も強力だ。金属的な咆哮とともに森を駆け抜け、直撃した木を吹き飛ばす。文字通り。幹も枝も葉も、そこから大きく飛び散って、木はその姿を失う。けれど、その火力は集中運用されていない。攻撃的な集中射撃ではない。
 チャペック軍曹にはその理由もわかっていた。ここは敵である傭兵軍にとって価値のある地域ではないのだ。機動戦闘の経緯でここに追い込まれただけだ。敵はその失策に重ねて、ここで戦力を消耗することを嫌がっている。
「押すぞ」
 軍曹は命じかけ、言葉を改める。グローサーフントたちには明確に戦術意図を伝えなければならない。
「第一小隊グローサーフント、右端標的へ集中攻撃を行え。パンツァーシュレック、確固射撃。目標は第一小隊長が照射指示する」
 チャペック軍曹はレーザアームを構える。木々の間に見え隠れする四つ足へ標示射撃を放った。グローサーフントたちは次々に応答符号で答える。そして身をかがめ、背中に備えたパンツァーシュレックの発射筒を向ける。白煙がほとばしる。一発が森を飛びぬける。続けて二機目のグローサーフントが二発目を放つ。噴煙の尾を引いて低く飛んだそれは森の中に吸い込まれる。爆発が起きた。それまでに無かった黒煙が噴出す。それを引きずりながら四つ足が退き、へたり込む。
 最後のグローサーフントが身をかがめパンツァーシュレックを放った。煙を上げる四つ足に吸い込まれ、弾ける。残る四つ足は二機だ。
 四つ足の一機が発砲する。輪のような衝撃波を残して後ろへ退く。四つ足を繰り動かし、茂みを割って退いてゆく。二機目の四つ足もまた同じだった。右に抱えた砲を放つ。発砲炎もなくけれど超音速の衝撃波をまといながら長重弾が飛びぬける。
 着弾の衝撃も鋭く高く響く。グローサーフントの一機が仰け反る。部品を撒き散らし、もんどりうって倒れる。
「退かせるな!食いつけ」
 ここで敵を逃すわけには行かない。敵の四つ足は、それを繰り動かしながら森を退いてゆく。こちらに正面を向けたまま、それでも統べるようにすばやく退いてゆく。伸び出した枝を押し割り、茂みを踏み崩す。残った二機のグローサーフントも、四つ足を追って森を進む。
「第一小隊長より中隊本部へ。第一小隊正面の敵は後退中。200~300mで森縁へ到達する」
 森では見通しが効かない。兵士個人を機械化し装甲化する装甲戦闘服は、直撃を受けない限り能力を喪失しない。劣勢な側も戦力を維持できる。それが敵がこの森に集結した理由だった。だからこそ、この森に兵力を投入して、近接戦闘で叩き合ったのだ。その圧力に押し切られて、敵が林縁へと退くならば、そのときこそ砲撃を誘導して叩くべきときだ。
「中隊本部、聞こえるか。こちら第一小隊長」
 かすかに苛立ち、チャペック軍曹は舌打ちをする。中隊長と中隊准尉の二人は、それぞれにホルニッセに搭乗して空中から指揮をとっている。空中からなら状況を把握しやすく、砲撃支援の誘導も行いやすいからだ。
「・・・・・・」
 だが応答が無い。中隊本部は空中指揮をとる二機のホルニッセだけではない。後方にも通信基地を設置して中隊の活動を支援しているはずだ。
『中隊本部より各小隊へ』
 ようやくの応答がヘッドセットに入る。
『空襲警報が発令された。中隊本部空中班は直上より一時退避する』
 驚き、軍曹はからだごと空を仰いだ。
 防護グラス越しに見える森の天蓋のさらに上を、二つの影が横切って飛び去る。中隊本部のホルニッセだ。言葉どおりに直上から退避してゆくのだ。
 それらの飛び去った青空に、何かがきらめいた。
 軍曹は目を凝らした。森の木々の向こうの青空の中に何かがある。遮光処理された防護グラス越しには良く見えない。だから軍曹は装甲ハッチを開いた。急に大きく爆発音や、砲弾の飛び去るときの衝撃波が響いてくる。それでも軍曹はからだごと森の天蓋の向こうの青空を見た。
 何かがふたたび光をはじく。ごま粒のように小さな、そして遠い何かが二つある。それはみるみる大きくなってくる。すぐにわかった。逆落としに舞い降りてくる敵の襲撃機だ。
「空襲警報!退避!」
 軍曹が言ったそのときだった。上空から光条が降り注ぐ。雷光のような光が森を貫き、地へと叩きつける長く引き裂くように走る。
 とっさに身を伏せた。噴射の轟音が森を揺らして上空を飛び去る。敵機だった。カウルに包まれた双発のエンジンをそれぞれ前に伸ばしけれど翼は持たない。持つのは遷移制動用のスタビレータだけだ。それをひるがえして二機は連れ立って鋭く切り返す。
 敵の情報は知っていた。翼を持たずとも、反重力装置によって飛翔する装甲戦闘機だ。二機だけなどではない。それまで空を制していたホルニッセを追い払うように押し寄せてくる。空戦が始まっていた。ホルニッセが揚力胴を傾け、四隅のノズルからの噴射を一杯にして旋回する。低く飛ぶ敵の反重力戦闘機へと追いすがる。
 チャペック軍曹は身を起こした。胸元のマルチディスプレイに目を落とす。二機のグローサーフントは機能を維持していた。
「バーダー、聞こえるか。状況報告」
『小隊後列に異常なし』
 すでに四つ足を追求するどころではなくなっていた。敵の傭兵軍は森縁へと集結しつつあった。空中からの援護を受けて後退する為だ。それを援護するための空中からの銃撃とレーザ攻撃が繰り返し行なわれていた。反重力戦闘機は地上から打ち上げるレーザを怖れることもなく、無謀なほど勇敢に舞い降りてきて支援銃撃を行なう。
 森を盾にしなければならないのは、むしろチャペック軍曹たちシュトラール側だった。後退してゆく敵を阻むことはできなかった。追いすがるようにロケット弾が降り注いでゆくが数が少なすぎた。
 戦闘の行く末は、往々にして戦闘に直面している戦闘員とは別のところで決まる。小部隊同士の戦闘では、強力な航空支援が状況を一変させてしまうこともある。
 そのように思うことは、いささか負け犬の遠吠えに似ているのかもしれない。
 だがもう何年もこんな小さな戦闘を繰り返し、積み重ねる戦争をしてきた。この後も終わりなくそれが続くのかもしれない。
 あるいは幾度か、互いが試したように戦争を決するための作戦がくわだてられているのかもしれない。何が起きようとしているのか、戦争の犬に過ぎないチャペック軍曹にははかりかねる。
 けれど犬というものは、高く鼻をもたげて意外に広くあたりの事を知りもする。

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