にいはんは周回遅れ

世間の流れとは違う時空に生きる

朝日には苦闘の1年に見えたらしい

2007-11-29 | オーマイニュース

11月27日の朝日新聞朝刊社会S面(東京本社14版)に、『「オーマイニュース」苦闘の1年』というタイトルの記事が掲載されました。石川智也記者による署名記事です。結構大きなスペースを割いての掲載でしたので、一部引用を交えながら記事の概略を紹介し、ところどころツッコミを入れていきたいと思います。(引用部分はイタリック体で表示、フォント変更・太字・改行は筆者)


リード(前文)

鳴り物入りでスタートした日本版オーマイニュース(以下OMN)が目指す「実名主義」「責任ある言論」は、匿名性の高い日本のネット文化のせいで苦戦している。

適当にまとめてみましたが、別にどうということはありません。石川(智)記者はOMNが未だに「実名主義」を掲げていると思っているようです。その前提がなければ、OMN苦戦の原因を日本のネット文化のせいにはできませんから、現状には目をつぶってこのリードを書いたのでしょう。


小見出しその1

匿名の中傷、なえる記者

なぜ市民記者は辞めてしまうのかがOMN内に波紋を広げている。編集部提供のデータを元に現状を暴露したからだ。その中では記事を修正された元記者の反発なども紹介している。この記事がきっかけでコメントや新たな記事による議論が起きた。

編集部も10月、平野日出木・編集次長名の記事で「批判は真摯に受け止めるが、数字の使い方がミスリーディングだ」などと反論した。「こうした批判記事が載り、議論の過程が公開されること自体が市民メディアらしい」。元木昌彦編集長は言うが、実際広がりの足は鈍い。

創刊当初1日100万のページビュー(以下PV)があったが、現在は平均20万ほど。記者数も現在約4千人と、1年で1万人の目標には遠く及ばない。

初めから、匿名が主流のネット文化と衝突、翻弄されての船出だった。

(略)鳥越俊太郎初代編集長のゴミタメ批判に端を発するサイト炎上、オピニオン会員廃止等これまでの出来事が紹介される。

今年4月からは、匿名のコメントを受け付けるかどうかを記者が選べるようになったが、以降の記事約6300本のうち、コメント拒否は3分の2原則の「実名主義」も、中傷対策としてペンネームで記事を執筆する人が1割いる。

(略)佐々木俊尚氏のコメント。オピニオン会員廃止騒動当時と変わらない批判的なスタンス。石川(智)記者は「手厳しい」と評している。

まず木舟周作記者の記事の紹介ですが、とにかく浅い。未編集掲載とはいえ、記事の内容はデータを元にした編集部への提言で、その一部だけを取り上げて暴露などというのは、木舟氏に対しては勿論、自分達にとって耳に痛い記事をきちんと掲載したOMN編集部に対しても非常に失礼な表現です。

また、記事を修正された元記者というのは、田村圭司記者の事を指していると思われますが、その後コメント欄で編集部の対応についての報告がありますから、元記者という表現は誤りです。おそらく、木舟氏の記事にある記事投稿をやめてしまった元・記者という部分に反応したものと思われますが、これはあくまで木舟氏個人の感覚に基づいた表現で「市民記者登録を解消しない限りは市民記者」というOMNの考えとは異なります。

次に数字の面からみると、1日平均20万というPVに関しても疑問が出てきます。ちょうど1年前のJ-CASTニュースにも、OMN広報担当のコメントとして1日20万PVという数字が紹介されています。しかし、AlexaのグラフではPVの落ち込みがしっかりと確認できます。3ヶ月前に、編集部は宮本聰記者が記事で紹介したPVの推測値について以下のような注釈をつけていました。

宮本記者の提示した数値は、実態からかけ離れておりますが、トレンドとしては正しいため、掲載しました

推測値がトレンドとして正しいのであれば、1年前と現在の1日あたりのPVが同じというのはいかにも不自然な話です。PVを比較するのであれば、創刊当初ではなく1年前のそれと比較した方がよりリアルな数字が出てきたものと思われます。PVは本当に1年前から変わっていないのでしょうか?

そして、匿名(未登録者)のコメント受付に関する記述がまたひどいものです。匿名のコメントを受け付けていないのが全体の約2/3という比率は正しいものと思われますが、その全てが匿名のコメントを拒否しているというのは、ミスリードを招く表現です。石川(智)記者は、編集部から提供されたデータの上っ面しか見ていないのでしょう。匿名コメントを受け付けないのがデフォルトの設定である事や、常連記者であっても匿名コメント欄の存在を知らない人がいる現状を知らずに書いたとしか思えません。

ペンネームの執筆者が1割いるというのは、おそらく初めて対外的に公開された数値だと思われます。この比率は興味深いものではありますが、その全てを中傷対策とひとくくりにしている点には首を傾げざるをえません。署名ポリシーを明らかにしているOMNがそのような事を石川(智)記者に話すとも思えませんし、そこにはネット上の匿名をどうしても悪者にしたい朝日の意図が透けて見えます。


小見出しその2

広告低調、親会社頼み

(市民メディアの)多くが無料サイトのため広告収入に依存するが、閲覧者が伸びず収益につながっていない。

OMNの場合、「収支を合わせるのはとても無理。赤字は億単位」(元木編集長)。広告収入と記事の配信収入で8割に達するという本家韓国法人とソフトバンクに頼らなければ、運営は維持できない。

(略)JANJANでは運営費3億円のほぼ全ては親会社からの広告収入。竹内謙社長のコメント「市民メディアは武士の商法。結局は親会社の心意気次第」。
ライブドア本体から切り離され別会社化されるPJニュースの例。小田光康編集長のコメントコスト構造を変えるのは、閲覧が飛躍的に増えない限り無理

OMNは大量退職が始まった団塊世代を取り込むキャンペーンも計画中だ。

(略)市民メディアにとってはブログが競合相手。竹内氏は楽観的に受け止めている。

一方、佐々木さんは「日本の市民メディアと、ブログ的なものとの親和性は低い。拡大のためには、匿名が主流のブログ文化をすくい上げていくしかないが、団塊世代を中心にした市民活動的サイトとして一定の地位にとどまる道もある。どっちつかずでは人が離れていくだけだろう」と話す。

こちらは石川(智)記者の主観が入っていないように感じられるせいか、比較的すんなり読む事ができました。赤字は億単位という元木氏のコメントは、外部から見ていてなんとなく想像はできても、実際に編集長の口から聞くと改めてずしんと響くものがあります。平野次長が3月に武蔵大学で述べた「お金を燃やし続けている段階」が今も続いているという事なのでしょう。前述のJ-CASTの記事によれば本家も楽ではないとのことですし、現段階で収支を合わせるのは無理にしても、ソフトバンクにおんぶにだっこの状態がいつまで続くのか、たいへん気になるところではあります。

そこで出てきた新事実が、団塊世代を取り込むキャンペーン。 

計画→実行→いつの間にかなかった事

OMNではよくこういう事がありますが、それが成功につながるのならばやってみる価値はあるでしょう。しかし、団塊世代の取り込みが、今でも内輪でゴニョゴニョやっている印象が強いOMNにもう一つの仲良しクラブを作るだけに終わる可能性もあります。佐々木氏のコメントはOMNだけではなく市民メディア全体を念頭に置いたものですが、既に市民活動的サイトにはJANJANが踏み出している気がしますし、そちらの方向ではもっと気合が入った感じのNPJというメディアも先日発足しました。

今から他の市民メディアの後を追うのか、ブログ文化をすくい上げるなりして他の方法での浮上を模索するのか、OMNの選択が注目されるところではありますが、最後の佐々木氏のコメント「どっちつかずでは人が離れていくだけだろう」この部分には私なりに強く共感します。

このエントリで紹介した記事については、OMNでも矢山禎昭記者が自身の記事のコメント欄で簡単な感想を述べています。そこにある「書かれていることは1年前の状況」「木舟氏の記事を暴露とは大げさ」といったあたりは、まさにその通りと思いました。

ただし、問題だと思うのは1年前の状況が1年経った今になってもほぼそのまま通用してしまう部分も多い事。実名主義云々は別にしても、ビジネスモデルの確立といった点では飛躍的な前進があったようには思えません。

過ぎてしまった時間を取り戻す事はできませんが、1年後にも同じような記事を他のメディアに書かれぬよう、拙ブログでも同じようなエントリをアップせずに済むよう、OMNには方向を決めて前に進んで欲しいものです。


【おまけ】
朝日記事本文の脇に、市民メディアについての簡単な説明がありました。その中からOMNについて書かれた部分を一部抜粋します。特にコメントはありません。

鳥越俊太郎・初代編集長に代わり今年2月から、元週刊現代編集長の元木昌彦氏が指揮を執る。


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