Mが病を得てからは一般的な暮らしのために必要な多くの知識を忘れてしまった
こんなMについては担当医から私に対して 「痴呆症でもアルツハイマー病でもありません」 と勇気付けられるコメントをいただいている
Mの脳裏はパソコンのようだと私は考えている。脳裏にはたくさんのフォルダがあって、更に幾つものファイルが実在していると思うが、そのファイルを開くにはPW (パスワード) が必要だが、そのPWの多くをMは忘れてしまったのだろう?
しかし、中にはPWを憶えていて 「文字を読む、文字を書く」 などのファイルは簡単に開いて記憶を蘇らせているからいったいどのような脳裏なのだろうか?
だがあんなに料理上手だったのに 「料理のファイル」 だけは完全にPWを忘れて固く閉ざされたままなのは何故だろうか?
こんな調子のMだが時には私をびっくりさせる記憶を引き出すことがある
先日、私はある書類を作成していたがその中に 「Mの血液型」 を記入する欄があった。 「えっ? 血液型?」 と私は戸惑った。もう何年間も血液型などが必要なことは無かったから、私はMの血液型を想い出せないのだ
この書類は特に重要度が高くは無いが、血液型を空欄で出す訳にもいかない。そこで次女に電話して訊ねると 「あまり確証は無いが●型では?」 とのこと。念の為名古屋に住んでいる長女にも確かめて後で連絡するとの返事だった
そしてM本人に確かめても判らないだろうとの先入観を持っていたが、もしかしたらと 「血液は何型か知ってる?」 とMに訊ねてみた。すると 「●型だよ。お父さんはB型だよ」 と、いとも簡単に私の血液型までも答えたのでびっくりした
それは娘が言ったのと同じ●型だった。それでもまだ私は本当かどうかを疑っていたが、その後、娘から電話があって 「やはり●型だよ」 と聞かされた
最初からMに聞いていれば良かったのに変な先入観を持ったことを反省したが、私にすればこのような血液型を記憶しているのに何故 「料理のファイル」 が開けないのだろうかとすこぶる不思議な気持ちになってしまった
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