百億の星ぼしと千億の異世界

SF、ファンタジー、推理小説のブログ。感想を出来る限りネタバレしない範囲で気ままに書いています。

上田早夕里 『魚舟・獣舟』(2009)

2012年12月13日 | SF 地球

カバーイラスト&デザイン――山本里士
(光文社文庫 う 18-2)


現代社会崩壊後、陸地の大半が水没した未来世界。そこに存在する魚舟、獣舟と呼ばれる異形の生物と人類との関わりを衝撃的に描き、各界で絶賛を浴びた表題作。寄生茸に体を食い尽くされる奇病が、日本全土を覆おうとしていた。しかも寄生された生物は、ただ死ぬだけではないのだ。戦慄の展開に息を呑む「くさびらの道」。書下ろし中篇を含む全六編を収録する。

華竜の宮』と世界観を同じくする冒頭の「魚舟・獣舟」を読めただけでももう満足なのに、この短篇集(解説によると短篇集+ショートノベル。この表現に納得)はそれだけに止まらず、個人的には後の短篇集『リリエンタールの末裔』よりも収録作の質が高く感じられました。その「魚舟・獣舟」は短いながらも『華竜の宮』の異様な世界で、育ちが同じなのに12年という歳月の間に異なる世界を選択した主人公である"私"と美緒との12年ぶりの再会が描かれ、せつなさを感じさせます。『リリエンタールの末裔』収録の「マグニフィオ」にも12年ぶりの再会という設定がありましたが、作者はこの"12年"という単位に何かこだわりがあるのでしょうか。「くさびらの道」はファンタジック・ホラーとでも呼びましょうか。「響応」はショート作品。『華竜の宮』ではSF仕立ての小道具として出てきた人工知性体が主人公。世界は違うようですが…。「真朱の街」もファンタジック・ホラー。「くさびらの道」よりは明るい設定でSFでなくとも楽しめました。「ブルーグラス」は作者お得意の海洋ものは海洋ものなんですが、ちょっと弱かったかな。「魚舟・獣舟」目当てで入手した本書ですが、なんといってもハイライトは「小鳥の墓」。SFクライム・ノベルとでも言うべきこのショートノベルはヤバいです。何がヤバいかというと主人公に共感してしまう自分がいるんです。半分は理性というか善悪判断で否定しながらも、半分は自己投影し主人公になっている自分がいます。つまり半分は主人公に同化してしまって、客観的に読めないんです。舞台は唐突に地球から火星へと移ります。そして解説によるとこの「小鳥の墓」は未読の『火星ダーク・バラード』の前日譚だそうです。あぁ、この順番で読んで良かった。時間的推移が遡らなくて良かったからね。本書の半分以上のページ数を占めるこの短篇が書下ろし作品。いよいよ『火星ダーク・バラード』に期待が高まります♪


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