システム更新や移行を原因としたトラブル発生の場合は?
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### **システム更新・移行時のトラブル原因と予防策**
システム更新(バージョンアップ、クラウド移行、アーキテクチャ変更など)に伴う障害は、**「計画不足」「テスト不備」「依存関係の見落とし」**が主な原因です。NEXCOのETCシステムのような社会インフラでは、特に慎重な対応が必要です。以下に具体的な原因と対策を解説します。
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## **1. システム更新/移行時の主要なトラブル原因**
### **(1) ダウンタイム計画の不備**
- **例**:
- データ移行中にETCゲートが動作停止。
- バッチ処理時間を過小評価し、リアルタイム決済が遅延。
### **(2) バージョン互換性の問題**
- **例**:
- クレジット決済ライブラリ(例: Stripe API v2 → v3)の非互換変更でエラー。
- Oracle 11g → 19c移行時のSQL文の挙動差異。
### **(3) データ移行の失敗**
- **例**:
- レガシーDB(COBOLファイル)からRDBMSへのデータ変換で文字化け。
- シャーディングキーの設定ミスで、決済データが分散不均等に。
### **(4) 依存サービス連携の破綻**
- **例**:
- 外部API(警察庁の車両認証システムなど)の仕様変更に気づかず。
- マイクロサービス化でサービス間の認証(mTLS)が機能しない。
### **(5) ロールバック手順の未検証**
- **例**:
- 更新失敗時に旧システムへ復旧できず、長時間のサービス停止。
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## **2. 障害を予防するための対策**
### **(1) 段階的なロールアウト(カナリアリリース)**
- **手法**:
- 更新版を**一部の路側機(5%)に限定導入**し、問題がないか監視。
- **A/Bテスト**で新旧システムを並行稼働。
- **技術例**:
- Kubernetesの**カナリアデプロイメント** + **Istio(トラフィック分割)**。
### **(2) 包括的なテスト戦略**
| **テスト種別** | **実施内容** |
|----------------------|-----------------------------------------------------------------------------|
| **結合テスト** | 決済API・DB・路側機ハードウェアを統合環境で検証。 |
| **負荷テスト** | LocustやJMeterで**ピーク時トラフィック(例: 年末渋滞時)**を再現。 |
| **ロールバックテスト** | 更新失敗時に**15分以内で旧システムへ復旧**できることを確認。 |
### **(3) データ移行のベストプラクティス**
- **ダブルライティング**:
- 移行期間中、**新旧DBへ並行書き込み**し、不整合を防止。
- 例: Oracle RAC → CockroachDB移行時、**CDC(Debezium)でリアルタイム同期**。
- **データ検証ツール**:
- **Great Expectations** で移行前後のデータ一致性を自動チェック。
### **(4) 依存管理の徹底**
- **依存関係マップの作成**:
- 「ETCシステムが依存する全外部サービス(クレジットカード会社、車両認証DBなど)」を可視化。
- **API契約テスト(Pact)**:
- 外部APIの仕様変更を**CI/CDパイプラインで自動検知**。
### **(5) モニタリングと自動復旧**
- **リアルタイム監視**:
- **Prometheus + Grafana** で「決済成功率」「DBレイテンシ」をダッシュボード化。
- **自動ロールバック**:
- **Argo Rollouts** で「決済エラー率 > 5%」の場合、自動で旧バージョンに切り戻し。
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## **3. 緊急時のトラブルシューティング手順**
### **【ケース1】データ移行後の性能劣化**
1. **即時対応**:
- 負荷の高いクエリを**SQLログ(AWS RDS Performance Insights)**で特定。
- インデックスを追加または**クエリリライト**。
2. **根本対策**:
- **ピーク時の負荷テスト**を実施し、**DBスケールアウト(CockroachDBノード追加)**。
### **【ケース2】API互換性エラー**
1. **即時対応**:
- 旧バージョンのAPIエンドポイントを一時的に再有効化。
- **APIゲートウェイ(Kong)**でリクエストをリダイレクト。
2. **根本対策**:
- **Pact契約テスト**をCIパイプラインに組み込み、事前に検知。
### **【ケース3】ハードウェア連携障害**
1. **即時対応**:
- 路側機のソフトウェアを**ローカルでダウングレード**。
2. **根本対策**:
- **エッジコンピューティング(AWS Greengrass)**で路側機の自律動作を可能に。
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## **4. 社会インフラシステムの更新で特に注意すべき点**
### **(1) ゼロダウンタイム移行**
- **Blue-Greenデプロイメント**:
- 新旧システムを並行稼働させ、DNS切り替えで瞬時に移行。
- 例: **AWS Route53の重み付けルーティング**を活用。
### **(2) 規制準拠の維持**
- **PCI DSS(決済セキュリティ)**:
- 更新時に**トークン化**や**暗号化スキーム**が無効化されないよう検証。
- **道路交通法関連**:
- 路側機のソフトウェア更新は**国土交通省の認証**が必要な場合あり。
### **(3) 地域特性の考慮**
- **例**:
- 山間部では**5G通信が不安定**なため、更新時はDSRCフォールバックを維持。
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## **5. 結論:ETCシステム更新で実施すべき7つのアクション**
1. **段階的ロールアウト**で影響を限定。
2. **依存関係マップ**を作成し、外部連携のリスクを可視化。
3. **データ移行はダブルライティング**で安全性確保。
4. **自動ロールバック**可能なデプロイ設計を採用。
5. **ピーク時の負荷テスト**を必ず実施。
6. **路側機の自律化**(エッジコンピューティング)で信頼性向上。
7. **規制認証の事前取得**で法的リスクを回避。
**社会インフラの更新では「絶対に止めない」ことが最優先です。**
**「テスト」「監視」「自動復旧」の三重の安全策で、トラブルを未然に防ぎましょう。**