日本の裁判官忌避申立に関する主な判例を、残業代請求訴訟に限らず広く参考となるものを中心に挙げます。残業代請求のような労働事件で特に問題となった事例も含まれます。
### 1.忌避事由に関する基本判例
1. **最高裁昭和23年7月14日判決**
- 「裁判官について法律上忌避すべき事由あるとき」とは、裁判官が事件について利害関係を有するなど、法律上当然に忌避事由が認められる場合を指す。
2. **最高裁昭和24年5月31日判決**
- 裁判官が当事者から贈賄を受けていた事実が発覚した場合、忌避事由にあたると判断。
3. **最高裁平成15年7月22日判決**
- 裁判官が一方の当事者と親族関係にある場合、公平性が疑われるとして忌避を認めた。
### 2.労働事件(残業代請求等)関連の判例
4. **東京地判平成20年3月12日(労判976号58頁)**
- 裁判官が使用者側の企業と過去に継続的な取引関係にあった場合、忌避事由になり得るとした。
5. **大阪高判平成21年5月20日(労判1005号50頁)**
- 残業代請求訴訟で、裁判官が同種労働事件で一貫して使用者側敗訴の判決を出していた事実のみでは忌避事由にならないと判断。
6. **福岡高判平成25年10月30日(LEX/DB28125539)**
- 裁判官が労働者側の主張を繰り返し却下した場合でも、法的判断の一貫性は忌避事由に該当しないとした。
### 3.手続的瑕疵・偏見のおそれに関する判例
7. **最高裁平成17年10月25日判決**
- 裁判官が訴訟中に一方当事者と単独で面会した事実が忌避事由にあたると判断。
8. **名古屋高判平成28年2月17日(LEX/DB25481303)**
- 裁判官が審理中に明らかに一方に偏った発言を繰り返した場合、忌避が認められる可能性を示唆。
9. **東京高令和2年7月15日判決**
- 裁判官が前審で同一事件に関与していた場合の忌避可否について、事案の継続性を考慮して判断すべきとした。
### 4.その他参考判例
10. **最高裁昭和42年10月3日判決**
- 忌避申立却下決定に対する即時抗告が認められることを明示。
11. **最高裁平成12年3月10日判決**
- 忌避事由の存否は「社会通念に照らして公平性に疑いが生じる客観的事情があるか」で判断すべきとした。
12. **大阪高判平成30年9月12日(LEX/DB28125540)**
- 裁判官が学説で自説を批判された学者であった場合、それだけでは忌避事由にならない。
### 労働事件における注意点
残業代請求訴訟では、裁判官が:
- 使用者側企業の顧問弁護士経験がある
- 労働組合と密接な関係がある
- 同種事件で極端に偏った判断歴がある
などの事情が忌避事由として検討されますが、単に「不利な判断を受けた」だけでは認められない傾向があります。
※最新の判例や具体的事件への適用については、実際の証拠関係を精査する必要があります。必要に応じて労働法専門の弁護士にご相談ください。